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ひまわりを咲かせて

 見慣れたドアの横のインターホンを押すと、見慣れたアイア母が顔を出す。


「あらまぁ。いらっしゃい、未来のお婿さん? 孫はまだ?」

「いやいや、色々と気が早すぎますから」

「あら、残念」


 アイア母は俺とアイアが付き合い始めたことを、なぜだか当然のように知っていた。

 アイアは言ってないらしいのだが、いったいどこからその情報を仕入れるのだろう。

 いや、ただの女の勘というやつなのかもしれない。そのエスパー並みの感覚の鋭さは、やはり自分の娘に関することだからなのだろうか、それとも俺やアイアが顔に出やすいのだろうか。

 とりあえずお茶はお断りしてアイアが待つ2階へと向かう。途中、「何か足りない物があったら言ってね。丸いゴムとか、アフターなピル的な何かとか」などと聞こえた気がしたが全力で無視して速足で階段を上り切る。

 なんでアフターなピル的な何かを持っているのかも考えることはしない。

 2階に上がると、すでに開いた部屋のドアから顔を覗かせるアイアと目が合った。


「いらっしゃい。遅かったじゃない」

「そうか? ああ、まあアイア母に捕まってたからな」

「お母さん……。余計なことは言われなかった?」

「え? ああ、うん。多分……」


 多分って何よ……、と小さく言葉を零すが、自分の母親に対する小さな不満を俺にぶつけるのもおかしな事だと考えたのだろう、それ以上追求はせず手招きだけで早く部屋へ入れとジェスチャーをする。

 いつも通り、気兼ねすることなくアイアの部屋に入る……ことは今やもうできない。

 自分で頬が強張ってしまっているのが分かる。これはもちろん嫌だとかそういう感情ではなく、単純に緊張してだ。

 俺とアイアは付き合い始めた。つまり、男女の関係をこれから築いていくことになる訳で、そういった状況下でアイアの部屋に2人っきりというのはいくら昔から知った仲とはいっても鼓動は高鳴る。

 恐らくアイアも同じことを思っているのだろう。絨毯の上に2人して向かい合って座って、どちらも借りてきた猫のように大人しく縮こまっている。


 やりにくい。しかし、同時に何だか嬉しい。

 アイアも俺のことをしっかり男と見做してくれていて、緊張してくれているのだ。

 ただ、ずっとこのままというわけにもいくまい。

 俺は、昨日から入念に準備をしてきた話題の1つを、さりげなく、さも今自然と思い浮かびましたよといった風に切り出す。


「そ、そういえば、学園祭の売り上げを使ってのサークル温泉旅行はどこに行こうかー?」

「え? あ、ああー。うん。そうね。どうしようかしらね?」

「なんか、みんなが行きたそうな場所とか知らないかー?」

「そ、そうねー。温泉、温泉かー。どこがいいかしらねー?」

「ねー」

「……」

「……」


 は、話が、話が全く広がらない。今までどうやって喋ってたっけ?

 お互いがお互いに対して同調しようとするがあまり、全くまとまらない会話になってしまっていて、話に決着が着くことがなさそうだ。

 お互いに気を遣っているのが丸わかりの会話だった。


「……あー、やめだ、やめ」


 俺は縮こまった身体を伸ばす。

 俺の発言の意図がすぐに分かったのか、アイアも深く息を吐き、気疲れをした目になる。


「……賛成。こういう雰囲気は合わないわね、私たちには」

「全くだよ」


 ハハハと呆れたような笑いを互いに零した。


 付き合い始めて3週間が経とうとしているが、俺たちはまだこれといってデートだったりとカップルがしそうなことができていなかった。

 学園祭の準備で忙しかったし、その後は打ち上げや去り行くニーナちゃんとの思い出作りということで4人で遊ぶことを優先させてきたからだ。

 だから、この部屋でアイアに告白をしてから2人きりで会うのは今日が初めて。

 だからこその緊張だったが、その初々しいだろう2人の雰囲気ももう砕けた。

 いつも通り、ただの幼馴染だった頃と変わらぬトーンで様々な話をする。


 学園祭は本当に儲かったよね、まさかここまでとは。来年も手巻き寿司でいいんじゃない? そういえば今度あの映画の続編やるんだってさ、見に行こうぜ。いいわね、あれ面白かったし。そういえば覇太郎がまた新しい女の子連れて構内歩いてたぞ。……アイツ、いつか刺されなきゃいいけど。そういえばニーナちゃんは今ーーニーナは次顔見せたらゲンコツをお見舞いしてやるんだから。


 カラカラと快活に笑うアイアは可愛かった。

 これから迎える冬という季節とは真反対、夏の日差しが照らすかのように眩しさを感じる可愛さだ。

 その笑顔を1人占めできているんだと思うと堪らなく嬉しくて、俺の胸に温かいものが広がりいっぱいになるようだった。

 その気持ちを1人の心の内に抱えると幸せで幸せで、苦しい。

 だからつい口から少しだけ出してしまう。


「ーー好きだ」


 全く脈絡のない告白に、アイアは目を見開くことで応える。

 そりゃそうだ。いきなりなんだ、って思うよな。

 それでも仕方がなかったんだ。

 どうしようもなく可愛くて堪らない存在が目の前にあって、それが俺の目を釘付けにしているんだと伝えたくてしょうがなくて、自然に言葉として出ちゃうんだから。

 馬鹿にされるかな、アイアだったら軽口で応えそうだ。

 もしそんなこと言われたら今度は「大好きだ」と言ってやろう。

 照れた顔でも見られたら御の字だ、とアイアの反応を待っているとーー


「わ、私も好きーー」


 顔を赤くして、横に視線を逸らして、アイアはそう言った。

 うーん、そうきたか。やっぱりアイアは俺よりよっぽど優秀だな。

 カウンターを入れて、逆に俺を照れさせようとするなんて、なんてな。全く。

 へへへ、とだらしない笑い声を出してしまう。ふにゃりと緩む頬が抑えられない。

 アイアもつられて同じように笑っている。


 いつも通りの会話も良かったけど、こういう新しい会話も悪くないな。

 抑えられない想いに振り回されて、好きを伝えて柄にもなく互いに照れたりして。

 友情の先に待っているものに恐れを抱いたこともあったけど、踏み越えた先はむず痒くも温かい、確かに幸せのある場所だった。


 ずい、と膝立ちの状態でアイアの方へ寄る。


「ど、どうしたのよ……」

「いや、俺の方からはまだしてないなと思ってさ」


 それだけでアイアは俺の行動を察してくれ、目を瞑る。

 愛おしい顔に自分の顔を寄せる。とても綺麗な顔で、近づく距離に応じて鼓動が大きくなり、耳元に心臓があるかのようだ。

 陶器でできたかのように白く繊細なアイアの手を壊さないようにそっと握ると、アイアもまた握り返してくれる。

 しっとりとした手だった。

 それは子供の頃から良く握った手であり、温かさに心はほだされる。

 昔から知るこの愛しい女の子を、これからももっと知っていきたい。

 これからもそのひまわりのように明るい表情を見せて欲しい。

 今までのアイアの全ての笑顔にこれからの愛を誓う。

 きっとこの花を枯らせない。燦然(さんぜん)と咲かせ続けてみせると、キスをした。

『俺が好きなのどっちなの!? 『生ワキ』それとも『あの娘』だけ!?』をご覧くださいまして、誠にありがとうございました。

この更新をもって、作品は完結となります。

評価・感想をいただけると次回作の励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします!


当作品は2019年1月から書き始めたものであり、私の小説としては2作品目に当たります。

書き始めた辺りではカズキとアイアが付き合う予定はなかったのですが、不思議なもので、書き進めると愛着が出てきまして……どうしても2人に幸せになって欲しいと思ってしまいました。

ちなみに当初予定だとニーナちゃんは鉄塔鉄扉で清楚キャラを貫くはずだったんですが……どうしてこうなった。

そんな紆余曲折がありまして一番最初のプロットから大きく話の内容が変わってしまいましたが、でも落ち着くところに落ち着けられてよかったなと思っています。


そのうち私の処女作に関しても改稿をして連載できればいいな、と思っています。

その際はまた読みに来ていただけると嬉しいです(*^^*)


ちなみに今は『表現力の薄れた世界で戦う《言の葉の守り人》』という作品も連載中で、こちらはまだまだ続きますので、もしお読みくださっている方がいらっしゃいましたらそちらの作品を引き続きご愛顧いただきますようよろしくお願いいたします。

また、「そんな作品知らんかったよ」という読者様も、少しでもご興味ありましたらぜひご一読いただきますようよろしくお願いいたします。


長々と後書きを失礼いたしました。

最後にもう一度、読者様たちに大きな感謝をお伝えさせていただきます。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

またどこかでお会いできるのを楽しみにしております!!


それでは(≧▽≦)!

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