76話 助けてほしかった。
76話 助けてほしかった。
――転生した先で、ユズは普通の家庭に生まれた。
普通に愛されて、普通に育ったユズは、
向けられた愛情を素直に受け止めて、比較的、まっすぐに育った。
性根の底に『黒い部分』があるのは事実……だが、そんなものは誰だって同じ。
完全に無垢で清廉な人間などそうそういない。
ユズが抱えている『根源的な悪意の量』が『相対的に多い』のは間違いないが、『ソレが暴走するキッカケ』さえなければ、普通に、ただの『ちょっと性格が悪い可愛い少女』として生きていられた。
そんな彼女の目の前で、両親はバグに殺された。
大好きだった父と母は、ぐちゃぐちゃに踏みつぶされた。
自分だって殺された。
痛みと孤独が記憶回路のゲートにリンクする。
なんでこんな目に遭わないといけないの……
アタシが何をしたっていうの……
死にゆく絶望の中で、
ふと空を見ると、偉大なヒーローが、バグと戦っていた。
世界の全てを救った大英雄。
世界中の『救いを求める声』に答え続けた理想の王様。
「たす……けて……」
必死に助けを求めたけれど、
ヒーローはこっちを向いてくれなかった。
バグを殺すのに必死で、周りを気にする余裕など一切なかった。
「せんおにいちゃん……」
必死に伸ばした手は傷だらけで、
血にまみれた心があまりにも重たくて……
――わかってた。
もちろん。
見れば分かるから。
センエースは、ユズ以上にボロボロになっていた。
必死だったってことぐらい、もちろん知ってる。
助けてくれなかったんじゃなく、助けられなかったんだって……もちろん、わかってる。
バグを殺すのに必死すぎて、誰かを助ける余裕なんてなかったことぐらい……わかってる。
わかってる……けど……
でも!!!
「それだけじゃない! 他の世界でもなんか色々あったなぁ!! ハッキリ覚えてないけどぉおおおおおおおお!! どこに行っても、あたし、地獄みたいな目にしかあってねぇじゃねぇかぁああああああああああ!!」
記憶回路のゲートで、断片的な記憶がシュレッダーにかけられて、
わずかにうつる残影を、静かに、けれど確かに、ユズの脳へと投影する。
事実、あらゆる世界線で、彼女の『因子』は、散々な目にあっている。
まるで、そういう星のもとに産まれたみたいに。
まるで、『せっかく優秀な悪意を持っている人間』なのだから『壊して利用しないともったいない』……と、世界に思われているみたいに。
「誰も助けてくれなかったぁああああああ! 日本にいたころだって! 『転生』してからだって! どこの世界でだって! そのもっと、もっと、もっと、前から! ずっと、ずっと、ずっと、誰もぉおおおおおおおお!!」




