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236  作者: Nora_
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01

 特に目的もなく寄った場所でぼうっとしていたら暗くなってしまった。

 それでも帰る気にならなくて同じようにしていると雨が降ってきて流石に動き始めた。

 いまは冬だ、濡れたらかなり冷える、なんなら風邪を引いて翌日に困るのは自分だから流石にな。


「ただいま」

「おかえり、遅かったな」

「ああ、ちょっとぼうっとしていたんだ。手を洗ってくる」


 家が嫌いとか親が嫌いとかそういうことではなかった。

 ただたまにああしたくなるというだけのこと、特にさっさと帰ってこいとも言われないから助かっている。

 家でぼうっとするのとはまた違ったよさがあるのだ。


「再婚?」

「俺の友達がそんな話をしていてな、幸せそうだったよ」

「父さんも寂しいならしたらどうだ?」


 外にいたがる癖というか一人でいたいときが多い自分なら相手の人のことも考えて行動しやすい。

 こっちに来て少しの間は慣れるのに時間がいるだろうから出ておけばいい。


「俺はいい、てつだけで十分だ」

「そうか、だけど俺は気にならないからその気になったら動いてくれればいいから」

「余計なことを気にするな」


 食器を流しに持っていってお風呂へ。

 俺はこの時間も好きだった、特に冬は温かすぎてやばい。

 そのかわりに出るときが大変になっているものの、そのデメリットなんか大したことがないぐらいの最高さがそこにある。


「そもそもここじゃ狭すぎて無理だろ、しかも最悪は引っ越さなければならなくなるからな」


 リビングに戻ると急なそれ、ではないか。

 少し影響を受けた状態だから考えてしまうのだ、でも、ならそうしようと動く父はいない。

 昔からそういう人だった、寧ろ他の人間から〇〇したらどうかと言われたら逆のことをしようとする天邪鬼な人だ。

 母が生きてくれていたらこんなことを考えさせることすらしなくて済んだのだがまあ母だって死にたくて死んだわけではないからなと片付ける。


「学費さえ払ってくれれば俺は移動することになったっていいけどな」

「だから余計なことを気にするなって」

「冗談じゃないからな、おやすみ」

「おう」


 やることがなさすぎて二十一時には毎日寝ているから少しだけ時間をつぶしてから寝た。

 起床時間は早く寝ているのもあって五時から五時半の間だ、朝だけは作らせてもらっている。

 すぐに余計なことをするなと言ってくる父ではあるが作った物はちゃんと食べてくれるからいい、というか、そうでもなければ何回も繰り返したりはしない。

 最強メンタルというわけではないから身内にだって選択次第ではメンタルを破壊されるしな、そんなことは一回もなかったが。


「お、今日は早いな」

「おう……」

「って、俺が早く作るからか、悪いな」

「いい、できているならもう食べよう」


 白米と卵焼きと味噌汁と、朝はいつもこのメニューだ。

 だが、本当に味噌汁が美味しく感じる季節だ、風呂みたいにつかれているわけでもないのにそれと同じような効果を得られる。

 いや、なんなら頭や体が濡れていない分、こちらの方が遥かに最高ではないだろうか? と一人で内で盛り上がっていた。


「鉄、昨日の話の続きなんだが」

「おう、する気になったか?」

「すまん、実はあれ俺の話なんだ」

「お、ということは相手がいて再婚するってことだよな? 母さんには悪いけどもう時間も経ったしいいことだよな」


 俺の反応次第では、いや、それでもやめるなんてことにはならなかっただろうからどうしたのだろうか……?


「それでなんだが……本当にいいのか?」

「ん? ああ、問題ないよ」


 冬が終わるまでは待つみたいな話があったみたいだが学生である以上、どちらにしろ移動しなければならないことには変わらない。

 仕事のことなんかでも知らない間に動いていたみたいだ、俺からすればどんな理由からであれ親に付いていくしかない。


「悪いな、本当ならもう少し早く動くか鉄が高校を卒業してから動くのがよかったんだが時間がかかってしまってな」

「気にするなよ」


 そうか、なら受験を頑張って入学したあの高校ともおさらばか。

 しかしいくらでもやりようがある、俺はまだ一年生だ。

 高校から別の高校に移動する際になにをするのかは知らないが勉強だって真面目にやってきた、そこで引っかかってしまうということもないだろう。

 だからいま引っかかっていることは友達が一人もできなかったということだ。

 せめて一人ぐらいはと考える自分と、こうして別れることになるのならいなくてよかったと考える自分と、だが結局のところは片付けられていないことになるから寂しいことには変わらない。

 なので新しい高校では誰か一人でも友達ができればと思っている。

 ただいますぐに移動するわけではないからとにかく残りの生活を楽しもうと決めたのだった。




「どっと疲れた……」


 正直、休んでいる暇なんかなかった、色々と探し回ることになっていたからだ。

 でも、なにが驚いたって転勤しなければならない状態になっていたことだ。

 まあ、どちらにしろ他県にいくなら同じ会社に通い続けるなんて難しいのはわかっているが……。


「それに……」


 いまはもう誰もいないが新しい学校、新しい教室でも俺は変わらない。

 放課後まで授業を受けて帰るだけ、いいのはやはり変わらないことだ。

 中途半端な時期で馴染むために努力をすることになったとかもない。


「鉄」

「まだ残っていたのか」

「こっちのセリフだよ」


 天田貫一あまだかんいち、移動した家にいた人だ。

 移動してからまだ一週間も経過していないときには明るい彼の性格、人間性に物凄く助けてくれた。


「やっぱりまだ慣れないのか?」

「違うよ、俺が元々こういう人間なんだ」

「ほう、ならまた新しいところを知ることができたというわけだな、いいことだ」


 知ろうとしてくれる存在にはこちらも知ってもらおうと行動することができる。

 向こうではマジで係の仕事か委員会の仕事か、そういうなにかがあるときではないと人と会話することができなかったから感動している。

 たったこれだけでも大変な手続きや試験なんかをやってよかったと思えるものだ。


「そっちはなにをしていたんだ? もう一時間は経過しているからいつもなら遊んでいるところだろ?」

「それが思いっきりすっ転んでしまってな、恥ずかしくなって走り去ったってわけだ。学校に来たのはたまたまだ」

「大丈夫かよ……」

「それより美味しい店を教えてやるから食べにいこうぜ」


 教室か学校から少し離れた公園でぼうっとしているだけの俺はまだまだこの場所を知らない。

 教えてくれるなら付いていく、飲食店なんかにはいく機会がないからそういう意味でもでかい。


「ここだ、比較的安い値段で天ぷらが食べられる店だ」

「知らない店だ、和風的だな」

「入ろう」


 検索をしてみたらどうやらあっちの県にもあったみたいだった。

 人間関係もそうだが知ろうとしなければ広がってもいかないという話か。


「天ぷらに寿司、それに蕎麦とは……どうするべきか」

「俺はこのざる蕎麦にするわ、これでも千百円だから優しい」

「わかった、それなら俺もさっと決めるとして……これだ、注文をしよう」


 頼んで料理が運ばれきた際に一瞬、あと数百円出して天ぷらも食べればよかったかと出てきたが片付けた。

 蕎麦の方は店特有というかスーパーで蕎麦を買って食べるのとはまた違った美味しさがあってよかった。


「腹いっぱいだ、でもな、さっさと帰らないと母ちゃんに怒られる」

「避けたいな、さっさと帰ろう」


 天田摩耶(まや)、母さんは最初からすごかった。


「帰ってくるのが遅いぞっ」


 なにがすごいってもう一人父親が増えたような感じなのだ。

 ただ、一つわかったのは敬語を使われたりするよりもやりやすいことだ。


「なにか食べてきたね?」

「え、連絡していなかったのかよ……?」

「おうっ、だって無駄遣いしたら母ちゃんは怒るからな」

「いや……」

「はあ~貫一はもういい、鉄はちょっと残りな」


 ああ、によによとやらしい笑みを浮かべつつ「頑張れよー」などと残して兄的な存在はここから消えた……。


「嫌じゃなかった?」

「ん? おう」


 こっちのことを気にしてくれているだけか。

 

「ならいい、それでも鉄でもいいから連絡をしてくれるとありがたいんだけどね」

「これからはするよ」


 向こうでもこっちでも家についても特に変わらないどころかなんなら広いぐらいだ。

 風呂場についてもそう、更に言えば結構カビていたあっちと違ってこちらは奇麗だ。

 母が拘って頑張っていることを知っているからなるべくできることはしている、多少カビが生えている程度なら風呂の気持ちよさの前に敗北することになるがな。


「怒られなかったのか、よかったな」

「おう」

「風呂に入ってくる」


 こちらは自分の部屋に移動してベッドに寝転ぶ。

 暗闇が落ち着く、最低でも日に一時間は絶対にこうしたい。

 その日のことはこれで片付けて翌日にはなにも持ち込まない、そうやって生きてきた。

 場所が外だったり家の部屋になったりと選択肢が増えただけでしかない。


「鉄、入るぞ」

「今日はよく相手をしてくれるな」

「母ちゃん以外と話せるのが楽しいだけだよ」


 電気を点けようとしたら別にいいとのことだったのでそのままにする。

 流石に寝転んだままなのはあれだったから座り直した、彼は扉前に座った。


「言っていなかったけど友達を一人作るのが目標なんだ」

「一人だけでいいのか?」

「おう、一人いれば十分だよ。だから貫一がいる時点で達成できてしまっているようなものだけどそれだとなにもできていないからさ、頑張っているつもりなんだけど……」

「そっちに関してはなにもないってことか、ちなみに性別に拘りとかあるのか? 恋がしたいとかさ」

「特にはないな、どっちでもできて仲良くできたら嬉しいよ」

「そうか、参考になったよ」


 で、出ていってしまった……。

 貫一は仲のいい友達が三人ぐらいいるから俺の気持ちはわからないだろうな。

 ただ、自分と似た人間が多くいても悲しくなるだけだからいまの状態が一番だった。




 中途半端な時期に移動することになったからか貫一はよく来てくれる。

 だから特には寂しくなかった、友達の方は依然として変わっていないが満足できている。

 だが、


「ね、ねえ」

「おう」


 教室から出たすぐのところで会話をしていればこういうこともありえる。

 内容は全部貫一と仲良くしたいというもの、嫌ではないから連れていくが本人からいい顔をされないから困っていた。

 かといって断るのは自分の性格的に無理だからな。


「貫一……先輩」


 危ない危ない。


「おう」


 いい顔はされないが俺もいるところで無下にしたりしないのが本当にいいところだ。

 恋愛的な意味で興味があるなら貫一みたいに徹底した態度でいることは大事だし……誰が悪いって話ではないのだ。 

 だからこそ困っているのだが……。


「なんだよ鉄、鉄の勘違いみたいだぞ」

「え?」

「この子、鉄に話しかけたくて話しかけたみたいだ」


 あ、あるのか、そんなことがあっていいのか。

 拒絶オーラを出していたわけでもないのに冬の始まりまで誰にも話しかけられたことがなかったのに貫一といただけでいいのか?

 黙っているから怖かったのだろうか、だったら申し訳ないことをしてきてしまったと思う。

 とりあえず安心したとばかりの顔で貫一が歩いていってしまったから意識を向けると、


「勘違いしないでよね、あなたに興味とかないから。まずはそういうことにして近づけるようにしたかっただけだよ」


 と、上がったなにかも一瞬で元に戻った。

 でも、こちらも安心してしまった、やはりこうでなければ不自然だろうと。


「貫一先輩に会わせることはできる、だけどそれぐらいでさ」

「いや、それで十分なんだけど」

「よし、協力してやるからな」


 何回も連れていったってそう警戒されはしないだろ。

 爆発しそうだったらわかるからそのときになったらやめればいい。

 そのときになって責めてくるようなことを彼女はしないはずだ、逆効果にしかならないからきっと抑え込んでくれる……よな?


「そもそもあなたってなんなの? どうして同じ名字なの?」

「親が再婚したんだ」


 同じクラスでもなければ転校してきたかどうかはわからないか。

 また、同じ名字だからといって確定で家族というわけではないから聞きたくなる気持ちもわかる。

 自分が興味を持っていた存在と簡単に仲良さそうに一緒に過ごせているのなら尚更のことだ。


「じゃあずっと一緒にいられるってことだよね、羨ましいな」

「でも、申し訳なくもあるよ」

「そういう優しいところがいいんだよ、ずっとそうなら疲れちゃうけどちゃんとコントロールできる人でしょ」

「よく知っているんだな」

「いや、あなたと大して変わらないよ」


 貫一にしか興味がないのかと思えばそうではないようだ。

 これも気に入られるためだったとしても俺からしたらありがたい、だって仕事以外のことで会話ができているのだから。


「一応自己紹介をしておくね、私は一色広子いっしきひろこ

「天田鉄だ、よろしく」


 授業が始まるからそれぞれの教室に戻る。

 授業中はしっかりと切り替えて頑張って昼休みは母が作ってくれた弁当を、


「今日はここだな」


 その日気に入った場所で食べるようにしている、そして食べ終えた。

 これは昼休みぐらいはこちらのことを気にせずに貫一に楽しんでほしいのもあった。

 あとは一人でいる時間が欲しいのもある、だからあの女子には悪いが昼休みぐらいは見逃してもらいたい。


「昼休みだけは俺から逃げようとするよな」

「来てしまったか、一応考えて行動していたんだけど」

「俺は世話を焼くのが好きというだけだよ。それよりあの子とはどうだった?」


 興味があるのか、心配だからか?


「特に問題もなく終わったよ、コミュニケーション能力に問題があるわけじゃないから」

「そうか、だが困ったら言えよ? 俺が協力をしてやる」

「だったら三人で出かけないか? 俺はまだまだ知らないから色々と教えてほしいんだよ」

「いいぞ、今日の放課後にいこう」


 お、それなら予定が入っていない限りは喜んでくれるはずだ。

 露骨にしすぎなければあの女子、一色は上手い作戦を考え付いたのかもしれなかった。

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