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事件が解決したら憑依探偵令嬢と呼ばれてしまうのでしょうか  作者: モチダ


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30/30

30 綴られなかった日記、そしてエピローグ

「次の日曜、午後の最初の鐘の頃、学園裏手のガゼボで」


とうとう、この日がやって来てしまいました。

待ち遠しかったような、来てしまうのが怖いような、とにかくドキドキして眠れないような、いえ、実際にはしっかり眠っていた訳なのですけれども。


待ち合わせの時間までもう少しです。

先生は来てくださるでしょうか⋯?

いえ、来てくださる、そういうお方だと言う事は分かっているのですが⋯


「悪い、待たせちまったか?」


先生です!!

先生が来てくださいました!!!


いいえ、全然待っておりません。

まだ待ち合わせの時間まであと5分です。

私が少しばかり早く着いてしまっただけですので、先生の5分前到着と言うのは素晴らしい塩梅だと思います。

と言う気持ちを込めて、全力で首を振ります。


「はは、そんなに首振ったらもげちまうぞ」


はわぁあああ、先生の笑顔です!!!

先生が笑って下さいました!!


あああ、休日の先生は普段学園でお見かけするより、もっともっと素敵です。

いえ、服装も何もかも普段と同じなのですが。

休日に先生にお会いできると言う特別感が、いつもに増して先生を素敵に見せていると言いますか。

とにかく普段の10倍、いえ、100倍輝いております。

眩しいです!!!


「座って待ってて良かったのに」


はっ。もしかして⋯

先生がどちらの方向からいらっしゃるか、と

ウキウキソワソワウロウロと歩き回っていたのを見られてしまったのでしょうか。

淑女にあるまじきです。お恥ずかしいです。


「⋯まあ、じっくり腰を落ち着けて話す内容でもないか⋯⋯」


先生が気まずそうに目をそらします。

ああ。とうとうこの時がきてしまいました。

迷惑だと怒られてしまうでしょうか。

はしたないと謗られてしまうでしょうか。

いえ、先生はそういうお方ではないと言う事は分かっているのですが


「あー⋯、ちょっと、歩くか?それとも、やっぱり座るか?」


先生も緊張しておられるのでしょうか。

それとも、少しでも私に返事をするまでの時間を伸ばしていらっしゃるのでしょうか。


「あ、⋯うん、やっぱり、ここでいいのか⋯な」


先生が伺う様にこちらを見ています。

ブンブンと頷きますと、少しお笑いになられた気がしました。

そしてすぐ、神妙なお顔に戻ります。


「俺は教師だ。お前の気持ちを受け入れる事はない」


ただ、一言だけ。

迷惑だとも嬉しいとも、言い訳も弁解も、何も仰りません。

とても⋯、とてもとても先生らしいと思います。

ですから私も、一言だけ。


「わかりました」


私が生徒ではなくなった時に、もう一度告白します。


声には出さず、こっそりと、宣言です。

ああ、私ってば、自分で思っていたより諦めが悪かったのですね。

だけど、せめて卒業まで。

学園にいる間は、先生に相応しい淑女になるための準備期間とさせて下さいませ。


優秀な成績で学園を卒業し、立派な淑女となった私を、教師ではなくなった先生が(何だか不思議な表現です)選んでくださる様に頑張りたいのです。

もう少しだけ、頑張らせて下さい。


「俺は教師だからな、⋯うん、困った時はちゃんと頼るんだぞ」


先生が心配そうに仰ります。

その優しさが染みて、こくこくと頷きます。


「お前はもう少し、いや、もっと、頼ることを覚えた方が良い」


先生が少し眉を顰めて仰ります。

その真剣な眼差しにドキドキしながら、頷きます。


「ま、頼られなくても、俺はお前を助けに行くけどな、それは許せよ」


先生が眉を下げて笑いながら仰ります。

その笑顔に見とれていると


ガッ



鈍い音が聞こえ、先生の身体が崩れ落ちたかと思うと


そこに、エリオット様の姿が



「ひっ⋯⋯⋯あ⋯⋯ああ⋯⋯」



どうして⋯、どうして、エリオット様がここにいらっしゃるのでしょう。

どうして、先生はお倒れに⋯

先生は、先生は大丈夫なのでしょうか⋯。


身体が動きません。

先生を起こしに行きたいですのに⋯


「⋯⋯っ!!!!!」


エリオット様、それは、それはナイフでは

エリオット様が、ナイフをお持ちに、なって⋯

それは、まさか、それで、先生を


「だめ⋯です⋯⋯っ」


どうしたらいいのでしょう

どうしたら

とにかく先生を守らなければ⋯!!

エリオット様を止めなくては⋯!!!

エリオット様からナイフを取り上げるには、どうすれば⋯

お願いです!!そのナイフを、こちらに渡してくださいませ!!!

だめです!!ナイフをこちらに


「ぐ⋯⋯っ⋯⋯⋯」


痛、⋯⋯痛⋯い?いえ、熱い⋯⋯?

とにかく⋯そう、なんか、すごい衝撃、が

あああ痛い⋯痛いです、やっぱり痛い⋯

ナイフが、私のお腹に、刺さった、かも知れません⋯多分⋯?

怖くて、見る事が出来ませんが、多分⋯


「うわぁああああああっ⋯」


痛⋯エリオット様が離れる瞬間、ナイフがこう

多分、ナイフが、こう、ぐいっと、多分

あああ痛いです、痛いですが

これは⋯、どうしたらいいのでしょう

どうすれば


とりあえず、逃げます


痛⋯あああ痛いです⋯痛い

ですが、あのままあそこに居ては

折角エリオット様から取り上げたナイフが、取り返されてしまうかも知れません

それに、先生が私を刺した犯人にされてしまうかも知れません

分からないけれど、多分、あそこにはいない方が良さそうです

あああ、それにしても痛い、痛いです⋯

痛いですが、遠くに、出来るだけ、遠くに


「はあ⋯は⋯⋯くっ⋯⋯」


エリオット様が、追いかけていらっしゃいません

何やら声が聞こえます

どなたかとお話しされているのでしょうか

それならば、もう、こちらにはいらっしゃらないでしょうか?

そうだと良いのですが、どうか、いらっしゃらないで下さいませ

痛くて、ちょっと、休憩を、痛⋯⋯


エリオット様が先生をお殴りになったのでしょうか?

先生を刺そうとなさったのは、私のせいでしょうか⋯?

多分、⋯そうなのでしょう⋯

ごめんなさい、先生⋯

先生を、好きになったせいで、ご迷惑を


ああ、先生⋯、先生は大丈夫でしょうか?

エリオット様とお話なさっていた方

どなたか存じませんが、先生を助けて下さるでしょうか


「ふっ⋯⋯うぅ⋯っ⋯⋯」


助けを、呼びに行かなくては⋯

先生は、頭を、殴られていました

早く助けてさしあげなくては⋯

裏口の方に行けば、誰か⋯、通り掛かるかも知れません、誰か通りかかって下さいませ


あああ痛い、痛いのです⋯

ですが先生は倒れて動けないのです

動ける私が、助けを呼びに、行かなくては

あああ痛いです⋯⋯⋯


「⋯!!!!」


あ、そうでした

私、ナイフが、刺さっているのですよね、多分

これは、多分、よろしくない気が致します

ナイフが刺さった私が、助けなど呼んだら

怖がって、逃げてしまわれるかも、知れません

それは申し訳ございませんし

お話を聞いて頂けたとして

先生より先に、私を診てくださるかも知れません

そうではないのです

先生を、先生を助けて頂かなくては


あああ、そうすると、先生から離れたのは、良くなかった様に思えてきました

ああ、どうして私はこう⋯

悔やんでも仕方ありません

助けが来た時に、先生の事を、しっかりとお伝えすれば良いのです


そうですね、とりあえずこのナイフは⋯⋯⋯






「━━━しろ、助けに来た」


ああ、助けが、⋯どなたか助けに、来てくださいました

どなたか、存じませんが、ありがとうございます

先生が、あちらで倒れて、いるのです


「先生⋯助け⋯て⋯⋯」


先生を、早く助けて差し上げて、下さいませ


「おねが⋯、先、生⋯⋯」


どうかよろしく、お願いします、先生を、どうか





あああ、苦し、⋯苦しい⋯?⋯苦しいので、しょうか?

痛い?重い?怠い⋯怠重い?眠い、そう、眠い?

いえ、とにかく、何か、そう、何か、楽しいことを

ロティ、⋯そう、ロティ


今日のお話は、すごいのよ、楽しみに待って、いてね

先生の事も、聞いてもらわ、ないと

あなたには、心配をかけて、しまったから

私ってば、諦めが悪いのだと、ロティが知ったら、どんな顔をするかしら

ああ、あなたにも早く、聞いて欲しいわ

私の新たな決意を

きっと、ロティは応援して、くれるわね


先生、⋯そうです、先生は

先程の方は、先生を無事に、見つけられた、でしょうか?助けて下さった、でしょうか?

先生は、助かったので、しょうか?

私が、元気になったら、先生に謝罪に、行かなくては、いけませんね

先生を、助けて下さった、お方にも、是非ともお礼を


先生、私、卒業まで待ちます

卒業まで、沢山沢山、頑張ります

優秀な、成績で卒業して、淑女のお勉強も、頑張って

先生の、お役に立てるように、お勉強して

胸を張って、先生の横に、立てるように

頑張ります


だから


卒業したら



先生のお嫁さんに、してくださいね











「イジー、大事件よ」


シャーロットの自室にて。

アイザックの膝に座ったシャーロットの手には、綺麗に切り分けられたアップルパイが乗ったお皿がある。


「アップルパイが届いたの。これ、お姉様の大好物なんたけど。⋯お姉様は甘いものが大好きで、あまりにも幸せそうにニコニコパクパク食べるから、私も嬉しくて。そうしたらお姉様は私の大好物だと勘違いしちゃった、と言うシロモノなのね」


アップルとシナモンの香りを鼻先に感じながら、アイザックは続きを待つ。


「私の見立てだと、()()がお姉様に後ろめたい思いをさせた、そのお詫びってとこなんだけど。⋯⋯心当たりは?イジー?」


「前にも言った通り、僕はロティじゃないロティとはイチャイチャしてないよ」


そう言ってアイザックはシャーロットの鼻に自身の鼻をチョンとくっつける。


「そうね、そうだったわ。それじゃあ、これはお願いよ。一緒に食べてちょうだい、イジー?⋯⋯1ホールも届いたのよ」


「ふふ、僕がロティの誘いを断ると思うかい?勿論、手ずから食べさせてくれるんだろう?」


「あら光栄ね、イジーに餌付け出来るなんて。まさに婚約者の特権だわ」


シャーロットは少し大きめ一口サイズに切ったアップルパイをフォークで刺すとアイザックの口に放り込む。


「⋯婚約者と言えば。私の日記にお姉様の筆跡で、大人しいと評判の令嬢ばかりピックアップされたリストが挟んであったんだけど、⋯⋯何か知ってる?」



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