1.「いつも通りの人助けと、六年ぶりの再会」
「がはっ!?」
ドラゴンの爪による一撃を食らい、焼けるような激痛と共に、僕の胴体からベチャリと臓物が零れ落ちる。
ダンジョン内に作られた人工的な空から、二台の配信用ドローンが一部始終をライブ配信している中。
「サク君!? いやああああッ!」
「何でサクが!? 生きてたってこと!?」
「サクサクがまたユミたちを庇って死んじゃうの! いや! 死なないで!」
軽鎧を装備した同級生の少女たちが叫んだ。
良かった。みんな無事みたいだ。
「ガアアアアアアッ!」
倒れた僕の頭上では、ドラゴンが無数の牙が並ぶ大口を開け、涎が滴っている。
「みんな! 僕がコイツの隙を作る! だからその間に攻撃し――」
バクンッ
「いやあああああああああッ!」
「サク!」
「サクサクうううううううううううッ!」
少女たちの方を振り向いた僕の首が噛み千切られて、意識が深い闇へと落ちていった。
こうして僕は今日もまた死んだ。
※―※―※
「ッかはぁ!」
意識が戻った。
少女たちは未だに悲鳴を上げている真っ最中。
新しく生えてきた頭部を使って背後を振り返ると、咀嚼のために開閉するドラゴンの口内に、ついさっき死んだ僕の生首が見える。
今回はかなり早く復活出来たようだ。
「ほら、みんな! 今の内にコイツを攻撃して!」
促すも、少女たちは一瞬で蘇った僕を見て混乱しているようだ。
「え!? サク君が生き返った!?」
「生きてる! サクが生きてるし!」
「確かに死んだはずなの! 一体何が起きたの!?」
仕方がないので、僕は自分で対処することにした。
「僕は庇って救うのが専門だから、攻撃は得意じゃないんだけどね」
そう言いながら、僕はドラゴンに向かって跳躍した。
「僕の頭部は美味かった? もっと僕の肉を喰いたいかい? そうか、それならもっとくれてやるよ!」
「ガア!? ……ガアアアアアアッ!」
生き返った僕に一瞬戸惑ったものの、食欲には勝てなかったらしく、僕に向かって再び巨大な顎で攻撃するドラゴン。
「ぐっ!」
身体を仰け反らして致命傷を回避しつつ、伸ばした左腕のみを噛み切らせた僕は、ドラゴンが飲み込むのを待ってから、叫んだ。
「『増殖』!」
ユニークスキル【不屈のヒーロー】に付随するスキルによって、ドラゴンの体内で、腕の本数が百万倍に増加。
「グゲッ!? ゴガッ!? ギ……ゲ……ッ!」
ボンッ
ボコボコと身体が変形したかと思うと、全モンスターの中でも最強クラスの硬度を誇る鱗に全身を覆われたドラゴンが、内部から破裂。
血飛沫と共にびちゃびちゃと内臓が吹っ飛ぶが、僕は微動だにしない。
モンスターは死ぬと消滅するから。はい、消えた。
それよりも問題は、雪崩の如く飛び出してきた無数の腕だ。
「お疲れさま。もう良いよ」
パチン
少女たちが腕の海に呑み込まれないように、僕は指を鳴らして迫りくる腕を全て消した。
「サク君……本当にサク君なの!?」
振り返ると、真っ白なロングヘアで眉毛も睫毛も肌も白いミシロ(聖光美白)が声を震わせながらふらふらと近付いてきた。
今僕の髪は黒から緋色に変化しているけど、ヒーローモードの時はいつも目を隠している長い前髪が逆立っているから、顔が見えて分かりやすいみたいだ。
「うん、僕だよ! 緋色サクタロウだよ! 生き返ったんだ! きっとみんながくれたこれのおかげだよ! ありがとう!」
再び生えてきた左腕でポケットから取り出して見せたのは、『神様が守ってくれますように』と三人が折ってくれた千羽鶴ならぬ三羽鶴の御守りだった。
「奇跡だわ……! あの事件の後、全て燃えちゃったはずなのに……!」
口元を覆い感極まるミシロとは対照的に、長身でピンク色のショートカットかつ褐色のルリ(大木谷瑠璃)が怪訝な表情を浮かべる。
「生き返った……? 本気で言ってんのあんた!?」
「そう。神様のおかげで転生出来たんだ。まぁ、見た目は同じで年齢が違うだけだから、転生って言えるのか微妙だけど」
横から小柄で耳が尖っており金髪セミロングかつ蒼色と翠色のオッドアイのユミ(恵留風優美)が口を挟んだ。
「サクサク。さっきもまた死んだように見えたの」
「そうだね、また死んだよ?」
「!?」
「ああ、でも大丈夫。僕、神様のもとで一万年修行して、その時も含めて今までに数えきれないくらい死んでるんだけど、神様の加護のお陰でこうやってちゃんと復活出来るから! どんな攻撃を受けても立ち上がるって、ヒーローっぽくて格好良いよね!」
胸を張る僕だったけど、三人はまだ戸惑っているようだ。
「普通なら絶対に信じられないけど……サク君の言うことだし、事実こうやってサク君は私たちの目の前にいるんだし、信じるわ!」
ミシロが僕をそっと抱き締め、ルリとユミも続いた。
「お帰りなさい、サク君……また助けられちゃったね……助けてくれてありがとう……でも、もうあんな無茶はしないで……」
「お帰り、サク。……あーしも、もうサクが傷付くところなんて見たくないし……。頼むから、自分の命を人助けのための道具みたいに使わないで欲しいし……」
「……ユミからもお願いなの……。サクサクがヒーローに憧れてることは小学校の頃からずっと知ってるの。でも、もしもヒーローが死んじゃったら、助けられた人だって手放しに喜べないと思うの……。自分が死んでも平気、みたいな戦い方は止めて欲しいの……」
三人とも、僕を抱き締める腕が震えている。
昔から知ってたけど、みんな、本当に優しいんだよなぁ。
僕のことをこんなに想ってくれるだなんて。
「そんな風に言ってくれるだなんて! ありがとう! みんなの想い、確かに受け取ったよ!」
僕の言葉に、少女たちは安堵したように微笑を浮かべる。
よし、もっと頑張ろう!
だって、これだけみんなから温かい想いを受け取ったんだから!
身体を離したミシロが、ふと、僕の胸に目を向けた。
「さっきから気になってたんだけど、サク君の胸のウィンドウにある〝残機1〟っていうのは何?」
「あーしも気になってた! さっき死ぬ前は2だったし!」
「ユミも見たの! 2だったのが今は1になってるの!」
自分の胸を見てみる。
けど、そんなウィンドウはどこにもなかった。
「ははは。ミシロもルリもユミも、本当に優しいよね! 僕に命を大切にして欲しいからって、そんな嘘をつくだなんて」
「え!? サク君……見えてないの……!?」
「……あーしだけじゃなくて、あーしら三人には見えてるってことを考えると……本人だけには見えないタイプの奴だし、これ……」
「それよりも! 重要なのは、〝残機2〟だったのが、ダンジョン自殺しようとしたユミたちを庇ったせいで、〝残機1〟になったってことなの!」
「「!」」
彼女たちの全身が、再び震え出した。
先刻よりも大きく。
「ご、ごめんなさい、サク君……! 復讐のためとかそんな自分勝手な理由で私たちが命を粗末にしたばかりに、サク君を危険な目に遭わせてしまって……! ど、どうお詫びすれば……ああ、私の命をサク君にあげられたら良いのに!」
「つまり、サクは、今後はもう、一度たりとも死ねないってことだし! あーしらのせいで! サク、お願いだ! 本当に……本当にこれからは無茶しないで欲しい! せっかくこうしてまた六年振りにサクと会えたのに、またサクが死んじゃったら……あーしはもう生きていけない!」
「サクサク、これは優しさからついた嘘とか、そういうのじゃないの! 本気で言ってるの! サクサクには見えていないだけで、サクサクはもう一度死んだら、今度こそ本当に死んじゃうの! お願いだから、もう絶対に自分の命と引き換えに誰かを助けようとしないで欲しいの! もし助けが必要な人がいたら、ユミたちが代わりに助けるの! こう見えてもユミたちは、S級探索者なの! 任せて欲しいの! だから……どうかお願いなの!」
目に涙を浮かべて懇願する三人の姿に、僕は感動していた。
「みんな! 温かい言葉をくれて、本当にありがとう!」
本当に優しい……! 優し過ぎるよ、みんな……!
よ~し!
こうなったら、これまで以上に人助けをめちゃくちゃ頑張ろうっと!
本当はつきたくないであろう嘘までついて僕の身体の心配をしてくれるみんなの想いを受け取った僕は、心の中で決意を新たにしたのだった。
と、その時。
「う……そ……!?」
その銀色の瞳を驚愕で見開いたミシロが、いつもは薄紅色の唇を真っ青にして、わなわなと震える。
「残り29日23時間59分59秒、58秒、57秒……」
ミシロが凝視するのは、僕の胸だ。
「そ、そんな……!?」
「酷いの! こんなの嘘なの!」
ルリとユミも、顔面蒼白になった。
きっと〝何かが新たにウィンドウに表示された〟と言いたい、ということだろう。
相変わらず、僕の胸には何も無いんだけどね。
「サ、サク君……落ち着いて聞いてね……お、恐らくこれは……サク君の、じゅ……寿命が……あと一ヶ月しかない……ってことだと思うわ……」
「え?」
唐突だった。
でも、残機の話も突然だったから、今更だけど。
「こ、こんなのどうすれば……!?」
「お、落ち着くし! きっと何か方法があるし! きっと、何か……何か……!」
「お、お願いなの! サクサク、死なないでなの! もうユミを一人にしないで!」
動揺からか、みんな目の焦点が合っていない。
すごい演技だ!
ここまでして、僕の身体を心配してくれるだなんて!
「あ! そ、そうだわ! これは一種の呪いなのよきっと! だから、サク君、これからは呪いを解くためのアイテムを私たちと一緒に探すって約束して! サク君はヒーロー活動してるんだよね? 私たちが止めても無駄だろうけど、その活動の前とか、合間とか、後とかは、お願いだから解呪のために時間と労力を使って!」
「そ、そうだし! 今となっては、サクがヒーロー活動してるのは明白だし。ダンジョン自殺が流行ってるにもかかわらず、この三年弱で実際に死んだ奴は一人もいないから、おかしいと思ってたし! サクがその活動を何よりも大切にするのは分かるけど、あんたは自分の呪いを解くこともちゃんと考えるべきだし!」
「そ、そうなの! それが良いの! サクサクと一緒にダンジョンに潜って、解呪アイテムをみんなで必死に探して。ヒーロー活動する時は、サクサクの代わりにユミたちがダンジョン自殺から女の子たちを守って。そうしたらきっと、サクサクの呪いを解くアイテムも見付かるはずなの!」
胸が熱くなる。こんなに僕のことを深く想ってくれているだなんて、思わなかった! 優しい嘘をついてまで、僕を気遣ってくれるだなんて!
こんなに素敵な仲間なんて、世界中のどこにもいないよ!
「みんな、ありがとう! お言葉に甘えるよ! これから宜しくね!」
にっこりと笑う僕に、悲壮感漂う表情で彼女たちは頷いた。




