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七十一話 海は海藻、では泉はなんというのでしょう?

 三人でウンディーネさんの住む泉に到着しますと、かなり驚いた顔のウンディーネさんに出迎えられました。


「ずいぶんと急に帰って来ましたなぁ。一応、シルフからあらすじは聞いとったんですけど、詳しく話してくれるんですか?」


「あ、そう言えば連絡せずに来ちゃいましたね。実はですね――」


 ここに来た理由を、シェイドさんがらみの一件は聞いていたウンディーネさんに話すと、とても微妙な顔をされました。


「うちとしては丸く収まった言うんやったらええんですけど、それシェイド苦労するんとちゃいます?」


「ああ、ウンディーネさんもやっぱりそう思うんですね……なんと言いますか、なりゆきでこうなってしまって」


 あれ以外に解決方法がなかったんですよね……せめてもっとこう、面白おかしい結末でしたら、笑い話で終われたのですが。でもまあピィアさん本人は悪い人ではないので、大丈夫だと思われます。それ以前に人じゃないと言われればそうなのですが。


「とにかくですね、そんなわけでなにかしら食べられるものがないかと思ってやって来たわけです。なにか美味しい植物とか、心当たりはありませんか?」


「せやなぁ……この泉の底に、えらい美味しい草が生えとる言う話は、そこに住んどるプチイルカの子ぉに聞いたことはあります」


「プチイルカ、ですか? どのような生物なんです?」


 おそらく小さいイルカだとは思いますが……


「ええとですね、魚のようなヒレとシッポを持つ、かわいらしい子たちです。主に泉に生えとる草を食べとるようで」


 私の知っているイルカじゃないですねそれ。イルカって主に食べるのは魚だったはずです。となると、見た目は近くても別の生物ですね。


「なるほど、わかりました。その草を、少々採取しても大丈夫ですか?」


「ええ、うちは構いませんけど……この泉、見た目よりもずいぶん深いさかい、気をつけんとミーシャ様でも危ないです」


「そんなに深いんですか?」


「水深はざっと二千メートルってところです」


「そんなに深かったんですかここ!?」


 潜ったことないから知らなかったですよ……淵から底が見えているんで、てっきりそれほど深くないものだとばかり。水深二千って海レベル、それも深海じゃないですか。


 ウンディーネさんの話によれば、ここの水はマナを豊富に含んでおり、そのせいで光の屈折率や反射率が違うのだとか。そのため深い深い水底が、まるで近くにあるように見えるそうです。


 私から見えている底は、本当の底じゃないとも言っていました。水深三キロくらいのところが映っているみたいです。


「なんで正直、うちとしては底まで行くんはおすすめできないんですけど……ホンマに行くんです?」


「どうしましょうねぇ……」


「行くッス!! 超行きたいッス!! 水の底ッスよ!? センパイは興味ないんスか!?」


「ないわけではありませんが……」


「じゃあ行くッス!!」


 テンション高いですねルナちゃん……まあこの子の場合、いつもこんな感じのテンションですけど。というかこのテンションを維持できるだなんて、この子ムダに体力ありますよね。さすが元運動部と言ったところでしょうか。


 転生しても運動神経体力その他が引き継がれているかはわかりませんが、少なくとも私より運動神経はいいと見て間違いないでしょう。いっそのこと、この子には魔法よりもなにか近接戦闘に向いていそうな武器でも渡しましょうかね。


 それで自衛できるならいいかと思いつつも、先に水の底に行く件です。


「クロノスくんはどうしたいですか?」


「え、えと、その、しょーせーも行ってみたいであります……」


 自分も行きたいと言っても大丈夫なのかと心配そうに言うクロノスくんでしたが、瞳がすごく輝いていました。本気で行きたいんでしょうね。クロノスくん、こういう冒険っぽいこと好きみたいですから。ルナちゃんとは気が合いますね。ていうか精神年齢が合うんでしょうか。


「わかりました。では行きましょう」


「やったッス!! じゃあさっそく――」

「素潜りする気ですか!?」


 いきなり飛び込もうとしたルナちゃんを引き止めると、ものすごく驚いた顔をされました。


「そ、そう言えばそッスね!? 素潜りだと五十メートルくらいしか潜れないッスもんね!?」


「いえあの、素潜りで普通はそんなところまでは潜れませんからね?」


 少なくとも、私にはムリです。ていうかムリでした。そもそもの話、私金づちでしたから。


「とりあえず、前にシルフさんが使った『泡沫の守護(エア・ルーム)』を使いますから、それで潜りましょう」


「なんスかそれ!? 超強そうッスね!?」


「泡を作る魔法で、ただ水の中で呼吸ができるだけなんですけどね。大した魔法じゃないです」


「あたしはそもそも魔法をまともに使えないんスけど……」


「だ、大丈夫ですよ! ちょっと練習すればきっと使えるようになります!」


「だといいんスけど……」


 とても不安そうなルナちゃんに言えるのは、気休めだけです。なのでこれ以上は言わず、話を先に進めます。


「ではお二人とも、私の近くに来てください」


「了解ッス!」


「りょーかいであります!」


 すぐに魔法を発動させると、私たちは水の中へ――

 バヅンッ


「え? なんで割れ――」

「ひゅあぶっ!?」

「なんであります!?」



 水の表面に触れた、その瞬間のことでした。


 私たちを包む泡は盛大に音を立てて弾け、私たちは全員バラバラに水の中へと引きずり込まれてしまったのです。


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