九十五話 とても見覚えがある場所のような気がします
気づけば、私は見知らぬ場所にいました。
「ここは……?」
どこかで見たような場所です。なぜならここは、たくさんのビルが建ち並ぶスクランブル交差点のど真ん中だったのですから。
ただし、車はおろか人っ子一人存在しません。つまりイコールで、ここにいる私一人。一緒にいたはずのメンバーが、誰も見当たらないのです。
「困りました……ルナちゃんはまだこの景色を知ってるからいいでしょうけど、他の二人は……」
地球の出身のルナちゃんならまだしも、いえあの子の場合まだしもどころか一番危険な可能性すらありますが……と、とにかく、精霊コンビの方が色々とマズいです。
特に、クロノスくんは攻撃できる魔法がないので、自衛手段を持ちません。せいぜいが、相手の時間を止めている間に逃げるくらいが関の山でしょう。
ルナちゃんは今バーサクモードですから、敵が出ても割とどうにかできるでしょう。東京も細かい地理はともかく、大ざっぱにわかるところはあるでしょうし。
「でもここ、よく見ると渋谷でも新宿でもないんですよねぇ……」
目下の問題はそこです。このスクランブル交差点、一見すると渋谷っぽく見えますが、あの特徴的な数字がでかでかと書かれたビルが存在していません。それに少し近場を見回ってみましたが、電車の線路がどこにもないのです。
「渋谷か新宿なら、これだけ歩けば線路がどこかに見えるはずです。それに駅もないですし」
となると、ここはナノさんたちが私の話だけで再構成した場所だと思われます。なんとなく都会っぽいところを想像した結果でしょう。アスファルトがなぜか真っ茶色なことを除けば、それなりの再現度を誇ります。
なんの手がかりもないというのは厳しいので、一度初期スタート位置に戻ってみました。たいていこういう時は、スタート位置になにかしらの手がかりがあるものです。ナノさんたちにそのたいていが通じるかどうかはわかりませんが。
私が最初に立っていた位置を隈なく探しますと、横断歩道の白線に紛れて気づきませんでしたが、なにか白い折り畳まれた紙を発見しました。
「ええと……『ここは、ほんのなか。げーむにかたないと、でれない』本の中って……いったいぜんたい、なんの本の中なんですか」
本という存在そのものから教えなきゃいけないかもです。
「そういえば、昔は本の中に入りたいと思ったこともありましたね……」
まだ小さい頃、絵本の中のお菓子の家が食べたくて入ろうとしたことがありました。結果、絵本に頭をおしつけまくって本を破くというオチがつきましたね。しかも、本を破ったことで超怒られましたし。
「ん? まだ続きが……『たからさがし:たから、みっつ。ぜんぶみつけたら、でれる。ひんと、いろ。みっつあるものはめると、せいかい』……どうしましょう。微妙にわかりません……」
これ、なにを探せばいいのかもどんなものを探せばいいのかも、サッパリわかりません。書いてあるのは日本語なのですが、なにかが違います。あれです。英語を翻訳サイトを使って直訳した結果みたいな、もやもやする違和感がありますね。
「しかも、ヒントが色だけって……」
せめて何色か書いてくださいよ。普通は三つで色と来たら、三原色を思い浮かべます。だとすると、赤、青、黄なんですが。ナノさんたちにその概念がわかるかどうか……
一応この線で考えて行くと、三原色を探すのがいいでしょうか。ただ色を探せと言われましても、都会だけあって様々な色であふれ返っています。なにをどう探せばいいのかの時点で迷いが生じるんですけど、これ。
でもまあ、ここで突っ立っていたってどうにもならないことだけは確かです。動かないと始まりません。
「赤青黄色、赤青黄色……赤巻紙青巻紙黄巻紙、赤青黄……んー、ありすぎますねえ」
私が知っているものとカラーリングが違うものは多々あるのですが、そのうちのどれかが正解なのかはまったくわかりません。オレンジのポストはかわいいからいいですけど、服が紫と青緑のサンタクロースはなんかキモイです。
自販機なんかもありますね。売っているラインナップがおかしいですけど。おしるこらしきものはともかく、『あまいのみもの:どらごんあじ』ってなんですかいったい。怖くて飲めないですよ。
と、その時でした。
「足音……?」
それまで静寂に包まれていた交差点に、突如として足音が響いて来たのです。しかもズシンズシンと腹の底に響くその音からするに、かなり大きい物体だと思われます。
「イヤな予感しかしないんですけど……」
ですが、確認しないわけにもいきません。
仕方なく音のした方に目を向けると、そこにいたのは。
体長十メートルはある、巨大な体躯。指に引っかけるように手に持った一振りの剣。露出多めな鎧を見にまとった人間が、こちらを見下ろしていました。そして、その人間は――
「やっと見つけたッス!! センパイ、覚悟ッスよー!! いざじんじゃーに、勝負するッス!!」
「なんでルナちゃん戦う気満々なんですか!? あとジンジャーって生姜であって、正しくは尋常なんですけど!?」
なぜか巨大化を遂げたルナちゃんが、好戦的な笑みを浮かべて私のことを見ていました。




