五十四話 光の精霊、ウィルちゃんです
極光の都シャイラーに着くと、一番驚いていたのは当然と言えば当然なルナちゃんでした。
「いったいなにが起こったッスか!? テレポート的なあれッスよね!? なんスかセンパイ超能力者ッスか!? ちょーすごいッスね!?」
「どちらかと言えば魔法使いなんですけどね……」
というか魔法の存在は説明したはずですが、どうしてここで超能力が出て来るのでしょう。自分が魔法をまだ使えないからですかね?
大したことではないのでルナちゃんのことはスルーで、シャイラーへと足を踏み入れます。
シャイラーはそれなりには広く、直径十キロほどのほぼ真円の形をしています。広いと言っても空中にあるにしては、ですけど。
ここ、一周どれくらいあるんでしょう? 円周ってたしか、直径×円周率で求めるんでしたっけ? とすると一周は……まあ、それなりはそれなりです。
広さはさておき、この都の最大の特徴は、人間が一人も住んでいないことです。代わりに住んでいるのが――
「ど、ドラゴンがいるッスよ!?」
そう。ドラゴンが住んでいるのです。
ざっと千匹ほどでしょうか。色とりどりでサイズも様々なドラゴンたちが、あちらこちらで楽しそうに暮らしているのです。相当高度があるためそれなりに寒いはずなのですが、みなさんのんびりと適当な場所で寝ています。なぜそんなことができるかと言えば、周りにふよふよと浮かぶ光る物体のおかげでした。
「わ、このピカピカあったかいッスよ!? ずっと抱きしめていたいッス!!」
「それは灯草です。ゆたんぽくらいの温かさで――って、ルナちゃん触感とか温感あるんですか?」
「? そりゃあるッスよ?」
ふむ……転生したものの違いでしょうか。私は樹ですが、ルナちゃんの本体はウサギです。それなら触感があるのもうなずけます。
やたらとテンションの高いルナちゃんに苦笑いしていましが、似たようなテンションの人がもう一人いました。
「シルフのあねさん、ドラゴンでありますよ! おおきいであります!!」
「ああ、ドラゴンだな。聞いた話によれば、肉がとても美味いらしい。とは言うものの、向こうが襲って来ないかぎり人間は手を出さないらしいから、食べたことがある者はほとんどいないらしいが」
「たべられるのでありますか!?」
「自分は食べたことはないがな。そもそもドラゴンは知能が高く人の言葉を理解する者もいるから、わざわざ食料にすることは滅多に――」
「しゃべるでありますか!?」
超ハイテンションなクロノスくんの相手が大変らしく、シルフさん付きっ切りです。私は私でルナちゃんから目が離せないので、ちょうどいいと言えばちょうどいいかもしれませんけどね。
「みなさん、そろそろ行きますよ。ウィルちゃんが待ってます」
シルフさんが連絡を入れてくれたみたいなので、今頃待っているはずです。
そんなことを話していた時でした。
「み、ミーシャ様ー!」
パタパタと擬音がつきそうな走り方でこちらへ駆け寄って来る、小さな人影がありました。
「ナイスタイミングですよ、ウィルちゃん」
今話に出て来たウィルちゃんが、私たちのことを迎えに来てくれたのです。
ずいぶん小さくなったルナちゃんよりも更に小柄で、百三十センチそこそこしかない身長。細くて今にも折れそうな体を包むのは、巫女装束っぽい服でした。なぜそのものではなくぽいかと言いますと、下が赤い袴ではなく、明るいオレンジ色だからだからです。
キラキラと輝く赤みがかった金色の髪は、高い位置でツインテールに結われています。瞳も同じ色で、ホントもうかわいらしい幼女がそこにいました。
「お、お久しぶりですの! へふ、来るって聞いたのさっき、はぁ、なので、なにもおもてなしできないですの……けほっ」
「ウィルちゃん、先に落ち着いてください」
「は、はひぃ……」
走って来たせいで息があがっていたウィルちゃんはしばらくはぁはぁ言っていましたが、ようやく落ち着いたのか顔を上げました。
「久しぶりの方も、はじめましての方も、ようこそシャイラーへ、ですの!」
来客なんて滅多にないせいか、ウィルちゃんはとてもうれしそうです。こういう小さくてかわいい子見ると、抱きしめたくなるんですよね。ウィルちゃんといい、クロノスくんといい。
「あらためましてこんにちは、ウィルちゃん。今日は紹介したい人たちがいて来ました」
「はいですの! 大まかなことは、シル姉に聞いてるですの! えっと、月の女神のルナ様に、時の精霊のクロノスくんで間違いないですの?」
「はい、合ってますよ。あとの紹介は、本人からで」
まだハイテンションではしゃぎ回っている二人を呼ぶと、クロノスくんは素直に、ルナちゃんは微妙に不満そうにやって来ました。まだあちこち見ていたかったんでしょう。でもそれは後回しです。
「はじめまして、クロノスであります。そちらのほーが年上でありますので、ウィルのあねさんとよばせていただきたいであります」
「あ、あねさん……!」
これまで外見的にも生まれた順番的にも最年少だったウィルちゃんは、年上扱いされることがうれしいらしく目が輝いていました。あれですね、まだ自分も小さいのに弟とか相手には妙にお姉さんぶる感じのやつです。
「こほん、そ、その、ウィルはこれでも光の精霊で、ドラゴンさんたちのお世話もしてるですの!」
「ど、ドラゴンのおせわ! ウィルのあねさんちょーすごいであります!」
「あねさん、あねさんかぁ、えへへー」
なんでしょう、見てるとこう、ほっこりします。すごい癒し空間です。やっぱり小さい子はいいですねぇ……
「あたしはルナっていうッスよ! よろしくッス、ウィーちゃん!」
「え、あ、はい、よろしくお願いするですの……?」
若干空気の読めていないルナちゃんですが、まあ自己紹介の場なので問題はないでしょう。もうちょっとほほ笑ましい光景を見ていたかったですが。というかこの子、本気で誰もちゃんと呼ばないですね……本人がいいならいいですが。
一通り自己紹介も済んだところで、ついでに約二名がとってもお待ちかねの、シャイラー観光をすることになりました。




