突っ張り1.親方、小さくなる
目が覚めると小さくなっていた。これは、よくある話である。しかし、相撲部屋の親方が小さくなった話は少なくとも私は知らない。なぜこんな事になったかというと…。
その日、私は風邪を引いていて、隔離された部屋で寝ていた。小さな相撲部屋の弟子達は4人いるが、決してサボらず朝稽古に励んでいた。
「いつ戦っても春桜関には叶わないな」
「俺だって最初は勝てなかった。稽古を積めば夏葵関も勝てる日がくる」
「僕は1度だけ春桜関に勝ったよ!」
「それはまぐれだよ、秋茜関」
「体重の軽い私でも勝てますか?」
「冬吹雪関は食トレをする事からだな。もう少し食べた方がいい」
「食べてるのに、太れなくて困るなぁ」
「この中では日が浅いから、じきに太ってくるさ」
「もう一度ぶつかり稽古をしよう。腰は常に低くしないとまわしを掴まれるぞ!」
「はい!」
隔離されてるとはいえ、弟子達が稽古に一生懸命である声や音が響いてくる。強くなれる日は近いだろう。
1番弟子の春桜関は現横綱だ。夏葵関は大関、秋茜関は関脇、冬吹雪関は小結である。
夏葵は春桜には稽古で勝った事がないが、他の部屋の力士達にはほぼ勝てている。ただ、あと少しで負けてしまうので大関止まりなのが悔しい。
「親方、大丈夫かな?」
「弟子が風邪を引いたら大変だから、基本は来なくていいって言われた」
「昨日の残りのちゃんこをおじやにしたのでそれを持ってきてと頼まれたから、私が行きます」
「冬吹雪関、よろしく頼んだよ!」
「はい!」
弟子達の朝稽古が終わったタイミングで昨日の残り物で作ったおじやを持って来てもらった。
「失礼します。親方、お加減はいかがですか?」
「冬吹雪、悪いな。私は熱が下がったから明日あたりには指導に戻れそうだと伝えてくれないか?」
「分かりました。回復しているようで何よりっす」
「稽古に励んでいる者は、いつか強くなれるから頑張れよ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
私は現役時代150kgあり、『華の海』という四股名で横綱まで上り詰めた。引退後は100kgまで体重は減ったが妻(後の女将)と結婚し、親方として部屋を作った。小さな部屋の為、女将が料理を振る舞い、私は稽古指導に専念した。しかし数年後、女将は病に倒れて亡くなってしまった。
弟子達に負担をかけぬよう、料理を1から学び、彼らに振る舞う事にした。もちろん、『鶏』の入ったちゃんこは欠かせない。水炊き風の鍋が皆のお気に入りだ。
冬吹雪に持って来てもらったおじやはいつも食べている水炊き風である。ただ、『鶏』は弟子達で食べてしまったようでなかったが、ゲン担ぎできるならそれでいい。出汁が効いたおじやはおいしく、残さず食べて眠りについた。
そして、冒頭に戻る。布団の中で、服ごと小さくなった私はぼう然としていた。暗い布団から何とか脱出して声を出した。
突っ張り2へ続く…
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