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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第一章 光岡大学自動車部
12/157

勝敗決す

星野の走りはまさに安定そのものであった。


軸のブレない、キレイな走り。『先生』と呼ぶにふさわしい走りだ。


タイムは29秒964。


当然のように暫定のトップに立った。




二人の今後1か月はこの男に託された。


佐川琢磨。


ここまではタイムランキングや直接対決で瀬名の後塵を拝している姿が目立っている…が。

彼には瀬名との決定的な違いがあった。


琢磨はラジコンの全国大会に出場した経験を持つ、生粋のラジコンプレイヤーである。


『ラジコンなんてただのオモチャでしょ?』と思われるかもしれない。


しかし実際に、ラジコン出身のドライバーがSUPER GTに参戦するということが起きている。

なぜ、ラジコンがそこまで実際の運転の腕に影響するのか。


基本的なライン取りやアクセルワークもそうなのだが、一番大きな理由は別にある。


それは、マシンの状態把握能力である。


ラジコンは基本的には実車と同じつくりをしている。


そのラジコンを走らせていると、次第にどんな走りをすればマシンがどんな挙動をするかが分かってくるのだ。


また、ラジコンは自分のマシンを外から見ながら走るため、その状態把握能力は他人の走りを見ているときにこそ発揮される。


琢磨はこれまでに瀬名と星野の走りを、いわば失敗例と成功例を見ている。

スタートラインにマシンを置いた琢磨は、瀬名の問題点と星野の参考にすべき点を脳内にインプットする。


「5、4、3、2、1…ゴー!!!!」


スタートを意味する旗が振られた。




「クッ…こりゃしんどいな…!」


琢磨もまた、限界領域で走るクルマに乗車したことはない。


左右に体が振られる。


しかし、ライン取りやゲーム内での絶対的な速さは瀬名に譲るものの、ハンコンユーザーだけあって実際の『クルマを手足のように扱う能力』は琢磨の方が優れていると言っていいだろう。



「オイお前。」


「瀬名ですよ。」


「瀬名、アイツは幾分かお前よりマシだぞ」


「いちいち言わなきゃダメなんスかそれ」


星野の言う通り、琢磨は『成功例』と遜色ないペースでマシンを運んでいた。


『ハァ…』と下を向いてため息をついた後、瀬名は走るクルマを見てこう言った。


「琢磨は速いですよ。実際のクルマを走らせたら、俺なんかよりも遥かに。」



「20…21…」


帰りのスラロームに差し掛かる琢磨。


「イケる…イケるはず…!」


左右に振られながらも、その目線は前だけを見ていた。


「23…24…」


最後のコーンの脇を抜ける。


「お、速いんじゃない?…26…27…」


ストップウォッチの数字は刻一刻と大きくなっていく。


「ブレーキング!!!」


琢磨はブレーキを踏み込む…が。


「こんなもんだろ!!!」


ペダルを一番奥までは踏み込まず、8割のところで止めた。


この『8割』は完全に勘であった。


これ以上踏み込めるかもしれないし、これでもロックするかもしれない。


しかし、この勘がドンピシャで当たる。


ブレーキが赤熱し、その威力を最大限発揮するに至った。


「止まれェェエエ!!!!」



マシンが枠内に停止し、京一はストップウォッチを止めた。


「おっ。こりゃ凄い。」


亜紀と可偉斗の所へ走り、3人でだけタイムを共有する。


ドアを開けてクルマから降りた琢磨にも、『やべえ、やばいですね』という声が聞こえてきた。


「どうだった?」


クルマの近くまで駆け寄ってきた瀬名に、琢磨は訊いた。


「サイコーだよ。お前すげーな」


瀬名は肩をバシバシ叩いてねぎらいの言葉をかける。


「さあ、後はタイムだ。」


全員の視線が京一に集中する。


その京一は、心底興奮した様子で。


「只今のタイムは!!!!」


全員に緊張が走る。


「30秒108!!!!」


わずか0.144秒差。


この非常に小さな差で勝負が決するのがモータースポーツなのである。


瀬名と琢磨はその場に突っ伏した。


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― 新着の感想 ―
琢磨くん大健闘!!すごく惜しかった!!(。>_<。) ラジコンが実車と同じつくりというのも知りませんでした! オモチャだと思ってました……ゴメンナサイ(;´・ω・)
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