二十四話 水中ダンジョンにも敵はいるんですね…… 3
フィーマさんが思いついたアイディアを実行すべく、私達は準備を始めました。
「相手はどれだけ図体がデカかろうと、魚です。凍らせてしまえば倒せるでしょう。なら、氷魔法を直接打ち込むのがいいと思われます」
「でも水中で氷魔法なんて使ったら、大変なことになるのですな。ミーシャ様ほどのお力があれば、この辺全部水の中じゃなくて、氷の中になってしまうのですな」
「ええ、ですから直接打ち込むんですよ。フィーマさんが出してくれた案の通り、こちらから空気のラインを作ります。シルフさん、それは可能ですか?」
「一時的にこちらの結界が小さくなるでしょうが、可能です。ただし乱発はできません」
「当たりさえすれば一撃で仕留められますから、大丈夫でしょう。あとは、どうやって打ち込むか、ですが……」
体内に打ち込むのが、もっとも賢い手段でしょう。それならばこちらに被害が及ぶことはありませんし、体の中心から凍るのならばいくらボス級の魔物でもひとたまりもないはずです。
となると、一番いい方法は――
「フィーマさん、あなたの矢の出番です」
「わ、わたしですか!?」
まさか自分にお鉢が回って来るとは思っていなかったのか、フィーマさんは驚きの表情で固まっていました。
「フィーマさんの矢に氷の魔法を込めて、ケルベロスフィッシュに向かって射かけます。矢じりには強化の魔法も仕込んでおきますから、当たれば肉にもぐりこむでしょう。そこで氷魔法が発動すれば、一発で冷凍魚のできあがりです」
「よ、よくわかりませんが、わたしがやるよりもミーシャ様ご自身でやられた方が成功率が高いのでは……」
「確かに全て魔法で行えばできはするでしょうが……私は弓矢を扱ったことがないんですよ。それに魔法だけではなく、物理攻撃を複合させた方がなにかと都合がいいんです」
念には念を、というやつです。それにもし万が一、フィーマさんが一人で魔物を相手取らなくてはならないような日が来てしまったとしたら。こうして強大な相手に攻撃したという経験は、きっと役に立つはずです。
フィーマさんは困った顔でこちらを見て来ましたが、すぐに力強く頷いてくれました。
「わ、わたしでお役に立てるなら!」
「では、よろしくお願いします」
フィーマさんは深呼吸をすると、背負っていた矢筒から一本矢を取りだしてつがえました。それを確認した私は、その矢に魔法を込めます。初チャレンジなので自信はありませんが、うまく行くことを願うしかないでしょう。
「シルフさん、合図を出したらできるだけケルベロスフィッシュに近づいてもらえますか? 近い方がなにかと都合がいいですので」
「了解いたしました」
「オイラはなにをすればいいのですな?」
「えーっと……このまま私の腕の中で待機です」
「……オイラ、いらない子なのですな?」
「そんなことないですよ! そのもふもふで私を癒す、というとても重要なお仕事です」
「重要ですな? なら頑張るのですな!」
力こぶを作るようにムンッと腕に力を入れるノームちゃん、とってもかわいいです……もういっそ、このまま私の本体まで連れて行けないですかね? 常にもふもふできたら、すごく和むのですが。
そんな私の計画をつゆ知らず、ノームちゃんの顔は真剣でした。このままノームちゃんにやることがないと気づかれる前に、私はシルフさんにゴーサインを出しました。
シルフさんが私達の乗った結界を、時速五キロほどで動かします。多少距離が離れてしまっていますが、逆に準備ができるので好都合だったかもしれません。
じわじわと距離が詰まり、彼我の距離は十五メートルほどまで縮まりました。
「シルフさん、この辺りでいいです。フィーマさんが矢を射る瞬間に、パイプをつないでもらっていいですが?」
「了解いたしました! 人間、しっかりやるのだぞ!」
「わ、わかりました。シルフ様、よろしくお願いいたします」
シルフさんは頷くと、フィーマさんの真後ろに回りケルベロスフィッシュを見つめました。
「私がケルベロスフィッシュの注意を逸らしますから、その瞬間に射ってください。また目くらましを喰らうと厄介なので」
二人が首肯したのを見計らって、私はケルベロスフィッシュのチョウチンアンコウの部分に向けて意識を集中させました。
ケルベロスフィッシュは私達のことに気づいたのか、全ての首がぐるりとこちらを向きました。そしてまた閃光を放とうとしたのに気づき、とっさにそこへ向けて攻撃をしました。
ボゴンッとくぐもった音が聞こえた時には、提灯部分が跡形もなく爆ぜていました。
『!?』
「二人とも、今です!」
ケルベロスフィッシュが驚きでのけ反ったところに、フィーマさんが正確に矢を射かけました。
空気のパイプがあったからでしょう。スタッと微かな音はイヤに明確に聞こえ、次の瞬間にはケルベロスフィッシュが凍りつくビシィッという音まではっきり響き渡りました。
バキバキとすごい音を立てて、凍ったケルベロスフィッシュは拳大のかたまりへと変わって行ったのでした。




