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四十七話 娘を送り出すような気分です

 フィーマさんの結婚式の日は、あっという間にやって来てしまいました。私とシルフさんは今、会場である王城で待機しております。


 ずっと忙しかったのか、フィーマさんは一度も私の元へは来ませんでした。最後に会ったのは、ガノさんを紹介しに来た時ですから……一か月くらい前ですかね?


「さすが王族。結婚式がエルフのみなさん総出でやってますよ」


 結婚式を執り行う会場が王城の時点で予想はしていましたが、エルフは全員参加でした。端っこの方には、あのハ――ではなく、毛根に不自由しているあの人もいます。フィーマさんのことキライだったはずなのですが、ちゃんといますね。


 普通に考えて、王の結婚式は全員参加ですから当たり前なのでしょうが。


「……あの人名前なんでしたっけ」


 素で出て来ないです。なんかこう、濁点がついたような気はするんですが……まあ、出て来なくてもこれっぽっちも困らないのでいいですけど。


 そうこうしているうちに、結婚式が始まりました。


 そもそもこの世界において結婚式ってどんなものなのかなと思っていたのですが、普通に西洋風でした。中も教会と言うかチャペルっぽくされていましたので、そうかなとはなんとなく思ってましたが。


 最初は新婦入場です。赤いじゅうたんの敷かれたバージンロードを歩くのですが、フィーマさんが腕を組んで歩く相手って誰なのでしょう? 通常は父親と歩くもののはずですが……


 不思議に思い注目していると、答えはすぐに出ました。それも、思ってもみなかった答えが。


 扉が開き姿を現したフィーマさん。着ているのはやはりウエディングドレスなのですが、白ではなく薄い黄緑です。どうやら布が植物の繊維を織って作ったものだからみたいですね。素材そのままの色で。


 そしてその隣を腕を組んで歩くのは、こちらは普通に黒いタキシードを着た人物です。長い髪をオールバックに撫でつけ、凛々しい顔立ちで長身の――


 って、シルフさんじゃないですか!?


 危うく叫びそうになりましたが、どうにか声を上げずに済みました。まさかシルフさんがバージンロードを歩くとは……でも背が高くカッコいい系ですから、とてもお似合いではあるのですが。本気で驚きですよ。


 でもよくよく思い返してみると、この間フィーマさんの結婚式でのスピーチの話をした時になにか言っていたような気もします。


 それ以外は特に問題も驚くようなことも起こらず、式はつつがなく進んで行きます。そしてすぐに披露宴になり、私のスピーチの番が回って来てしまいました。


 緊張しながらも前へ出ます。この時代にはマイクの類はありませんが、拡声の魔法がありますので問題はありません。


 問題があるのは、スピーチの方です。地球では未成年でしたし、スピーチでなにを言えばいいのかサッパリわかりません。なのであまり出来のいいものではないでしょうが……やるしかないですよね。


「フィーマさん、ガノさん。結婚おめでとうございます。スピーチを務めさせていただくのは、私。世界樹のミーシャと申します」


 一番大切であろうお祝いの言葉を述べてからの、自己紹介。これはたいていの場合のスピーチで使える方程式だったような記憶があるので、ここまでは問題はありません。わからないのはここからです。


「初めて会った時のフィーマさんは、この人一人で大丈夫なのかなと心配になるような方でした。ですがいつの間にかこんなに立派に王さまになっていて……」


 ……なんでしょう。なにか違う気がします。私が言いたいのは、こんなことではないような……


「私は明日から、五十年の休眠期に入ります。私にとってはほんの一瞬でも、あなた方にとって五十年は、とても長い時間でしょう。そんな先の世界で、みなさんがどうなっているのか。私には想像もつきません」


 地球で五十年なんて、私の人生の軽く倍以上あったわけです。地球基準であったとしても、五十年は人生の半分を超えるほどの時間。それだけ長い間変わらないだなんて、どだいムリな話です。


「次に会うことができた時。あなたたちが、いい方に変わっていますように。私は心からそれを願います。フィーマさん。あなたの選んだ人です。きっと、あなたにいい影響を与えてくれることでしょう。ガノさん。フィーマさんのこと、よろしくお願いしますね」


 そしてずっと悩んでいた、プレゼントを贈ることにしました。


 私を中心にして、鮮やかな緑の光が王城いっぱいに広がって行きます。


「これは私からの贈り物です。この世界でもっとも強い護りの力を、この城に込めました。きっとあなたたちのことを、どこまでも護ってくれることでしょう」


 私には、こんなことしかできません。誰一人不幸になることなく、終わりを迎えられますように。そんな願いを込めることしか。


 その場で一礼して、私は席をへと戻ります。辺りから響くのは、万雷の拍手。


 ちゃんとまともにスピーチができたのか心配でしたが、どうにか終えることができたようです。


 ふと目が合ったフィーマさんは、涙を流しながら微笑んでいました。その笑顔は、晴れ晴れとしたもので。そんなフィーマさんにハンカチを渡すガノさん。


 その光景を見た私は、確信しました。この先ずっと、二人は幸せに暮らすということを。


 こうして二人の結婚式は、たくさんの笑顔とともに終わったのでした。これで私がやることは、もうありません。あとは、もう寝るのみです。


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