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七十九話 やっとクッキング開始ですよ! 3

「触覚って久しぶりですねぇ……」


 前はフィーマさんの身体に入った時でしたから、けっこう経ってます。私の感覚だと、二年前くらいのノリなのですが、実際は七十年は前のはずです。


「ミーシャ様、大丈夫ですか? 何か問題などは……」


 そばで見ていたシルフさんが心配になったのか、おずおずと声をかけて来ました。見れば、クロノスくんとシェイドさんもですね。ピィアさんだけは興味なさげにあくびしてますが。


「ええ、何も問題はありません。強いて言うなら、若干視点が上がって微妙な気分になっているくらいですかね」


 そうですよねぇ。いつも見えているルナちゃんの姿は、あくまで幻影。なので実質の高さは、もう少しあるのです。こうするとギャップすごいんですけど、ルナちゃんよくこんなんで普通に身体動かしてましたね。


 見えてる身体の位置と、実際の感触にズレがあります。幻影をまとう魔法は自分にも有効らしく、ルナちゃん自身にも縮んで見えるようです。


 そのズレを勘で修正するとか、やっぱりあの子には魔法よりも戦闘系の才能があるような気がしてなりません。とりあえず動きにくいことこの上ないですので、早めに身体そのものを変化させましょう。


「というか今できますね。私がルナちゃんの身体の中にいるわけですし」


 そう思い直し、幻影をまとっていただけだった魔法を、肉体自体を変化させるものに切り替えました。


『うわすごいッスね!?』

「ふへっ!?」


 どこからともなくルナちゃんの声が聞こえ、辺りを見回しかけて気づきました。そうです。今私がルナちゃんの身体を動かしているわけですから、当の本人であるルナちゃんの意識が存在していないとおかしいのです。


「ルナちゃん、聞こえます?」


 呼びかけてみますと、頭の中から返事が聞こえました。


『バッチリッスよー! なんスかこれ、割と面白いッスね!? 自分の身体なのに動かないッスよ!?』


「それを面白いと言えるルナちゃんって、相当な大物ですよね」


 普通、乗っ取られたと大騒ぎしそうなものですが。まあ大人しくしていてくれるのなら、それに越したことはありませんが。


『そんなことよりセンパイ、お好み焼き作ろうッス!! 早く食べたいッス!!』


「そうでしたね。元の目的はそれでした」


 というわけで、作って行きたいと思います。


 材料は準備できましたので、まずはこれをちょうどいい大きさに切っていきます。


「この中で、包丁使える方っていらっしゃいます?」


「魔法で斬っていいのでしたら、可能ですが」


「あー……まあ、いいんじゃないですかね?」


 本来の目的は、女子力うんぬんでしたし。シルフさんが包丁使えなくても、今回は問題ないですから。


 シェイドさんとクロノスくんはまったく使えないようで、首を横に振っていました。


「わらわは包丁とやら、使ってみたことあるぞ!」


「え、あるんですか?」


「途中で面倒になり、食材は引き千切ったがの」


 うんまあそうですよね。ピィアさんだったらそうしますよね。


「じゃあまずはそこからやりましょう」


 包丁の使い方からレクチャー開始です。


「そうです、こうネコの手を作ってですね」


「? ネコにあるのは手ではなく前脚だろう。おぬしはなにを言っているのだ?」


「そう言われればそうなんですけども!」


 いえ間違ってないです。間違ってないですけども、日本人的にはあれ手って言うんですよ! ネコの手も借りたいとか! イヌにもお手って言いますし!!


 ですがそのようなニュアンスは、ピィアさんには難しかったみたいです。


「え、ええと、とにかくこう指をそろえて丸めて、食材を押さえるんです。そうしないと、包丁で指を切ってしまいますから」


「なにやら面倒なのだぞ」


「美味しい料理を作れば、シェイドさんも喜びますよ」


「よしではこの葉っぱを切ればよいのだな!!」


 チョロいですねこの方……それだけシェイドさんのことが好きなのかもですが。


「シェイドさんは樹液を煮詰めておいてください。それではたぶん薄いので」


「了解しました」


「シルフさんは小麦粉とピィアさんが千切りしたキャベツ――そこの緑の葉っぱをと、あと卵を入れておいてもらっていいですか?」


「了解です!!」


「クロノスくんは……そうですね、食器を並べておいてもらえますか?」


「りょーかいであります!」


 私は残った、というか残ってしまった明らかに難易度が高そうな物体の調理をしたいと思います。


『センパイ、タコなんてさばけるんスか!?』


「さばけるさばけないで言えば、さばけないにカテゴライズされますが……まあ、さばき方自体は知っているのでどうにかなるでしょう。お塩もありますし、サバくらいなら三枚おろしにできましたし」


『すごいッスね!! じゃあ今度、千枚通しにしてくださいッス!!』


「それはさばき方ではなく工具です」


 いったいなにと間違えればそんな物騒なものが出て来るのやら……


 首をかしげるような気配のあったルナちゃんのことはさておきつつ、私は一年タコの調理に取りかかりました。


 普通のタコですと全体にお塩をふって、ぬめりを取ります。が、このタコの場合は、先にウロコを落とすのが先決のようです。ペットボトルのフタがあると、簡単に取れるのですが……でもこんな風に生えていると、それでも厳しいかもですね。


 やってみなくては始まらないと開始してみますと、ウロコは案外あっさりはがれました。ただめちゃめちゃヌメヌメしていたので、お塩でどうにかしながらする必要がありましたが。


 それからタコを足先から軽く下茹でし、調理しやすくしておきます。半生とかだと、あとで怖いですから。


 隣を見れば、ピィアさんがキャベツっぽいものを千切りにし終えてヒマを持て余しているように見えましたので、油を鉄板に引いておいてもらいました。


 シェイドさんの方も無事できたようで、ギリギリソースらしきものが完成しました。せっかくなのでなめてみましたが……


 うん、なんて言うんでしょうねこれ。ソースと言われればソースなんですけど、違うと言われればそんな気もする謎エキスです。栄養はあるそうですが。


 シルフさんの方もすべてをやり終えていましたので、私の切ったタコを投入しました


「これで準備は万端です。あとは、上手く焼けるかどうかにかかってますよ!」


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