ララの正体
ラナキラに戻ってきた私たちは、ダイニングに集まった。ララが入り口から遠い位置にあるイスに座り、エクトルとクレアが両隣に座った。その後ろにはリニが立っている。
それから向かい側にマクロと私が座っていて、背後にアンジェラが立っていた。
「鉄壁の守りって感じー」
「逃げ出されても面倒じゃん」
「逃げないって言っているのに。魔法も封じられているのに慎重だなぁ」
ララが呆れたように笑って言うと、リニがララの後ろから鼻を鳴らしながら答える。
正直、私もかなり厳重だなぁって思うよ? けど、みんなの気持ちもわかる。ララ本人は気にしていないみたいなのが救いかな。だ、だってかわいそうだもん。
「じゃ、早速話してくれよ」
他の皆がソファーの席について落ち着いたところで、エクトルが切り出す。ララはオッケーと軽い調子で答えると、テーブルの上で両手を組んでリラックスしたように話し始めた。
「ちょっと話は長くなるよ? それと、ここがゲームの世界で私が転生者だってことを前提に話すから。その辺り、理解ない人はしーらないっ」
ララの最初の言葉に首を傾げたのはゲームやシナリオについて知らないメンバーだ。まぁ、確かにそこから説明していたらすごく大変だよね。まず、信じられないって人がほとんどだろうし……。
微妙な雰囲気になる中、真っ先に反応したのはキーファだった。
「転生? 君、今転生って言ったの!? うわぁ、すごい。本当にそういうことがあるんだ。ねぇ、それって死の記憶はあるの? 前世はどこまで覚えて……」
「キー兄は黙ってて! もー、今がそんな雰囲気じゃないことくらいわかってよーっ」
「あはは、だって仕方ないじゃない。学術的好奇心ってやつなんだから」
ララだけじゃなくてキーファもマイペースだった! 私は内心でヒヤヒヤしていたけれど、ララはそんな様子を慈愛に満ちた目で見ていた。
なんて優しい目なんだろう。たぶん、本当にララは悪いことをしていない。そんな気がする。
「もーなんでもいいよ。どうせキャンにはすぐに理解出来ないもん。雰囲気で察するのは得意だからさっさと話しちゃいなさいよ」
「まぁ、あたしも同じだな。適当に判断してあとで他のヤツに聞く」
「俺も適当に判断するわ」
「アタシもよぉ」
す、すごいなぁ、みんな。キーファはたぶん全部そういうものとして聞いてくれそうだって思ったけど、みんなの適応力がすごい。
「あははっ、さすがだなぁ。なんだか、感無量って感じ。私のキャラクターがこうして意思を持って目の前にいるなんて」
そんなみんなの反応を見て、ララはすごく嬉しそうに笑う。心なしか泣きそうにも見えて、私は思わず声をかけた。
「ララ、教えてくれる?」
「み、ミクゥ」
アンジェラが心配するように私を呼んだけど、苦笑だけ返す。みんなも不安そうに見なくて大丈夫だよ。私は傷付いてなんかいないんだから。
誰よりも心配そうなマクロにも微笑みかけて、私はもう少しだけララに言葉を続ける。
「ねぇ。ララは私たちのために動いていたんじゃない? そんな気がするの」
笑顔でそう問いかけたら、部屋のあちこちで呻き声が聞こえてきた。え、あれ? なんでそんな反応? 呆れさせちゃったかな?
斜め前のクレアが顔を両手で隠して上を向きながら口を開いた。
「あーもう、ミクゥが天使すぎるわ……。いくらなんでもそれはもう無理がありすぎない?」
「で、でも、クレア。たぶん間違いないと思う。だって、ララはずっと優しい目で私たちを見ているんだもの。まるで、お母さんみたいに」
どうしてか、確信していた。敵意を感じたことはこれまで一度もなかったし、今だってずっと纏う空気が温かいもん。
そりゃあ言葉や態度は時々、人を怒らせるようなものだったけど……本心はそこにないってわかる。
「……あーあ。まいったな。ミクゥってば私の想定よりも数百倍は天使なんだから。もう、お人好し過ぎてお母さんは心配だよ?」
一方、ララは困ったように私を見つめている。それからみんなに向かって信じてはもらえないだろうけど、と前置きをしてから語ってくれた。
「そう。私はね、みんなに幸せになってもらいたかったんだ。だってここにいるみんなは私が生み出したキャラたちなんだもん。我が子がかわいくて仕方ないの! 一番いいエンドを迎えさせたかったんだ」
ニヒヒッと歯を見せて笑うララはこれまでの無邪気な印象ではなくて、もっと親しい人に向けるような、そんな印象を受けた。
たぶん、これが本当のララなんだ。見ていたみんなも、まだ信じ切ってはいないけど警戒が緩んだ気がする。だって、本当に敵意を感じないんだもの。
「じゃ、じゃあやっぱりララって……」
「そうだよ。前世でこのゲームのシナリオを担当したライター。誰よりもこの世界のことを知っていたんだ、わたし。ごめんねー、最後のシナリオで全員集合なんて設定にして! 制作会社からの指示でさー! 世知辛いよね!」
ライターっていうのが何かはわからないけど、たぶん話の流れからいってララはクレアがずっと話してくれていたゲームを作った人ってことなんだと思う。
クレアは感動と苛立ちが混ざったようなものすごく複雑な顔をしていた。このゲームが大好きだったんだって言っていたもんね。それを作った人が目の前にいるから嬉しい気持ちと、たくさん迷惑をかけたから苛立つ気持ち、かな?
エクトルも同じような顔してる。なんだか二人って本当に似た者同士だなぁ。
「というわけだからさ。色々と教える前に、ちょっと昔話に付き合ってよ」
一頻り笑った後、ララは再び静かに話し始めた。






