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未来(まえ)を見ることができた。

――ガチャ


「……ん?」


 オレは聞き覚えのある音に頭をあげる。

 目の前に、キャラがいない。

 ……いや、いた。

 彼女は、アウトランナーの助手席に座っていた。

 そして無言のまま、扉を閉める。


「…………」


 そのキャラの行動をどうとるか、オレは悩んでしまう。

 まだ、怒っていることはまちがいない。

 なにしろ、彼女はフロントガラスを見つめたまま、こちらを全く見ようとしていないのだ。

 オレは怖々と、運転席側の扉を開ける。


「あ、あのぉ……」


「許せないことが、ひとつある」


 キャラが冷たい声でそう告げて、こちらをキッとにらむ。

 オレは思わず、体をピクッと震わせて背筋を伸ばす。


「な、なんでしょうか……」


「キャラは、子供じゃない」


「……え?」


「キャラはもう成人した。子供じゃなくて大人」


「……あ、ああ。ご、ごめん」


 ふと、思い起こして気がつく。

 先ほど言い訳がましく口を動かした時、確かに「子供」を連発していた気がする。


「じゃあ、早く出発して。時間がない」


「え? ……ああ、はい」


 オレは運転席に乗りこみ、アウトランナーを走らせた。

 だが、彼女は視線を合わせてくれない上、ずっと無言だ。

 途中、電気を起こすためにエンジンをかけていいか確認した時だけ、「まだ明るいし、この辺なら多少の音なら大丈夫」と許可の言葉だけ聞くことができた。

 それ以外は、ずっと無言。

 こんな時、逆に静音性の高い車内が恨めしく感じる。


(まあ、そんな簡単に許してくれるわけもないか……でもなぁ……)


 それでも狭い空間で、ずっと無言はなんか気まずい。

 何か当たり障りがない話題はないかと、オレは頭を悩ました。

 そして、なにもいい案がないとあきらめかけた時、なんとキャラから声をかけてきた。


「ひとつ、謝っておく」


 相変わらず正面を見たままだが、その声に棘はない。

 オレは黙って一瞥だけして様子をうかがう。


「さっき、偉そうに言ったこと、実はとぅちゃんの受け売り」


「受け売り?」


「そう。とぅちゃん曰く『幾多の期待に応じれば、それはいつか希望につながるピョン』と」


「…………ビョ……ピョン?」


「ピョン」


「ピョン……か……」


「ピョン」


 キャラのとぅちゃん、ものすごくいいことを言ったのだ。

 なのに、最後の一言で台なし感が半端ない。

 この「ピョン」の破壊力は凄まじい。


「……つ、つーかさ、キャラのとぅちゃんとやらは、やっぱりウサギ耳なの?」


「あたり。ウサギ耳に尻尾。すごく強い」


「強い?」


「うん。筋肉がすごくて力持ちだし、髭を生やして男らしい」


「お、おお……」


 なぜかオレは、頭の中でバニーガール姿で想像してしまい、後悔の念が半端ない。

 絶対にそのとぅちゃんには会いたくないところだ。


「受け売りなのに、自分がわかったようなことを言ってゴメン」


「あはは。そういうことか。謝る必要ねーよ。キャラはきっと、ちゃんとわかって言ってると思うしな」


「……うむ。労働者としては、アウトより長いから先輩だしな」


「いきなり謙虚さがなくなったな」


 二人で顔を見合わせて、少し笑った。


「ちなみに、とぅちゃんはこうも言っていた」


 そのいい雰囲気の中、キャラは前を向きながら、とぅちゃんのマネなのか野太い声をだす。


「心から謝れるヤツは、成長するピョン!」


「ピョン……ね」


「ピョン」


 本当に「ピョン」がなければ名言なのに。


「成長か……」


「そう。しかも、年下のキャラに謝れるというのはすごいこと。だから、アウトは成長する。きっとドンドンよくなる。仕事もできるようになる」


「つーか、なるかねぇ? 周りに信用されるようになる前に、自分を信用できないよ。あはは……」


「自分を信じるのは難しくても、自分に期待するのはそんな難しくない」


「成長を期待か。成長できるかねぇ……」


「できる。少なくともキャラだけは、そのアウトの成長を期待している(・・・・・・・・・)


 そう言いながら、キャラがこちらを向いて優しく微笑んだ。

 オレは、それを一目したあとすぐ前を向く。


「おお……。あ、ありがとう……」


 オレはそれからしばらく、前だけを見て運転した。

 瞼の裏にその愛らしい微笑が焼きついて、彼女の顔を直視することができなくなっていた。


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