五十七話 空の旅へレッツゴーです
「ひゃっほーい!! サイッコーッスー!!」
ジェンさんが飛び上がり高度が落ち着いた瞬間、ルナちゃんが大はしゃぎで辺りを見回しまくっていました。人が乗っているからか、高度もあまり上がらずスピードもだいぶゆっくりです。
それにしてもルナちゃん、やたらと端っこに行きたがっていますが、そこまで端に行ったら落っこちちゃいますよ?
ちなみにジェンさんの背中に乗っているのは、私、ルナちゃん、シルフさんにクロノスくんです。ウィルちゃんに関しましては、乗ったことがあるそうなので今回はお留守番をしています。
ふと隣を見れば、クロノスくんも大はしゃぎしていました。
「すごいでありますよシルフのあねさん! 木々があんなに小さいであります!! ミーシャさまのほんたいたる世界樹が、あんなにもとおいでありますよ!?」
「そうだな。だがここまで離れてもハッキリと全容が見渡せるミーシャ様は、やはりすばらしい存在であると思わないか」
「しょーせーもそうおもうであります! ミーシャさまがおみえになるところであれば、みちにまよわないのでとてもすごいであります!!」
と、隣の会話が気まずいのですけど……私がなにかしたわけじゃないですし。ただこの世界どこから見ても私の本体が見えるので、確かに洞窟の中や空さえ見えない森の中でもないかぎり、いい目印にはなりそうです。便利と言えば便利ですね。
「みなさま、どこまで行きますか? 日帰りで行けるくらいの距離でしたら、どこでも行けますが」
「じゃあ世界の果てまで――」
「ルナちゃん、人の話を聞きましょう」
私も世界の果てにはちょっと興味ありますけど、日帰りではムリだと思います。
なんとなく気配を感じて隣を横目で見てみると、クロノスくんがどことなくしょぼーんとしていました。まさしく(´・ω・`)って顔をしていたので、きっとクロノスくんも世界の果てに行ってみたかったのでしょう。なんかちょっぴり申し訳ないです……
あとでクロノスくんに謝ろうかなと思っていると、忙しなく辺りを見回していたルナちゃんが遠くの一点を指さしました。
「じゃああれッス、あっちの方に見える山の上とかどうッスか? ていうかあそこなんスか?」
「あれは……『闇恵山』ですかね? 私も来るのも見るのも初めてなので、断定はできかねますけど。これから行こうと思っていたところではありますが……」
「あんけー? 響きがなんか日本語っぽい気がするんスけど、気のせいッスか?」
「この世界、私が基準になってるらしく、あちこちに日本語の地名やら名前やらあるみたいなんですよ。地名は知ってますけど、日本語名の方にはまだ会ったことないですが。ちなみに、闇の恵みと書いて闇恵山です」
「すごいッスね!? 名実ともに世界の中心じゃないッスかセンパイ!!」
「あー……まあ、考えようによってはそうかもしれないですね」
言われてみればそうかもしれないですけど、なんか実感わかないですねぇ……昔からこんな感じですし、なんか慣れました。
「たしかに、ミーシャ様は世界の中心にいらっしゃいますよね……そこに気づくとは、もしやルナ様はとてもすごいお方では!?」
「はっ、そうでありますね、ルナさまじつは天才でありますか!?」
「あのー、あんまその子を褒めると面倒なので控えた方が……」
「そッスよ、あたしはとてもすごいんスよ!!」
あーもう、やっぱり調子に乗っちゃってるじゃないですか……なにかやらかさないといいですけど。
「とにかく、目的地はあそこでいいですか? その場合、帰りは自力でどうに――」
グンッと、突然なにかに引っ張られるような感触がしたかと思うと。なぜか私一人だけ、空中に取り残されてました。
「ふあっ!?」
自分の状況は理解できましたが、なんでこうなったんです!? どこからか引っ張られたような感触がありましたが、後ろには誰もいませんでしたよ!?
「ミーシャ様!?」
シルフさんの慌てたような声が、ずいぶん遠くで聞こえました。気づけばだいぶ距離ができていて、かなりのスピードで地面に向かっているようです。
なにがあったのか理解するために辺りを見回してみると、シャイラーが後方約百メートルのところに見えました。
「……百メートル?」
どことなく引っかかっていると、今度はビタンッとなにか叩き付けられる感触が。ていうか私に感触がある時点で異常ですよね。
そこで上の方を見てみれば、今私がいるのはシャイラーの下方百メートルほど。
「そうでした、思い出しましたよ……私って本体の世界樹から、百メートルしか離れられなかったんでした……」
そういえば、ウィルちゃんが言ってましたね。シャイラーには私の根っこの一部が埋まっていると。ならそのおかげでシャイラーに行くことは可能でしたが、百メートル離れてしまったのでそれ以上進めなくなったわけです。
「ふうむ……となると、根っこも私の一部なので本体から離れても大丈夫だったわけですね。これまで長距離移動しても平気だったのは、おそらく地下に埋まっている根っこのおかげだったのでしょう」
どこまで根っこが伸びているのか定かではありませんが、相当な広範囲でしょう。そうでもないと、地中からマナを吸い上げて全世界に還元なんてできませんものね。
ならば私が移動できるのは、地上百メートル未満というわけですね。
ふうむ、今度私本体の根っこでも持って、どこまで飛べるかを試してみましょう。もしかすると、移動距離無限になるかもしれないですし。
「ミーシャ様、ご無事ですかー!?」
半泣きの声が聞こえ空を見上げると、ジェンさんの背中でシルフさんがパニック状態でこちらへ必死に手を伸ばしていました。
「すみませんシルフさん、私がうっかり――」
「本当に申し訳ございません! 誰も落とさぬと大口を叩いておきながら、ミーシャ様の御身を危険な目に……!! 今すぐにでも切腹してこの償いをいたします!!」
「いえやめてください本気で」
この程度で自分のお腹かっさばかれたら、私本気で困りますよ。
「今回の件は私が自分の移動限界を忘れていたために起こったことです。誰にも責任はありませんからシルフさん風で刃作り出すのやめましょうこれは命令です」
言ってる最中に切腹しようとしないでくださいよぉ……! 一瞬ガチでびびりましたから!!
それからジェンさんの背中の上で土下座をしているシルフさんをなだめたり、いつの間にかただただ大泣きしていたクロノスくんに大丈夫だと言ったり。自分も気づかなかったとオロオロしだすジェンさんの相手、そして始終なにが起こったかわからずキョトンとし続けるルナちゃんを通常状態に戻すのに、ずいぶんと長い時間がかかったのでした……




