異世界車中泊物語。
鼻を撫でるように流れる風が、土の湿気た匂いを運んでくる。
数百メートル後ろの方にある、青々とした森からの匂いなのかもしれない。
ただ、オレの足下は荒れた大地で、少し砂埃が舞っていた。
「しかし、久々のヘルプコールだったな」
――はい。ここしばらく羅針本に反応はありませんでした。
周囲は荒涼とした見晴らしのいい大地だ。
ところどころに大きめの岩が転がっているだけで、少なくともオレの周囲に人はいない。
「あっちから来るのか?」
――羅針本の預言によると、そのようです。
だから、答えたのは人ではない。
オレの愛車、アウトランナーだ。
「そんなじゃ……」
オレは肩紐で下げていたライフルM40A5を手にして、近くにあった岩の上に乗って構える。
ライフルと言っても、実銃ではない。
いわゆるガスガン……なのだが、ただのガスガンではない。
「……あれか」
オレは、ライフルに取りつけていたスコープを覗いた。
レンズの向こうには、斜陽になりかけた空の下、確かに巨大なオオトカゲに追いかけられる、あの子らしい姿が見えた。
「懐かしいな……。ってか、あいつ、コモドオオトカゲに好かれすぎじゃないか?」
――ここからだとかなり距離があります。
「だな。でも、サバゲーチーム【流弾】でもう1年は鍛えられているんだ。このぐらいいけるだろう」
オレは、オレを異世界に送りこんだ、あの胡散臭い坊主【九鬼羯磨阿闍梨】のツテで手にいれたこの特殊な銃を扱えるようになるために、あるサバイバルゲームで鍛えてもらっていた。
「まあ、【流弾】の正式メンバーみたいにはいかないけど、オレにはお前がいるからな。アウトランナー、魔力供給!」
――はい。
オレの構えるライフルに見えない力が宿っていくのを感じる。
この銃は、ガスと魔力のハイブリッドライフルだ。
――いけます。
オレはスコープに敵を収めた後、その動きを考えて少し先を狙う。
息を吐きながら、トリガーを引く。
銃口から発射されるのは、BB弾という小さな玉。
だが、そこにこめられたのは、魔力の爆発力。
それは、オオトカゲの魔物を退治するのに十分な威力だった。
「よし。行こうぜ、アウトランナー」
オレはアウトランナーに乗りこむと、すぐに助けた彼女の所に走って行った。
§
「にゃぴょん! アウト!? やっぱりアウト!」
車から降りると、彼女がオレの元に駆けよってきた。
そして存在を確かめるみたいに、オレの二の腕をつかんだり叩いたりする。
若い。かなり若い時代のミューだ。
いや、これはもしかしたら……。
「どこに行っていた!? 魔物と一緒に崖から飛びだして、落ちたと思ったら消えて! 凄く心配していたんだぞ!」
やっぱりそうだ。
彼女はミューではなく、まだキャラだ。
しかも、オレがこの3年間、逢えることを待ち望んでいたキャラだ。
「悪かったな。急に元の世界に戻ってしまってな」
「や、やっぱり、そうだったのか。もしかして帰れたのかと思っていたけど……ん? あれ?」
ミュウが怪訝な表情でオレを見る。
というか、体中を舐めまわすように観察し、しまいには匂いまで嗅いだりしている。
「アウト……のはずなのに、なんかこの前より、なんか体つきもよくなって……雰囲気も落ちついた感じで……」
「そうか?」
「うん! それにあれを倒してくれたのもアウトだな!?」
そう言いながら、背後で転がっているオオトカゲを彼女は指さす。
「ああ。まあね」
「にゃぴょん! アウト、そんなに強くなったのか!? なんか10日ぐらいしか経っていないのに……いったい、あれから何があった!?」
「なにがあった……か」
それを語るには、時間がかかる。
「いろいろ……いろいろあったんだ」
「いろいろって……」
「もう日も暮れそうだな。コンビニおにぎりとカップラーメンがあるけど、食べるか?」
「にゃぴょん! 食べる!」
「なら、それを食べながらでも聞かせるよ。オレの異世界車中泊物語を……」
完




