四十六話 もうそんな時期でしたか
「ふあ……」
クロノスくんの件も終わった少し後から、やたらとあくびが出るようになりました。でも理由がよくわからないんですよね……
そうそう。そういえばフィーマさん、近々ガノさんと結婚するらしいんですよね。ついこの間聞いた時は、とてもびっくりしましたよ。まさかこんなに早くくっつくとは、思ってなかったですから。
「それにしても、ガノさんに初めて会いましたが意外な方でした……」
フィーマさんの話を聞く限り子供っぽい感じでしたので、私てっきり年下かと思っていたのですけど。連れて来たのはなんと、十歳も年上の男性でした。
背が高く引き締まった体をしており、金髪金眼の凛々しい人でした。物腰もていねいでしたし、フィーマさんが惚れるのもわかる気がします。
「結婚式のスピーチ頼まれましたけど、あれどうにか断れませんかねぇ……」
最初シルフさんがそんな恐れ多い! と反対していたのですが、フィーマさんがかなりマジで
「そ、そうですよね。申し訳ありません。わたしの友人といえばミーシャ様と精霊の方々しか思いつかず……」
と半泣きになってしまい、慌てたシルフさんがしぶしぶ許可を出したんですよねぇ。
「ホントどうしましょう、私結婚式なんて出たことないですし。この世界において正装ってどんな扱いなんでしょう? 地球だと学校の制服可でしたけど、この世界そんなのないですし、ふあぁ……」
ついつい大口を開けてすごいあくびをしてしまいました。なぜここまで眠いんでしょう? 私の本体樹ですし、睡眠をとる必要なんて――
「睡眠をとる必要……?」
待ってください。そういえば私って、五十年ごとに寝ていたんじゃ――
「し、シルフさん!!」
「お呼びですか!」
姿が見えなかったので呼びかけたのですが、あっという間にシルフさんが姿を現しました。どうも割と近くにいてくれたみたいです。
「あ、あの、私の睡眠サイクルわかりますか? 次に寝るのはいつか」
「ええと、次に休眠期に入られるのは……ちょうど来週あるフィーマの結婚式の翌日ですから、十日後からですね。人間の暦で言えば、十日後は世界樹暦五十一年の元日ですので」
「と、十日後……」
もうそんな時期になっているとは、まったく気づきませんでした。すごく驚きです。いつの間にか、私基準の暦ができていることも驚きでしたが。
日付の感覚がずいぶんと曖昧なようで、起きてから五十年も経った気がしません。ついこの間のような気がします。
……こんなに眠りたくないと思ったのは、初めてです。眠って起きた五十年後は、きっと今とは全然違う風景が広がっていることでしょう。もう会えない人だっています。今から五十年後なんて、この世界の平均寿命ではほとんどの方は死んでしまってますから。精霊の方たちは別でしょうけど。
なるほど、フィーマさんが結婚式の日付を決めた理由は私でしたか。
一日でも遅くなってしまえば、私は休眠期に入り五十年の眠りについてしまいます。それだと私は、フィーマさんの結婚式に出席することができないですから。
「あの、ミーシャ様、いかがなさいました……?」
私の様子がおかしく見えたのか、シルフさんに心配そうな顔をされてしまいました。いけませんね。シルフさんを心配させるわけにはいきません。
「なんでもないですよ。ただ、月日が経つのは早いな、と思っただけです」
「それにしては、お顔の色がすぐれないように見えますが……」
「気のせいですよ。ただ暦とカレンダーと月日について考えていただけです。よく思いつきましたよね。説明されるまで気づきませんでしたよ。私の場合、たいていの説明されないとわからなかったですけどね。ミステリーとかでも、犯人を当てようと思って読むことなかったですし」
「……?」
シルフさんにはなんの話か理解できなかったようで、首をかしげていました。まあ、わざとわからない話をして煙に巻いたのですが。
「とにかく、問題ありません。強いて問題があるとすれば、フィーマさんの結婚式のスピーチをどうしようかということくらいです」
「そうでしたか! 大丈夫です、ミーシャ様のお言葉はどのようにささいなものでもありがたいですから! 気軽に思いついたことを言えばいいのです! なんでしたら一言であろうとも、フィーマは文句を言いますまい。それよりも、わたくしの方が――」
そうですよね、シルフさんならそう言いますよね……結婚式って、人生を左右するレベルのことだと思うのですけど。でもシルフさん精霊ですからお付き合いとか結婚とか、そういうことがわからないのかもしれませんね。
けど、私としてはテキトーなことを言うつもりは毛頭ありません。結婚式が人生においてとても大切なイベントだから、ということもあります。でも、それだけではないです。
「例えなにを言っても文句を言われないとしても、やっぱりちゃんと心から喜んでくれる言葉の方がいいですから」
何を言ってもいいからこそ、ちゃんとした言葉を送りたいのです。それに――
その言葉にいたく感激したようです、しばらくシルフさんはやたらキラキラした顔をしていました。
シルフさんに言ったことは、ウソではないですが真実ではありません。本当は、続きがあるのです。
それに。これがフィーマさんに贈り物ができる、最後のチャンスかもしれないのですから。




