七十三話 こんな時でなければ、ワクワクするんですが……
「それにしても、思ったより生き物が少ないですね……」
「いわれてみれば、そうでありますね」
水底を歩き始めて十分ほど経ちましたが、その間見かけた生物はさほど多くはありません。
ウンディーネさんの話に出て来た魚のようなヒレを持つ、薄いピンク色をしたプチイルカは見かけました。イルカというよりも、人魚の方がイメージ近いでしょうか。ただし上半身は人間ではなく、ラッコとかに近いですかね。ウロコはなくツルリとしていて、かわいいと言えばかわいいです。
その他に見かけた生物と言えば、カタツムリっぽいやつくらいです。背負ってるカラが、カタツムリのように貝ではなくペットボトルに似ていたのがシュールでしたけど。ペットボトルの底の方から体が生えていて、危険を感じると中にすっぽり収まるんですよ、コレが。
色がついていたので中は見えませんでしたけど、あれが地球の海の底とかにあったらゴミと間違えて捨ててますね、確実に。ちなみにペットボトルではなく、ジュースの空き缶に似たものを背負ってる種類もいました。
とまあそんな感じで、さっきからこの二種類くらいしか生物を見かけません。本来のお目当てである美味しいと評判の草は、そこいら中に生えてるんですけどね。これを採取するのは、ルナちゃんを無事に見つけたあとです。
「どうやらこの二種類は共存してるみたいですし、この世界の動物はその他の動物を食べる種類が少ないのかもしれませんね」
「そうでありますな。しょーせーがしるかぎり、どーぶつをたべるのはにんげんをのぞくと、まものが多いであります」
「ここでも人間特別枠ですか」
たいてい人間が食物連鎖の頂点にいますから、まあわかりやすいと言えばわかりやすい構図です。でも魔物と同じカテゴリって、微妙にへこみますね。
「この辺りに、魔物が住んでいるという話は聞いたことがありませんし……となると、なおさらルナちゃんが行方不明になった理由が謎ですね。魔物がいるなら攫われたという線が濃厚なのですが……」
「でもルナさまをかどわかそうとするまものなんて、そうそういないと思うでありますが……ルナさま、めがみですゆえ」
「あの子の場合、超新米ですからね……敬うにしたってムリがありますし、オーラで避けろってのも難しい話です。なんとなく一緒に過ごしててわかりましたが、あの子から感じる魔力量はさほど多くないですから」
なんとなく私の直感になってしまいますが、ルナちゃんってゲームで言うなら近接タイプだと思うんですよ。それも壁役みたいな防御力の高い系統ではなく、盗賊系の身軽な感じの。
なので魔法は単純な火力勝負をするのではなく、トリッキーな使い方をする方が合ってそうです。煙幕とかの目くらましとか。
あ、でも元の身体能力が相当高いみたいですから、忍者とか向いてそうです。あるいは普通に剣士、それも短剣を使う系ですね。
「あとで何か、自衛に役立つ魔法を教えるのが先かもしれないですけど。こう、特殊な魔力の波長を出して、助けを求めるような。遠くからでも私たちが察知できるようにしてくれるとありがたいです」
「ですがミーシャさま。ここのみずはマナの含有量が多いでありますから、そんなことをしてもかきけされそーであります」
「それもそうですが……」
多すぎるマナを含んだ水が、魔力の察知を妨害してるわけですからね。周りに強い磁場があるせいで、方位磁針が役に立たないようなものです。
そんなことを話しながら歩いているうちに、あっという間に端っこにたどり着いていました。
「ふむ、どうやらだいぶ光の屈折率がおかしなことになっているようですね……」
水の抵抗のせいか若干歩きにくかったのを差し引いても、十五分も歩いていません。さっきの地点から見た時は、数キロ以上ありそうだったのですが。
「んー、となると壁沿いに進んで行くのが正解ですかね。瞬間移動ができればずいぶんと楽になるんですけど、どうもここではとても使いにくいみたいですし……」
「そうなのでありますか?」
「ええ。クロノスくんは、動きづらいとかなにかがしにくいとか、そういうのはないんですか?」
「いえ、しょーせーは至ってふつーであります。むしろ、いつもよりげんきな気がするくらいであります」
あらあら。となると、不便さを感じているのは私だけのようです。
それにしても、瞬間移動が使えないのはちょっと痛いです。あれ、かなり便利なので。光がおかしな風に屈折するせいか、目的地がどこなのかわからないから使えないんですかね? でなければ、多すぎるマナが邪魔をしているか。
「どちらにせよ、早いところルナちゃんを見つけないとどうなるかわからないですからね。クロノスくんもなにか見つけたら、すぐに教えてくれると――」
そう言いながら、クロノスくんがいるはずの方向を振り返ったのですが。そこには、誰もいなかったのです。ほんの数秒前までたしかにいたはずなのに。
「な、なにが起こってるんです……?」
どうやら一筋縄ではいかないことを痛感させられた私は、どうにかして消えてしまった二人を探すため壁沿いに歩きだしたのでした。




