75話 痛み。
75話 痛み。
――幼いころ、滅多に会えない父親に『お手製の誕生日プレゼント』を渡そうとしたら『母親そっくりの下劣な女だ』と吐き捨てられた。
当時のユズはまったく意味が分からなかったが、背が伸びた今なら多少は分かる。
ユズの母親は、ユズの父親に対して、ハッキリとタカっていた。
すこしでも金をむしりとろうと、あらゆる手を使っていた。
だから、父親は、ユズのプレゼントも、『母親に命じられて実行したものであり、同情を引いて、より多くの金を引き出そうとしたものでしかない』と判断した。
ユズは、ただ愛してほしかった。
少なくとも、当時の幼い少女は、ただ両親の愛情に飢えていた。
どちらからも愛されていないのは肌で感じていた。
でも、それは自分が何か悪いのだろうと思っていた。
だから、ユズは、母親に対しても必死に尽くした。
愛されようと、死ぬ気でいい子であろうとした。
けど、
『キモいから、かわいこぶるのやめなー』
必死の愛情表現を、けらけらと笑われて、小ばかにされた。
『鬱陶しい』と、暴力をふるわれた。
傷が残るほどではなかったけれど、ゴミ袋でも扱うみたいに粗雑に。
頑張って、頑張って、頑張って、
その全部を踏みにじられて、
――だから壊れた。
だからって『何をしても許される』というわけではないけれど、
『全ての責任がユズだけにあるか』というと、
『それもまた違うのではないか』と考えずにはいられない。
「苦しんで、苦しんで、苦しんだ分、他人にちょっと意地悪く絡むぐらい、ちょっと八つ当たりするぐらい、普通のことだろうがぁあああ! それだけで、なんでこんな目にあうんだよぉお!」
思いのたけを叫ぶ彼女に、
センは、
「……いや、お前が中学の時にやったことは『ちょっとした八つ当たり』とかのレベルじゃないんだが……あと、それだけじゃなく、現在進行形で、この世界の人間を一杯殺しているんだが……」
「おかしい、おかしい、おかしいいい! こんな世界ぃいいいいいいいいいいいい!!」
「……まあ、この世を理不尽に思う気持ちは分からんでもないが、お前の場合は、やっていることがえぐすぎて、文句を言う資格がなさすぎ――」
「分からんでもないとか、知ったかぶりすんな、クソ陰キャぁあああ!」
「さっきも、チョロっとだけ言ったが、俺も大概、色々な目に遭ってんぞ」
そこで、ユズは、髪の毛をかきむしりながら、グワっと勢いよく天を仰いで、
「――日本で学生やってた時は、確かに悪意に任せて無茶苦茶したけどなぁああ! 『転生』してからは、普通に生きてたぞぉお! 何一つ悪い事なんてしてなかったぁ! それでも理不尽に殺されたんだぁあああ! この世界は、アタシがどうしてようと、ずぅうっと、アタシに嫌がらせしかしてねぇじゃねぇかぁあああああああああああああああああ!!」
感情が暴走する中で、ユズはいくつかの記憶を拾い集める。
シナプスの向こう側が繋がっていく。
転生して、まじめに生きて、ヒーローに救いを求めた記憶が……泡のようにぷくぷくと……




