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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第一章 光岡大学自動車部
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修行

「SUPER GTに参戦するには国際B級ライセンスが必要だ。いきなり参戦することが出来るわけではない。」


モータースポーツには『ライセンス』というものが存在する。


これはレースに対する参加資格のようなもので、いくつかの種類が存在する。

今回瀬名が目標とする国際Bライセンスを取得するためには、『国内B』『国内A』『国際C-C』ライセンスを順番に取得する必要がある。


「国内Bと国内Aは比較的簡単に取得できる。サーキットで走り、講習会を受講するだけでいいからな。だが問題は国際C-Cだ。」


国際C-Cライセンスを取得するためには、競技に10回以上出場する必要がある。


「大学生として出場する大会はこの10回にカウントされません。なんとかして公認の大会に出場する必要がありますね。」


レースに出場するにはそれなりのお金と時間、そして優秀な人材が必要となる。


「どのレースに出場するのがいいですかね?」


瀬名が訊く。


「F4…と言いたいところなんだが、F4も事前にレースに参加していないと参加資格が無いんだ。通常、プロレーサーは幼い頃からカートの大会などでレースに参加している。だからこの参加資格に引っかかることはないんだが…」


瀬名はかなりイレギュラーな状態でプロになろうとしている。


それだけ、厳しい条件になるのだ。


「…瀬名くん、キミのクルマって車種はなに?」


松田は何か思いついたようにそう訊いた。


「え?ホンダのフィットですけど…」


それを聞いて崇斗もハッとしたように指をパチンと鳴らした。


「スーパー耐久か!」


スーパー耐久。

『S耐』の愛称で知られる、箱車レース。


SUPER GTが2つのクラスに分かれているのに対して、S耐は9つのクラスに分かれたレースである。

それだけでも途轍もない台数で争われるレースだということが分かるだろう。


その9つのクラスの一番下、ST-5クラスに参戦できる車種の一つが瀬名のクルマである、ホンダ・フィットなのだ。


「ただし、参戦するのは良いとして…キミの運転には若干のぎこちなさが感じられる。日常生活でその程度では、ハッキリ言ってレースではまず勝てない。」


それを聞いた瀬名は少し顔を赤くしてうつむく。


「親父、それに関しては部活の中で今年度中にどうにかしよう。瀬名は光岡のエースになれる。そんな気がするんだ。」


可偉斗がフォローを入れる。


「瀬名くん。」


松田がうつむいた瀬名の頭を人差し指でポンポンと叩きながら。


「僕の後を継ぐつもりなら、文字通り死ぬ気で頑張るんだ。生半可な努力では、スタートラインに立つことすら許されないよ。」


優しく、しかし圧のある言葉だった。

だが、その言葉は確実に瀬名の心に火をつけた。




1か月の間、瀬名と琢磨は体幹のトレーニングを中心に自主練習を重ねた。

瀬名に関してはそれに加えて、件のバーにあるシミュレーターを使用しての練習を行う。


その練習風景は鬼気迫るものだった。


瀬名をよく知る常連客から見ても、普段の遊びに来る瀬名とは表情も纏うオーラも違っていた。

心なしか筋肉がつき、太くなった腕に汗を滲ませてハンドルを握る。


注文する飲み物は、スポーツドリンク。


ひたすらストイックに走り続けた。


練習を続けていくうちに、彼の実力は新たなステージへと達する。

PADでのアクセルワークはどんなに細かくても『弱』『中1』『中2』『強』の四段階で限界だった。


現実でも日常生活程度ではそこまで細かなアクセルワークは必要とされない。


しかしシミュレーターによる限界領域での走行で、瀬名はアクセルに10段階ほどの強弱をつけることに成功した。


自分で意識してやったことではない。最速を目指しているうちに、自然とそうなっていった。


アクセルを踏む経験を重ねるうちに、右足の感覚が研ぎ澄まされていったのだ。


結果、状況に応じて最速と思われるアクセル強度を瞬時に発生。


マシンの限界性能を引き出すに至る。


ゴールデンウィークに入る頃には、京一を抜き関東タイムランキングのトップに躍り出た。




一方そのころ、琢磨はというと。


「ここは大事そうだな…」


分厚い本に蛍光ペンで線を引いていた。


勘違いしないでほしいのだが、琢磨は大の勉強嫌いである。

机に向かったのなんて、受験前の2か月くらいのものである。


彼の両親もとうとうおかしくなってしまったと思い、積極的に声を掛けるようにしている。


ただし当の本人はそのことを全く理解していなかった。

彼が開いている本は、自動車整備の専門書である。


瀬名とのポテンシャルの差を自覚した彼は、ラジコンのセッティングの知識と経験を活かしてサポート役に徹することにした。


前にも書いた通り、ラジコンと実車は基本的なつくりは同じである。


どこをいじればどんな挙動の変化をするか、などは頭に入っている。


その知識を実車に当てはめていくのだ。


1か月の間に、琢磨は現状の自動車部のエースメカニックである亜紀と同等かそれ以上の能力を身に着けた。


そして、瀬名たちの謹慎が解けた5月18日、土曜日。


全関東学生ジムカーナ選手権大会が開催される。


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― 新着の感想 ―
瀬名くんの中で具体的な目標ができて、集中して頑張れているのかな(*'ω'*) サポートに徹すると決めた琢磨くんもすごく頑張って勉強してて、二人を応援したい気持ちです!!
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