【第149話】白紙のその先
春の陽が差す午後、静かな町の文化センターの和室。
そこに、三人は集まっていた。
天童あすかはパンツスーツ姿で、
佐々木志津香は黒のカーディガンに白いワンピース、
山下真理子はやわらかい色合いのシャツにジーンズ。
高校を卒業してから三年。
けれど、筆を手にする姿は、あの頃と何も変わっていなかった。
「緊張するなあ……」とあすかが笑う。
「緊張してるの、字に出そう」と志津香が返す。
「でも、こうしてまた書けるの、うれしいな」と真理子が呟く。
机の上には、一枚の大きな白紙。
三人で書くために、真理子が持ってきたものだった。
「この紙の上に、今のうちらを残そ」
白紙は、何も語らない。
けれど、何でも受け止めてくれる。
先に筆を取ったのは志津香だった。
その動きは静かで、呼吸のように自然だった。
彼女が書いたのは、左上――
「光」
かつての「灯」から繋がるように、それは確かな希望の文字だった。
次に筆を取ったのは真理子。
震えはもうない。まっすぐ紙の中心に向かって、一文字。
「地」
“足場”を意味するその字は、どこにいても“自分で立てる”証だった。
最後にあすか。
迷いながらも、豪快に筆を走らせた。
右下に、大きく書いた。
「飛」
教師として、また書き手として――この先の未来に、飛ぶために。
三つの文字が、それぞれの場所に立った。
繋がることなく、けれど調和していた。
それは、“離れていてもつながる”三人の在り方そのものだった。
しばらく、誰も喋らなかった。
ただ、墨の匂いと、春の光だけがそこにあった。
あすかが、ぽつりと言った。
「白紙ってさ……なんか、怖かった。
でも、今なら、もう怖くないかもな」
志津香がうなずく。
「白紙は、“何もない”んじゃなくて、“まだ書かれてない”だけ」
真理子は笑って言った。
「つまり、未来そのものってことやんな」
彼女たちは、それぞれの場所に帰っていく。
けれどこの一枚は、確かに「今の三人」がここにいた証だった。
書いた先に何があるかなんて、誰にもわからない。
でも筆を取ることでしか、“その先”には行けない。
白紙は、もう白紙じゃない。
“未来へ渡る筆”が、そこに軌跡を刻んだから。




