開幕
正午。SUPER GTのスタート時間が迫る。
出走する各車がコースのスタート位置であるグリッドにつき、最終調整を行っている。
今回、この開幕戦は300キロの距離をどれだけ早く走り切れるかのレースとなっている。
周回数で言えば82周だ。
ここでSUPER GTのレギュレーションや基本情報をおさらいしよう。
このシリーズにはレースマシンのクラスが二種類ある。
GT500クラス、GT300クラスだ。
この両クラスの名前は、マシンの最大出力が元となっている。
GT500クラスは500馬力、GT300クラスは300馬力ということである。
GT500クラスには日本三大自動車メーカーである、『日産』『トヨタ』『ホンダ』のクルマが各メーカー5台ずつ、合計15台のクルマが参戦する。
GT300クラスには上記のメーカーに加えて国内外から様々なクルマが25~30台ほど参戦する。
その中にはトヨタの『プリウス』など、スポーツカーとは呼べない大衆車も参戦することがある。
SUPER GTでは、チームごとに必ず二人のドライバーが在籍し、レース中にピットと呼ばれるコース脇のエリアに入って交代しなければならない。
一人だけが速くても勝てるわけではないのだ。
『只今より SUPER GT ラウンド1 岡山 GT 300キロレースの開会を 宣言いたします!!』
スピーカー越しに、開会宣言の声がこだまする。
隊列を組んだマシンたちの先頭に、『1min』と書かれたプラカードを持った女性が歩いてきた。
レース開始まで残り1分の合図である。
その女性の登場を皮切りに、各車のエンジンに火が灯る。
野獣の雄叫びのような、大地が震えるような轟音が辺りに響く。
ある人にとっては天使の咆哮。またある人にとっては煩音。
瀬名たちにとっては無論前者であった。
会場のボルテージは最高潮に達する。
しばらくして、先頭の一台がゆっくりと動き出す。
フォーメーションラップの始まりである。
フォーメーションラップ。
セーフティーカーと呼ばれるレース車両でないクルマを先頭に数周コースを走る、レース前に行われる周回である。
なぜこのフォーメーションラップが行われるか。
通常、SUPER GTではローリングスタートという全車が一定速度で走りながらレースをスタートする方式がとられている。
そのためには隊列を整えなければならないため、このフォーメーションラップ中にゆっくり走ることでマシンを整列させるのだ。
全車がコースを一周し、最終コーナーを立ち上がる。
するとセーフティーカーがピットロードへと入っていった。
これが本当のレース開始の合図だ。
整った隊列でホームストレートをゆっくりとレースカーが進んでゆく。
スタートシグナルの二つずつ縦に並んだ赤いランプが一列、また一列と灯る。
ランプが全て赤く灯ったあとしばらくしてそのランプは一つ残らず消えた。
ひときわ大きな快音が響く。
2時間を超える戦いが今、始まった。