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九十六話 いざ尋常に、なんてできません 1

「ふっふっふ、勝つのはあたしッスよ!!」


 そんな風に言いながら腰に手を当てふんぞり返るのは、私の後輩であるルナちゃんです。


 現在私は、なぜか後輩で仲間のはずのルナちゃんから、勝負を挑まれていました。ええ本当になぜか。


「ええと、まだ私現状が呑み込めていないのですが。いったいなにがどうなって、ルナちゃんは私と勝負をしようと思ったんです?」


「そんなの決まってるッス!! この世界の最高神であるセンパイを倒し、あたしがこの世界の神に君臨するためッス!! この、冥躙(めいりん)・イストワール=クーゲルシュライバーの恐怖を、思い知るがいいッス!!」


「うわぁ、久しぶりに聞きましたよそのイタイ自己紹介……」


 初対面の時以来です。……初対面? まさか今のルナちゃんには記憶がないとか……いえ、それはそれでおかしいです。初対面なら、私のことを『センパイ』と呼ぶわけがないのですから。しかも、私がルナちゃんと呼んでいるのに反応までしていますし。


 だとすると、いったい?


「ルナちゃんは、どうして最高神になりたいんですか?」


「決まってるッス!! この世界を支配するためッス!!」


「……支配してどうするんです?」


「それはあれッス!! あれ、ほらあの……? あれ、どうしてあたしそんなことしようと思ったんスかね……?」


 ルナちゃんのものすごく思い悩んだ顔を見れば、だいたいの事態は把握できました。


 どうやらルナちゃんは、一部記憶を書き換えられてここにいるようです。その影響で、懐かしの厨二ネームを名乗ったのでしょう。とすると、今のルナちゃんにとって、私は敵ということになります。もしくは、この世界を支配する悪者ってこともなくはないですね。


 どちらにせよ、どうにかしてルナちゃんに正気に戻ってもらわないといけないのですが……困りましたね。私が本気を出してしまえば、ルナちゃんは跡形も残らないです。なるべくケガをさせない方向で解決したいのですが。


 私がそんなことを考えている間に、ルナちゃんの中で答えが出たようです。


「まあそんなの、センパイブッ倒してから考えるッス!! なんかきっと、その方が楽しそうだからッスね!!」


「うわーい、脳筋の発想ですよこれ」


 テンションがおかしな感じになるほど面倒です。そう言えばルナちゃん、深く考えるの苦手ですもんね。たまに妙に鋭いというかおかしな方向からの発想をしますが、それはあくまで直感で、考えた結果ではないのでしょう。


「じゃあセンパイ、あたしと戦えッス!!」


「一応訊きますけど、どうやってですか? あなた魔法使えませんよね?」


「そんなの簡単ッス!! 今あたし大きいッスから、踏み潰しちゃえばいいんスよ!!」


「……はい?」


 気が付くと、すぐ目の前に巨大な足の裏が迫っていました。


「ちょっ、いきなりですか!?」


 とっさにバックステップで避けましたが、かなり危なかったです。相手は魔法が使えないとはいえ、神の力を持っているはずのルナちゃん。避けていなければ、どうなっていたかわかったもんじゃありません。


 それにしてもこの体格差による踏みつけは、最も簡単で効率のいい攻撃手段かもしれません。これだけ向こうが大きいと攻撃力がすさまじいですし、しかも避けにくいです。更には向こうとしては最小限の労力ですので、連発が可能――

「ドンドン行くッス!!」


「そうですよねやっぱりそうなりますよね!!」


 やはりルナちゃんが選択した攻撃は、連続踏みつけでした。


 攻撃範囲がムダに広く、一発かわすだけでけっこう苦労するというのに。それが連続で来られたら、たまったものではありません。


「る、ルナちゃん! はな、話し合いを、っと、話し合いをしましょう!」


「わかったッス! センパイ倒してから話聞くッス!!」


「それはもはや問答無用って言うんですよ!?」


 元の運動神経がいいせいか、巨大化しているにも関わらずルナちゃんの動きは鈍重からはかけ離れたものでした。たいていはこういう大きな敵って、動きが遅いのを利用して倒すのですが。ルナちゃん、普通に機敏なんですよ。


 私が魔法を使ってスポーツカーレベルのスピードを出しているのに、ルナちゃんと来たら余裕で追いついて来ています。超怖いんですけど。巨人に追っかけられるのが、こんなにヤバイとは……!! 一刻も早くどうにかしないと、ジリ貧です。


 この状態の私には体力という概念はありませんが、それでも精神的には疲れます。そのせいで、魔法の制御に乱れが出るかもしれません。その時を狙われてしまったら、ひとたまりもないでしょう。


「せめて、相手がルナちゃんじゃなくて魔物だったらどうにかなったんですけどね……!!」


 地面を凍らせるだけで、問題は解決したことでしょう。ですが今ここでそれをやった場合、転んで頭なんて打った日にはルナちゃんの命が危ないです。あのサイズなら体重も相当あるでしょうから、自重で頭蓋骨が砕けてもおかしくはありません。


 巨大化に伴い肉体の強度もそれなりには上がっているでしょうが、それがどれほどなのかは確かめる術はないのです。なら、別の方法を試してみるしかないでしょう。


「ルナちゃん、私を倒さなくてもこの世界を支配する方法はありますよ!」


「センパイ倒すのが、なんか一番手っ取り早そうだからいいッス」


「もっと平和にいきましょうよ!」


「ピンフに行くんスか?」


「わかりにくいボケ挟むのやめてもらえません!?」


 平和と書いてピンフとも読みますけど!! それ麻雀の役ですから!! ていうかルナちゃん麻雀できたんですね!? どーでもいいですけど!!


 ダメです、話し合いの余地がありません。というかルナちゃんに話を聞く気が一切ないんですもん。これじゃあどうしようもないじゃないですか!!


 この状況を打破すべく、ルナちゃんの攻撃をかわしながらも私は必死に考え続けるのでした。


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