【クレア】ヒロインの座
※本日から完結まで毎日更新いたします。
どうぞ最後までお付き合いください!
「なぁ。さっきからお前、何言ってんだ? シナリオだとか神だとか。頭おかしいんじゃねーの」
緊迫感の漂う空気を破ってくれたのはリニだった。心底意味がわからない、といったように口をへの字にして腕を組むリニかあまりにもいつも通りだったから、おかげでフッと息が吐けた。
「ふふっ、リニやマクロは知識がないんだもんね。わからなくて当然だよ」
「な、なんかわかんねーけど馬鹿にしてんのだけはわかるぞ、おい」
けど、同じようにリニの態度を見てもララの調子は変わらなかった。確かにちょっと見下しているように見えて嫌な感じよね。
でも、今ララが言ったことが本当なら、確かにやばい。神を名乗るほど、ゲームをやり込んだユーザーってこと?
それともまさか本当に……神だとでもいうの? いや、本当に意味わかんないけどっ! そんな存在、シナリオにはなかったし!
「リニ、マクロ。お前らには俺も話したことあるだろ。ガキん時にさ。ここはゲームの世界なんだって。まったく信じてくれなかったけど」
エクトルがララから目を離さないまま二人に話しかける。
ああ、本当のことを伝えるのね。ニュアンスからいって以前にも話したみたいだけれど、まぁそう簡単に信じてはもらえないわよね。ミクゥが素直すぎるのよ。
「は? あれが本当のことだってのかよ。んなもん、信じろって言われても……」
仕方ない。ここは話が伝わっていた方が良さそうね。助け舟を出しましょ。
「リニ、本当よ。私にも前世の記憶があるの。同じゲームの知識があるわ」
「……本当、なんだ」
エクトルだけではなく、私も同じことを言い出したことでリニもマクロも一応は信じてくれたみたい。完全に信じるのは難しいわよね。でも、今はそれでいいわ。
「お前ら、俺一人だと信じなかったくせに……まぁいい。話が進まねーからそれ前提で聞いとけ」
エクトルがぼやくのもわかるけど、とにかく今はこっち! ララは微笑みながらこちらを見て待っているみたいだけどね。本当、何を考えているのか読めないわ……!
「んじゃ、ララをとっ捕まえたら解決すんのか?」
「プッ、あはは! リニってばほんっとに脳筋。自分で作ったキャラだしわかってはいたけど呆れちゃうなー」
リニの発言を聞いて、ララはついに我慢出来なくなったのかお腹を抱えて笑い出した。自分の作ったキャラ、ですって!?
「別に私を捕まえてもいいけど。でも、あんまり時間がないんじゃない?」
「どういう意味だ」
「さっきも言ったでしょ。これはイベントだって」
ええい、考えるのは全部後回しよ! 今の最優先はミクゥの安全なんだから! ララのヒントを信じるってのもアレだけど、たぶん信じなきゃ話が進まないわ。
えっと、ヒロインはマクロルート、なんだよね? 確か終盤のイベントは……。そこまで考えて青ざめる。ま、まさか!
「ミクゥが魔物に、襲われる……」
「は? おい、どういうことだよ」
そうだ、マクロルートの終盤では、ヒロインが森の中で魔物に襲われかけるんだ。
ヒロインが一人で森に行ったことを知ったマクロが急いで駆け付けて、間一髪のところで救出、自分の気持ちに気付いて告白イベントに突入する。
嫌な汗が背中をツゥッと流れていく。
「で、でも、襲われるのはヒロイン。ララのはずよ!」
そ、そうだ。まだ焦るのは早い。あのシナリオはヒロインが起こすもの。だから、ミクゥが危険な目に遭うなんて……。そ、それに一人で勝手に森になんか行かないわ。
「あはは、私はヒロインになるつもりは最初からなかったよ。なりたくもないの! だから、ね?」
ララはそう言いながら、背中から羽を広げた。それは髪の色と同じ黒くて綺麗な蝶の羽で、微かに鱗粉が舞っている。
うっ、なんだか頭がぼーっとするわ。きっとあの鱗粉、人の精神に干渉する……精神に、干渉? そ、それって!
犯罪者たちが何者かに操られていたという情報が一気に脳内を巡る。
「ヒロインの座を、ミクゥに渡すことにしたの」
エクトルたちも、鱗粉を見て同じことを思ったみたい。ララがあいつらを操っていた犯人、つまり黒幕だってことを。
私を含め、この場にいるみんなが咄嗟に腕で口元を覆い、鱗粉を吸わないようにしていた。みんな目つきは鋭く、そして顔色はやや青ざめていた。きっと私も今は、酷い顔をしているでしょうね。
「ミクゥを操って、森に向かわせたのね……!? じゃ、じゃあ森で魔物に襲われるのは……」
私が言い終わる前に、誰よりも先にマクロが走りだした。え、ええっ!? この景色、ゲームで見たことある!
「うんうん、いいね。ヒーローが救出する名シーンの再現だよ! ヒロインは私じゃなくてミクゥだけど」
「て、てめぇ……!」
「あらいいの? 援護にいかなくて。確かシナリオでは……」
確かに、シナリオではみんなが森に救出に向かうことになってる。間一髪でヒロインを救うのがマクロなだけで。
っていうか間一髪って! そんなのゲームだから盛り上がるのであって現実に起きてなんかほしくない!
私たちもすぐにマクロの後を追い、森に向かう。なぜかララも一緒に駆け出した。なんなのよ、もう!!
「ほらほら、他のメンバーにも連絡しないとー。シナリオ通りにいかなくなるよー」
キャッキャと楽しそうに笑いながらエクトルや私に次の行動を示すララ。わかってるわよ! シナリオを阻止したいけど、今だけはシナリオ通りに進めないとミクゥの身が危ないかもしれないなんて。ああっ、もどかしい!
「うるさい!! さっきからシナリオ、シナリオって! そんなのどうでもいい!!」
ララに反論しようと思った時、最初に声を荒らげたのは先頭を走るマクロだった。
え、嘘。ゲーム内でもマクロが怒鳴る姿なんて見たことない。エクトルやリニも驚きに目を見開いているから、たぶんこれは初めてのことなんだってわかった。
「僕は、僕の意思で、ミクゥを助けたいから行く!!」
マクロはそう叫ぶと、さらにスピードを上げた。は、速すぎじゃない!? スピード自慢のリニと変わらないくらいの速度が出ているかもしれない。あっという間にその後ろ姿が見えなくなっちゃった。
こんな危機的状況だというのに、本気で怒ったマクロを見てホッとしている自分がいることに気付く。
だって、希望が見えちゃったんだもの。もしかしたら、マクロもミクゥが? って。
これは、ミクゥをヒロインとしたシナリオがハッピーエンドに進むかもしれない。私は不謹慎ながらそんな風に思った。






