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1話 のんびり生きたい

 がやがやがやがや。

 学校にいるみんなは何故かいつも騒がしい。だから学校の教室にはがやがやという音が絶えない。

 みんな、何でそんなに騒がしくするんだろうか……? 私は暗い人間だからか、そんな事がよく分からない。

 私は教室の隅で、一人でぼーっとしながら、授業が始まるのを待つ。


 そしてしばらくぼーっとしていたら、やがて授業が始まった。

 さっきまでがやがやとしていたみんなは、騒ぐのをやめて、先生の話を聞き入る。

 今日は道徳の授業ならしい。社会は一つの共同体、みんなで支えあって生きていきましょう。先生は私達へと、そんな事を話していた。

 私はそんな話を、ぼけーっとしたままで聞いていた。


 そしてしばらく経ったら、授業の時間が終わった。

 授業から開放されたみんなは、友達同士で集まって、またがやがやとしだす。

 そんな光景を見ながら、私は一人、教室の隅でただ思う。

 みんなどうして、あんなにがやがやとするんだろうか……?


 本当は私も、あの輪の中の中に加わった方がいいのかもしれない。

 それがさっき先生も言っていた、社会の中で生きていくという事なのだろう。

 しかし私は、どうしてもそうする気持ちにはなれない。そう思う理由は、私は他人というものが凄く苦手な性格だからだろう。


 みんなどうして、あんなに他人と仲良く出来るのだろう……?

 世の中にはどうして、明るい人ばかりしかいないんだろう……?

 そんな事を漠然と考えるが、答えは出ない。


 みんなは毎日がやがやとしている。そして私は、あの輪の中に入っていく事が出来ない。

 がやがやがやがや……。がやがやがやがや……。

 学校のみんなは、今日もがやがやとしている……。


「ぅー……」


 私は、ぼーっと目を開ける。

 すると、さっきまで学校にいた筈の私は、何故かベットの上で寝転んでいた。


「……?」


 辺りを見渡して、周囲の状況を確認してみる。

 私の周りには、レンガで出来た壁や、木の板を貼り付けて作られた床や、煙突へと繋がっている暖炉などがあった。

 まるで、昔の外国の家みたいな場所だ。


「ああ……」


 状況を理解すると共に、寝ぼけていた頭がはっきりとしてくる。

 どうやら私は、さっきまで眠っていたらしい。学校にいたのはただの夢だったのだ。

 そしてここは、私の部屋だ。

 前世の私の部屋ではなく、今世の私の部屋。


「そっか……、私もう、学校行かなくていいんだった……」


 見慣れた自分の部屋に安心しながら、私は改めて、ある事を思い出していた。

 自分はもう、一度死んでいて、そして違う世界に生まれ変わっているのだという事を……。



----



 昔の私は、普通の日本人だった。

 普通の一般家庭に生まれて、普通に学校に行ったりして、大人になりたくないなーみたいな事を考えながら、毎日をのんびりと生きていた。 

 しかし、そんな私が13歳になったある日の事。

 何時も通りぼーっとしながら横断歩道を歩いていたら、信号を無視してきたトラックに轢かれてしまった。

 その後の事は意識がないから分からないが、たぶん死んだのだと思う。


 そして事故にあった私は、0歳の赤ん坊になった。

 あまりにも唐突な話だし、自分でも原因などは全く分からないが、実際にそうなったのだからしょうがない。

 つまり私は、一度死んだ後、生まれ変わりというものを体験したのだ。


 生まれ変わってからしばらくの間、私には前世の記憶が戻っていなかった。

 そんな私が前世の記憶をはっきり自覚したのは、6歳くらいの頃だ。

 その時は、どうして自分にこんな記憶があるのか、結構混乱したりもした。

 けれど色々悩んだ末、生まれ変わった理由なんていう超常的な事は分からないから、悩んでもしょうがなと結論付ける事にした。

 なので今では、自分が生まれ変わっている事に対しては、二度も人生を送れるなんてラッキーだなぁみたいな事だけを思っている。


 今世の私の名前は、リューリュ。まだ9歳の女の子だ。

 前世での年齢も合わせれば22歳という事になるのかもしれないが、前世の記憶を持っている事は誰にも話していないので、周りにも9歳で通している。

 そして今は、何時も通りに朝起きて、何時も通りに自分の部屋にいる所だ。

 


 ベットの上でぼーっとしながら、改めてそんな事を思い返す。

 そうして状況を確認し終えた後。次に私が思った事は、お腹減ったなぁという事だった。


 朝だし、朝ご飯を食べに行こう。

 そう思い立って、私はベットから降り、台所へと向かった。



「リューリュ、おはよう」


 台所に着いたら、そんな声をかけられた。

 この聴き慣れた声の主は、今世の私のお母さんだ。


「おはよー、お母さん」


 挨拶を返しつつ、お母さんに抱き付く。


「どうしたの?」

「ちょっと怖い夢見た」

「そう」


 怖い夢だった。私は前世の世界で、学校という場所がかなり苦手だった。

 お母さんはそんな私へと、頭をなでなでしてくれる。私はそれで温かい気持ちになれる。


「えへへ、もっと撫でてー」

「はいはい、リューリュは甘えん坊さんなんだから……」


 前世の私の両親は、ちょっと絡みにくい感じの人達だった。

 けれど今世の私のお母さんは、大人しいし優しいし、絡みにくい所が全然ない。

 だから私は、今世のお母さんの事が大好きだ。


 一通り頭を撫でて貰った後、私はお母さんから離れる。

 そしてテーブルの席に着いて、お母さんが作ってくれた朝食を食べる。

 今日の朝食は、パンとスープ。何時もの我が家の朝食だ。

 そんな食事を味わっていると、お母さんが話しかけてきた。


「リューリュ、今日も採集に行くの?」

「そのつもりだけど」

「近所の人に聞いたんだけれど、昨日、聖域の外に竜が出たらしいわよ」

「そうなんだ」


 採集とは、森に行って木の実などを取ってくる事だ。

 私は日課として、殆ど毎日それをしながら過ごしている。

 しかし、竜が出たのか。物騒だなぁ……。


「もし竜がいたら直ぐ逃げて、精霊様にちゃんと報告するのよ」

「はーい」


 私はお母さんと、そんな他愛のない世間話をしたのだった。



 それから少しして、朝食を食べ終えた私は、お皿を洗って部屋に戻った。

 部屋の中で、汚れてもいい外行きの用の服に着替える。

 そして採集用の大きな鞄を肩にかけた後、玄関へと移動する。


「じゃ、今日も行ってくるねー」

「行ってらっしゃい」


 そしてお母さんに見送られて、私は何時も通り、森へと採集に向かうのだった。



----



 春のぽかぽかとした陽気が漂う中。

 家の外には、あたり一面の小麦畑が広がっている。

 そんなのどかな道を歩きながら、私は何となく、今朝見た夢の事を思い返す。


 前世の世界の私は、ネットを見るのが好きだったし、ネットの小説とかもそこそこ見ていた。

 だから、未だに奇妙だとは思う。私は今まさに、異世界転生という体験を味わっているのだから……。


(リューリュ)


 そんな事を思いながら歩いていたら、頭の中に声が響いた。

 これは、精霊様に話しかけられる感覚だ。

 そしてこの声色。おそらく相手は、この辺りで一番偉い精霊である、主精霊のロシナ様か。


「なんでしょうか?」


 私は歩いたままで、どこへ向けるでもなく声を発する。

 精霊様は遠くの物音でも聞き取る事が出来るので、私の声を拾って会話をしてくれる。


(今日も聖域の外に行くの?)

「そですけど」

(昨日、聖域の外に竜がいたっていう報告があるんだけど)


 どうやら精霊様は、森へと向かう私が心配で声をかけてくれたらしい。


「ああ、それならお母さんからもう聞きましたよ」

(そっか。じゃあ分かってると思うけど、気をつけてね)

「はーい」


 そうして、精霊様との会話は終わった。


 私はこの世界で、もう9年も生きている。

 だから、精霊様と会話をするという事も、もうすっかり慣れている。

 けれど未だに、そんな事に対して奇妙さを覚える事はある。

 それは、私にとっての前世の世界と今世の世界の差異の象徴が、精霊様の存在だからなのだろう。


 私はそんな事を思いながら、引き続き森へと向かって歩いていくのだった。



----



 道をしばらく進んだ私は、やがて集落の端へと着いた。

 そこには、立派な城壁が張り巡らされていている。

 この城壁の周りは全て、草や木が伸び放題の場所、つまりは森林となっている。

 今向かっている目的地がそこなので、私は門の部分を通って、城壁の外へと出て行く。


 そして私は、森の中に入った。

 森の中は、木々が高くまで生い茂っており、日の光などがあまり差し込んでいない。

 なので全体的に、薄暗く不気味な場所という印象を受ける。

 木の実などを採集する為に、私はその森の中を歩いていく。



 そうして少し歩いた後。

 私の正面に、兎が出てきた。

 森の中で兎に会うだなんて、前世の世界だとほんわかするような場面なのかもしれない。

 しかし今世の世界だと、そんな事は言っていられない。


 この世界には、魔物という生き物がいる。

 この世界で城壁の外にいる動物は、ほぼ全てが人を襲う魔物なのだ。それはこの兎も例外ではない。

 証拠としてこの兎には、額に大きな角が生えていて、そして目に殺気のようなものが宿っていた。


 兎の魔物は、こちらに対してじりじりと間合いを詰めてくる。

 たぶん隙を見て、私を攻撃してくるつもりなのだろう。


 そんな状況の中、私はあるイメージをする。

 兎の直ぐ横に衝撃派が発生して地面が抉れる、というそんなイメージだ。

 1秒間くらいでそんな簡単なイメージを完成させた後。私はそのイメージに対して、魔力という力を込める。

 すると、私がイメージした通りに、本当に衝撃派が発生して地面が抉れる。

 兎の魔物はびっくりして、そのまま逃げ出していった。


「ふー」


 今使ったのは、魔法の力だ。

 この世界にいる人たちは、誰でも魔力というものを持っていて、それを使う事で魔法を使う事が出来るのだ。


 また、今回は使わなかったが、魔力の力は魔纏まてんと言って直接体に纏う事も出来る。

 魔纏をしていれば、運動能力や防御力が高くなる。

 なので今世の人間は、前世の世界の人間と比べて、力なども異常に高かったりする。


「さて……」


 私は気を取り直して、引き続き森の中を歩いていく。

 聖域の外を歩いていたら、魔物に会う。この世界では当たり前の事だ。

 だから今みたいな事は、私にとっては、別に気に留めるような事でもないのだった。



 そうして、それからしばらく歩いた。

 聖域から大分離れたせいで、道らしい道も殆どなくなっきた。

 なので、草や石を踏みしめながら、悪路の上を歩いていく。

 すると、食べられる木の実の成っている木を見つけた。


「あったあった」


 持ってきた鞄の中へと、木の実を一つずつ詰めていく。

 そうして、一通り詰め終わる事が出来た。


「よし……」


 持ってきている鞄は結構大きいので、このくらいでは一杯にはならない。

 なのでまた次の収集物を探す為に、私はその場を後にした。



 魔物が出てきたら追い払い、木の実などを見つけたら鞄へと詰めていく……。

 数時間程、そんな事を繰り返した。


「そろそろお昼かな……」


 だいぶ真上近くまで登った太陽を見ながら、そんな事を呟く。

 そういえば、なんだか眠くなってきたな……。

 そんな事を思いながら歩いていると、木々の間隔が少し空いていて、いい感じに日の光が差し込んでいる場所があった。


「ここで寝たら気持ちよさそうだなぁ……」


 眠かったからか、ふとそんな事を思う。

 そして、少しだけその場で悩む。


「よし」


 そして私は、木の上に昇る。

 木の上にいると、大抵の魔物は襲ってこないから安全なのだ。

 登りきった後。私は思いっきり伸びをする。


 私はのんびりと寝る事が好きだ。特にこんな春のぽかぽかした日は、お昼寝をしたい気分になる。


「ふぁぁ……、寝よー……」


 だから私はその場所で、うとうとと、お昼寝をするのだった。



---



「……ん……」


 遠くの方に、何か大きな気配を感じて目を覚ます。

 太陽を見る限り、眠っていた時間は2時間くらいだろうか。


「なんだろ?」


 木の上の方まで登って、気配がする方向を見てみる。

 するとそこでは、2匹の魔物が戦い合っていた。

 片方の魔物は、体長2メートルくらいの大きさの巨大熊。そしてもう片方の魔物は、竜だった。


「うわ……」


 あれが、お母さんや精霊様が言ってた奴か……。

 とりあえず、空に向かって報告してみる。


「精霊様ー、竜いましたけどー」


 しかし、少し待っても頭の中に精霊様の声は響かなかった。


「見てないのか……」


 精霊様は遠くにいる人の声を聞けるので、私に意識さえ向けていてくれたら、危険な竜がここにいた事を報告出来る。

 けれどどうやら、精霊様はこの辺りには意識を向けてくれていないらしい。


「とりあえず、どっか行ってくれるまで待とう……」


 今下手に逃げ出そうとしたら、逆に見つかって危険かもしれない。

 なので私は、その嵐が過ぎ去ってくれるまで、魔物同士の戦いを眺めている事にした。



 熊の魔物は劣勢のようで、既に体のあちこちに傷が見える。 

 竜の魔物は、大きく息を吸い込んだ後、熊の魔物に対して火を吐く。

 熊の魔物は、木の後ろに回ってそれを凌ぐ。

 竜の吐いた火は木に当たってかき消された。

 この世界に生えている木は、マナという大気中に漂っている魔力の源のようなものを取り込む性質があるので、丈夫になっていて、生きている限り燃えたりしにくいのだ。


 竜の魔物は木が邪魔で、熊の魔物を燃やす事が出来ない。

 なので、竜の魔物は木の側面に回ってから、再び火を吐く。

 その火の息は、今度こそ熊の魔物に直撃した。熊の魔物は熱さに激しく身悶える。

 竜の魔物は、そんな熊の魔物にのしのしと近づいて行き、そして爪を振り回す。

 熊の魔物はその攻撃を避けられずに、体をズタズタに切り裂かれてしまった。

 そして熊の魔物は、その場に倒れふし絶命した。


 普通の人だったら、こんな怪獣バトルを生で見ていたら、ビビりまくっているのかもしれない。

 しかし私は、その光景を見て思った。

 この竜の魔物、たいして強くないんじゃないか? と。



 私は周りの誰にも隠しているが、実は超人的な魔力の才能を持っている。

 その理由は、よく分からないけど、たぶん私が転生者である事と何か関係があるんだと思う。私が他人と違う所なんてそのくらいしかないし。


 そして普段、私は自分の才能の事は隠している。

 その理由は、私は誰かと戦ったりするのが好きではないのに、こんな才能があると周りに知られたらなんかめんどくさい事になりそうだからだ。

 だから私は、まだ一度も強い魔物と戦ってみたりした事もない。

 けれど、そんな自分の力を試してみたいと思う気持ちが全くない訳でもない。 


 今、そこそこ強そうな魔物が、私のすぐ近くにいる。

 そして今なら、精霊様なども私の事を見てない。

 これは、今世の私の力を試してみるいい機会なんじゃないだろうか……。


「よし……」


 思い切って木を降りた後、私は竜の魔物のいる所へと向かった。



 そうして私は、竜の魔物の正面へと出て行った。

 竜の魔物は、私の3倍くらいの大きさがあるので、近くで見たら改めてかなりの威圧感がある。

 やっぱ危なそうだったら直ぐ逃げよう……。


 竜の魔物は、私の姿を確認するや否や、大きく息を吸って、火を吐いてきた。

 私はその火をまともに浴びてしまう。しかし少し熱いと感じる程度で、火傷するような事も、服が燃えてしまうような事もなかった。

 これは、身体の周りに纏っている魔纏の力と、私の物凄い魔力の才能おかげだ。やっぱり今世の私の体は、滅茶苦茶丈夫に出来ているらしい……。


 火を耐え切った私は、竜の魔物の体に衝撃をぶつけるイメージをする。そしてそれを魔法として実行する。

 竜の魔物の体に向かって衝撃が飛んで行く。

 そしてその衝撃が当たった竜の魔物は、たじろぎながら、悲痛な叫び声を上げた。

 明らかにダメージを受けている。こんな適当な魔法でも、どうやらかなり効くらしい。

 竜の魔物は再び、私へと火を吐いてくる。しかしその攻撃はやっぱり私には効かない。

 私はもう一度、魔法で衝撃を発生させ、竜の魔物にダメージを与える。

 竜の魔物は苦痛に悶えながらも、そのやり取りで火の息は私へと効かないと悟ったらしく、私へと近づいて来た。

 巨体が近づいてきて逃げたい気持ちになるが、もう少し自分の力を試してみたいので、背を向けずに竜の魔物が近づいてくるのを待つ。

 私との距離を詰め終えた竜は、爪で切り裂いてきた。


「ぐぅっ……」


 衝撃で少しふっとばされる。流石に結構痛かったけれど、でも耐えられないような威力でもなかった。

 私は直ぐに体勢を立て直し、出来る限り威力を込めて、衝撃派の魔法を打つ。

 竜の魔物はそれが直撃して、大きく仰け反る。

 私はその隙に、魔法で自分の頭上に、巨大な氷の刃を作る。

 これぶつけたらこの竜は死ぬだろうなぁ……。そんな事を思いつつも、私は魔法で思いっきり氷の刃を飛ばした。

 氷の刃は、そのまま竜の魔物の首の辺りに深く突き刺さった。 

 そして竜の魔物は、少しピクピクとした後、動かなくなった。


「終わっちゃった……」


 このくらいの大きさの竜だったら、鍛えた大人の兵士が数人がかりで挑まないと倒せないと聞いた事がある。

 それを、簡単に一人で倒せてしまった。


「私、こんなに強かったのか……」


 今世の私の魔力の才能は、やっぱり相当なものならしい……。


「死んでるのかな……」


 呟きながら、動かなくなった竜の魔物に近づいてみる。

 目に生気がないし、魔纏の力でも相手の気配を感じられない。たぶんもう死んでいるのだろう……。


 落ち着いた後、私は改めて、その死体をぼけーっと眺める。

 この竜の魔物は、放っておいたら聖域に来そうで危なかった魔物だった訳だし、殺した事の理由はある。

 しかし、それでもその死体を見ていたら、なんだか申し訳ない事をしてしまった気分になってきた……。


「このままにしとく訳にはいかないよね……」


 この死体が誰かに見つかったら、この竜の魔物は誰が倒したんだという事で騒ぎになってしまうだろう。

 それに、この死体を野ざらしにしておくのはなんとなく罰が悪い気がする。


 魔法で地面をえぐり、竜の魔物がすっぽり入れるくらいの穴を掘る。


「よいしょっと……」


 そして返り血が付かないように気をつけながら、竜の魔物の死体を穴まで引っ張る。竜の魔物の体重は数トンはあるだろうし、これも今世の私の体だから出来る芸当だ。

 そして竜の魔物の死体を穴の中に入れて、その穴を土で埋めておいた。


「これでよし、と……」


 改めて、辺りを見渡してみる。

 時間はまだ真昼で、日が落ちるまでにはしばらく時間がある。

 なので私は、本来の目的通り、再び採集の作業を再開するのだった。



-----



 時間が経って、夕方になった。

 私は今日の採集を終えて、聖域に帰って来た。 


 城壁の門を通った後、私は何時も通りに、聖域の中央街へと向かう。

 そして集めてきた木の実などを売って、この世界のお金である銅貨や銀貨と交換して貰った。

 貰ったお金を確認しながら、私はそのまま家へと帰った。



「ただいまー」

「おかえりなさい、リューリュ」


 家に着くと、お母さんは既に夕食を作って待ってくれていた。

 魔物の肉や野菜などが入ったスープ、そんな何時もの夕食を、私はお母さんと一緒に食べる。


「リューリュ、今日も怪我はなかった?」

「うん」

「竜には会わなかった?」


 あまり他人に言いふらしたい事でもないので少し迷ったが、お母さんに褒めて欲しい気持ちの方が上回ったので、本当の事を話す事にする。


「会ったけど、やっつけといたよ」

「やっつけたって……、大丈夫だったの?」

「うん。お母さんも、私がどのくらい強いのか知ってるでしょ」


 普通の子供が竜をやつけて来たなんて言っても、戯言だとしか思われないだろう。

 でもお母さんは私の才能の事を知っているので、私の言葉を疑う事は無い。


「そっか……。やっぱり凄いのね、リューリュは」

「うん、なんかそうみたい……」


 自分でもしみじみと思う。

 お母さんは、そんな私を見つめながら話す。


「リューリュは将来、やっぱり死んだお父さんみたいに、兵士になった方がいいんじゃないかしら……?」


 今世の私のお父さんは、既に故人だ。兵士をやっていたけれど、私が生まれてから直ぐに魔物に殺されてしまったらしい。

 お母さんとしては、私にこんな才能があるなら、お父さんの後でも継いで欲しい気持があるのかもしれない。

 でもそればっかりは、例えお母さんに頼まれても承諾する事は出来ない。


「前から言ってるでしょ。私は運動したりするの好きじゃないの。だから、そういうのはならないよ」

「それはそうだけど……」

「私はもっと、のんびり生きたいのー」


 私はのんびりと生きたい人間だ。

 前世の世界でも、体を動かしたりするより、家でのんびり過ごしているのが好きな性格だった。

 だから、例え私にどんな才能があろうが、兵士みたいな大変そうな仕事に就きたいような気持ちは全くない。

 私は出来る事なら、お母さんみたいに毎日畑仕事でもしながら、のんびり生きる人生を送りたい。



 私達はその後、竜を倒した時の様子とか、そんな他愛ない話をした。

 そして夕食を食べ終えて、お皿の後片付けをする。

 するとお母さんが、聞きにくそうに私へと話しかけてくる。


「リューリュ、あなたやっぱり、学校にはまだ行かないの……?」

「うん、そうだけど……」


 このメルザスの世界にも、前世の世界と同じように学校というものがある。

 そして精霊教の教えで、6歳から14歳までの子は誰でも学校に通うことになっている。

 つまりは、前世の世界と同じような義務教育制度があるのだ。


 けれど私は、学校には行っていない。

 その理由は、私の家はお母さんと私しかいなくて少し貧しいので、採集に行って家計の手助けがしたいから。そんな風に周りの人には説明している。

 けれどそれはただの建前で、本音ではない。


「本当に、行きたかったら何時でも行っていいのよ。家の事なんて気にしなくても大丈夫だから……」

「……行きたくなったらね」


 私は、他人や騒がしい場所が苦手な所がある。そんな私にとって学校という場所は、かなり居心地が悪い。

 それに、せっかく異世界に生まれ変われたのに、なんで前世の時と同じように学校に通わないといけないんだという気持ちもある。

 だから、本当は学校には行った方がいいんだろうけれど、行くのが嫌でサボっていた。


「お母さん、お風呂入って来るね」


 お皿を洗って片付けた後、私はお母さんにそう言い残してから、台所を後にしてお風呂場へと移動した。


 服を脱いで、魔法で水を出して体を洗う。そして魔法で浴槽に水を入れて、魔法でそれを温め湯水を作る。

 そして、それにまったりと浸かる。


「はぁ……」


 メルザスの世界は文明レベルはそんなに高くないけれど、魔法のおかげで水が一杯使えるので、こうやって簡単にお風呂に入れる。

 この時間はやっぱり癒される……。



 しばらくゆったりした後、私はお風呂から出て、自分の部屋へと戻った。

 辺りはもうすっかり夜になっている。

 今日はもうする事もないので、ベットに入って、眠くなるまで何もせずぼーっと過ごす。


 竜と会ったりはしたけれど、それでも今日も、お昼寝も出来たし、お母さんにも褒めてもらえたし、充実した1日だった。


 私の今の毎日は、楽しい。

 優しいお母さんがいて、森で散歩してるだけでそこそこのお金が貰えて、サボってるだけだけど学校にも行かなくていい。

 私は、寝たり遊んだり、特に何もせずぼーっとしたりするのが好きだ。だから、こんな風なのんびりした生活が幸せに感じられる。

 だからどうか、こんなのんびりした日が、何時までも続けばいいな……。


 そんな事を考えていたら、だんだん眠くなってきた。

 私はそのまま、その日ものんびりと、眠りに就くのだった。

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