ヒロインの過去
ララは、自分がいつから前世の記憶があるって気付いたかを話してくれた。その話はクレアから聞いていたのと似ていて、本当にララも転生者なんだなぁって感じる。
「生まれてすぐに記憶があったわけじゃないの。わたしに前世の記憶があるって気付いたのは、七歳の時。思い出したと同時に、自分の種族と名前でここが自分の作ったゲームの世界だってすぐに察したよ」
まさかヒロインに転生するなんて思いもしなかったとララは笑う。そして、絶望したって。えっ、なんで!?
「だって、ヒロインになりたいなんて思っていないもの。我が子にしか思えないキャラたちと恋愛なんて出来ないし。自分が主人公になった気持ちで作品を作る人もいたけど、わたしは違った。箱庭の中の愛する者たち。それが貴方たちだったの。恋愛対象になんて絶対ならない」
そんな運命が待っているのなら、そもそも自分がラナキラに行くことなくずっと村にいればいいって思っていたんだって。出稼ぎに行くことになったとしても、別の場所に行こうって。
なんだか、私たちと同じだ。クレアもずっと村でのんびり暮らせば、悲運を辿ることはないって最初は言っていたもんね。
「だけど、シナリオ補正というものがあるみたいでね。逃れられないって思い知らされる事件が起きた」
シナリオ、補正? あ、聞いたことがあるかもしれない。確か、シナリオに沿うように不思議な力が働いて、どんなに逸れようとしても元のルートに戻ってしまうって。
よく考えたら恐ろしいよね……。私だって結局、恋をして呪いを受けてしまったもの。その、恋愛相手は、シナリオと違ったみたいだけど。
「事件って……? ヒロインの過去に事件なんてあったかしら?」
「……村がね、火の海に呑み込まれたの。わたし以外、全滅だった」
「っ!?」
クレアの問いに、ララは悲痛な表情を浮かべながら答えた。
ララの、故郷が……!? 突然の重い過去に誰もが息を呑む。
「虫系亜人の住む村だったから、すぐにみんな焼けてしまった。火は弱点だって自覚があるから、建物だけは丈夫で残っているんだけどね……。でも、火を使う魔物が五、六匹もいれば小さな村はあっという間に火の海。シェルターだって意味をなさないくらいの被害だったよ。平和だった世界がその日、一変したの」
あまりのことに、全身が震えた。私たちの村だって、一歩遅ければそうなっていたんだもの。
魔物による村の被害は世界各地で起きている。それぞれ対策はしているから多少の魔物なら撃退出来るけど、魔物の群れはもはや災害で……対策にも限界がある。
それなら安全な大きな街に行けばいいって思うかもしれないけど、人が多すぎて住む場所も確保できないし、物価も高い。それに、各地で採れる作物や名産品があるもの。移住するのってそんなに簡単な話じゃないんだよね。
「さすがに混乱したよ。怖くてその場を動けなかった。意識は平和ボケしたままの日本人だったし、この身体は七歳だし。そのままだったら私もその時に焼け死んでいたと思う」
ララは自分の身体を抱き締めるように腕をさすっている。当時のことを思い出しているんだ……。胸がギュッと締め付けられる思いだよ。
家族どころか、仲間を一瞬で失ったショックは想像もつかない。
「けど、わたしがこうして生き延びているのは魔石のおかげなんだ。お母さんがね、死の間際にわたしに魔石を握らせたの。小さい魔石でさ、一人分の結界を張る魔石だった。混乱していたから、わたしは硬直したままそれを持ってその場から動けなかっただけ」
魔石……あっ! 私はポケットに入れたままにしていた魔石を慌てて取り出した。それを見たララが、ニコリと微笑む。
「そう、それ。ミクゥのことも守ってくれたでしょ?」
「ララが、入れていてくれたんだね……」
「当たり前っ! ミクゥに怪我をさせるわけにはいかないもん。でも、怖い思いはさせちゃったよね。ごめん」
でもこれは、ララのお母さんの形見ともいえる大事なものなんじゃ……。
申し訳なさそうに微笑むララを見ていたら、本当に本心から私たちのことを守ろうとしてくれていたんだってわかって、鼻の奥がツンとした。
ララは苦笑しながら話を戻すね、と再び話し始める。
「というわけで、助かったのはわたしだけ。そこで理解したの。このままじゃいけない。自分はもちろん、わたしが生み出したキャラたちも悲運を辿るかもしれないって。特にミクゥよ。呪いなんて設定をわたしがつけてしまったばっかりに!」
ララは突然頭を抱えてうあぁぁ、と叫び出した。エクトルとクレアが、本当にあの設定はどうかと思う、と白い目で見ている。
あ、あの、あんまり追い打ちをかけないであげた方が……!
「だって! 儚げ天使が悲しい運命を辿るってめっちゃエモいじゃん! そういうの大好きなのっ! っていうか、これが現実になるって知っていたらそんな設定にするわけないでしょぉぉぉぉ!?」
「わ、わかったわよ、落ち着いて。その好みはわかんないけど。ごめんってば」
「すまん。だが俺はその気持ちわかるぞ」
「えぇ……」
「引くなよ、クレアっ!!」
な、なんだかよくわからない部分で話が盛り上がってる……? 思わず隣に座るマクロに目を向けると、視線に気付いたのかこちらを向いてくれた。それだけでドキッとしちゃう。うー、毎回こんなんで大丈夫なの、私。
「なんだか、本当にララは無害みたいだね。見ていてわかる」
「! う、うん!」
ララたちが騒いでいる理由まではあんまりわからないけど、あの雰囲気を見ていたら私たちを害する気はないんだってわかる。
少しずつ緊張が解れてきて、このまま他のみんなもララを許してくれたらいいなぁって思った。






