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八十話 お好み焼き、異世界バージョンです

 お好み焼きを焼く準備を終えた私は、いよいよ焼く段階へと移行しました。


『センパイセンパイ、あれッスよね、パテ使って焼くんスよね!!』


「パテはハンバーガーのハンバーグですね。使うのはコテです」


『あ、それッスそれッス! それ使って焼くんスよね!! あたし大文字焼も食べたいッス!!』


「あの、そろそろツッコむの面倒なのですがツッコまないと気になるのでツッコミますね。それはおそらくもんじゃ焼きです」


 ボケなのか本気なのか……まあルナちゃんは本気でしょうね。


 ついでに言っておきますと、もんじゃ焼きは材料がないので却下させていただきました。


 それでは、鉄板に火を入れようと思います。まあ、実際は火を入れるのではなく、鉄板の分子を操って温度を上げるんですけどね。


 電気を操ってIH風にすることも考えたのですが、分子を直接操った方が簡単なんですよね。なんとなくのノリで、あちこちの温度が操作できるので楽ですし。あとIHの原理がうろ覚えってのが大きいです。私の記憶が確かなら、磁力が関係していたと思うんですけど……そのうち実験してからの方がいいですね。


 ゆっくりと温度を上げていき、いい感じになったような気がするところで油をひきます。


「むむむ、この身体ですと微妙に感覚がわかりにくいですね……」


 鉄板の上に手をかざしてみましたが、いまいち温度がわかりません。だからと言って、ルナちゃんの身体なのに鉄板を直接触るわけにはいきませんし……感覚がまったくないよりはいいですが。


 しょうがないので、勘で始めます。


 お好み焼きの生地を鉄板にぶちまけますと、ジューっといい音が。


 ここで悩みどころなのは、どこまで生地に触るかです。あんまりいじってしまうと空気が抜けてしまいますし、放置し過ぎると焦げますし……表面が乾いて来たらいい感じなのでしょうが、身体の相性が悪いのか若干見にくいんですよね。


 それでもなんとかタイミングを見極め、生地をひっくり返します。


 パンッといい音を立てて、生地がひっくり返りました。どうやら上手くいったようです。


『うわひっくり返えったッス! センパイセンパイ、それあたしもやりたいッス!!』


「えぇ……」


 予想してましたけど、どうしましょうねこれ……できればやらせたくないんですよ。オチが読めますから。


 ふと視線を感じて右斜め下を見ますと、目をキラキラさせてこちらを見るクロノスくんと目が合いました。


「……あの、クロノスくんもやりたいですか?」


「え、ええと、やってもよいのでありましたらぜひ……!」


 ですよねー。そうですよね、やりたいですよね。


 ルナちゃんとクロノスくんは、好奇心の方向性が近めなのでたいてい被るんですよ、やりたいことが。ただしクロノスくんの方が分別が付くので、ルナちゃんの残念さが際立ちます。


「……そうですね、わかりました。とりあえず、まずはクロノスくんからやってみましょう」


「ありがとうございますであります!!」


『えぇー!! センパイずるいッス! あたしの方が先にやりたいって言ったッスー!!』


 全力で駄々をこねる気配が伝わって来ました。どうしましょうねこの女子中学生。


「あまりごねないでください。大丈夫ですよ、次に教えますから。クロノスくんが先なのは、私があなたの身体から出ないとあなたには教えられないからです。このままクロノスくんに教えた方が、効率がいいんですよ」


『うぅ、わかったッス待ってるッス……』


 こうして説得すれば聞き入れてくれるので、まあマシな方でしょう。思ったことがパッと口に出てしまうタイプなだけで、話を聞かないわけじゃないですから。


 さて、まずはクロノスくんですね。


「いいですか、こうやってコテを持って、お好み焼きの下に入れます」


「こ、こうでありますか?」


「そうですそうです。そのまま、向こう側を立てて、下を鉄板につけたまま自分側に倒すイメージでやってみてください。あまりゆっくりやりすぎるとボロボロになってしまいますから、勢いは強めです」


「わかったであります!」


 そう言うと、クロノスくんは真剣な目でお好み焼きを見つめ始めました。


 こうしていると、お手伝いしている小学生みたいでホント和みます。ちっちゃい子はだいたいかわいいですよね。


 ゆっくりと深呼吸をすると、クロノスくんは勢いよくお好み焼きをひっくり返し――

「あ」


 力を入れすぎたのか、クロノスくんに向かってお好み焼きが一直線に飛びました。が。間一髪、クロノスくんがとっさに時間を止めたようで、お好み焼きは動きを止めました。そこから慌ててコテで押すと、お好み焼きは空中で軌道を変え、キレイに鉄板に着地を果たしました。


「失敗したであります……」


「だ、大丈夫ですよ! 大きく崩れることもなくひっくり返っていますから、セーフです!」


「ホントでありますか!?」


「ホントですホントです」


 安心したのかホッと胸をなで下ろすクロノスくん。実際のところ、若干形がいびつになっただけなので味に支障はないと思います。時間を止めるなんて裏ワザ、よくとっさに出ましたね。


 お次はルナちゃん、なんですが……一回身体から出ないとですね。


 身体の支配権をルナちゃんに返してから、再度クロノスくんと同じように教えます。


「大丈夫ッス大丈夫ッス!! 見ててくださいッスね!」


「めっちゃ心配なんですけど……」


 ハラハラしながら見守っていると、ルナちゃんはクロノスくんとは違いコテを生地の下に入れた瞬間、豪快にひっくり返しに行きました。


「とりゃあっ!!」


 高々と宙を舞ったお好み焼きは、中の具材をはみ出させながらもどうにか鉄板に着地成功しました。タコが飛び出してますが……まあ、及第点ですかね。


「よっしゃあーッス!!」


「すごいっちゃすごいですが、あまり食べ物を高く投げるのはやめましょうね……」


 とまあそんな感じではありましたが。やっと、本当にやっと、お好み焼きが完成しましたよ!!


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