表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
筆の軌跡 **「未」**  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/150

【第2話】運命の筆先

天童あすかは、硯の前で腕を組んでいた。


 入学式の数日後。放課後の書道室は窓が開け放たれ、外の風がカーテンを揺らしている。机には、あすかの筆と半紙、そしてやけに黒光りする墨。


 その隣では、佐々木志津香が静かに筆を持ち、さらさらと一筆を書いていた。


(なんか、見てるだけでムカつく……)


 そう思うくらい、志津香の筆は滑らかだった。止めも、払いも、まるで風のように自然。何より、書き終えた文字には妙な「説得力」があった。


「……なんでそんなにうまいの?」


 つい口にすると、志津香は筆を置き、あすかを見た。


「始めたのは小四。ずっと書いてるだけ」


「ふーん。才能ある人の口癖って感じ」


「あなたも、そうかもしれないわよ?」


「は?」


 あすかは眉をひそめた。志津香は立ち上がり、あすかの書いた紙を見下ろした。そこには、太い線と勢いだけで書かれた「道」の字があった。つぶれた止め、雑なバランス。けれど、妙に目を引く何かがある。


「豪快すぎる。でも、正直、嫌いじゃない」


「褒めてるの? けなしてるの?」


「どっちも。けどね、字って、書いた人の“芯”が出るの。あなたは――」


 志津香は少し考えてから言った。


「怖がらないで書く。でも、まだ“届いてない”」


 届いてない? なにが?


 あすかの喉の奥が、きゅっと締まった気がした。ムカつくのに、妙に刺さる。反論しようと口を開いたその時だった。


「おーい、だれかいる?」


 書道室の扉が開き、声が飛び込んできた。髪を肩で結び、真面目そうな眼鏡の少女が顔をのぞかせる。


「すみません、新入生歓迎の部活説明、今日ここでって聞いて……あ、先輩でしたか?」


「いや、違うよ。こっちも新入生」あすかが答えた。


 少女は安心したように頷く。


「よかった……わたし、山下真理子。書道部に、入りたいんです」


 あすかと志津香は、顔を見合わせた。


 こうして三人は、初めて同じ部屋に集った。墨の匂いに導かれ、別々の道から、この一室にたどり着いた。


 その筆先が、どんな線を描くのか――まだ誰にもわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ