【クレア】この世界の神
マクロに事情を説明した私は、なんだか嫌な予感がしてずっとソワソワしていた。それに気付いたマクロがどうしたのかと聞いてくる。
「さっきから急に嫌な予感がして……。これから大きな事件でも起こるような、そんな予感」
「強い者の直感は、正しいことが多い。たぶん、本当に何かが起きる。僕も、クレアが来た時から、嫌な予感がしてる」
嫌だわ、こんな予感なんて当たらない方がいいのに。でも、マクロも同じだって言うなら確実に何かが起こるわよね。
マクロの理解が早かったおかげで説明もすぐ終わったし、急いで戻らなくっちゃ。ミクゥが心配だもの。
「とにかく、アンジェラがもうすぐ来ると思うから私たちはダイニングに集まっているようにしましょ。ララは……自分から来るまで放置で」
「ん、賛成」
そう決めながらマクロと一緒にダイニングへ向かう。ミクゥは顔を合わせづらいかもしれないけど……そこは我慢してもらいましょ。
それにしても、マクロは顔色が一切変わっていないわよねー。ミクゥの話を聞くに、もう少し動揺していてもいいものだけど。
もしかして脈なし!? ……いや、そんなことはないはず。マクロが表情に出にくいだけよね、きっと。
ダイニングに着くと、そこにはすでに先客がいた。いつの間に! さすがはアンジェラね、気配をほとんど感じなかったわ。普段からそういう風に動いているのが癖になっているのかも。
「アンジェラ、戻ったのね。おかえりなさい」
「ああ、クレアにマクロ。ただいま」
アンジェラはすでにオフモードに入っているようで、リラックスしたように椅子に腰かけながら水を飲んでいるところだった。あれ? ミクゥがお茶を淹れるって言いそうなものなのに。
ふと、悪寒が走る。尻尾がブワッと逆立った。だって、気配がない。
「……ミクゥ? ミクゥは、どこ!?」
「ミクゥ? あたしが帰った時には誰もここにいなかったよ」
最悪な形で嫌な予感が的中したってこと……? 思わずマクロと顔を見合わせた。
「そ、そうだ。ララ! ララは!?」
「待って、落ち着いてクレア。……部屋にいるみたいだ。気配を探った。でも、ミクゥは屋敷中、どこにもいない」
「どう、して……!?」
心臓がバクバクと音を立てている。そんな、どうして? ああ、ダメ。こういう時ほど落ち着かなきゃ。
「出かける予定があったとかは?」
「ないわ。今日はこの後、どこかに行く予定なんてなかったもの。それに、ほんの少し前にここにいてって約束したのよ!?」
ただごとではないと判断したのだろう、アンジェラが姿勢を正して瞬時に周囲に気を配り始めた。
冷静な判断だわ。私も取り乱さないように気を付けないと。本当は今にも大声で叫びたいくらい取り乱しているけど!
「ミクゥは約束を破るような子じゃない。私がマクロと話していたのだって、ほんの数分で……その間に勝手に出て行くなんてこと、あり得ないわ」
何かがあった。証拠なんてないけど、そういう確信がある。ギュッと拳を握り、すぐにでも探しに行きかけたところをアンジェラに止められた。
「クレア、落ち着くんだ。あたしが少し外を探してくるから」
「で、でも帰ってきたばかりなのに」
「何言ってんだよ。緊急事態だろう? それに、あたしは人探しが得意なんだ。任せてくれよ」
「アンジェラ……ありがとう!」
見付けたらお互い、キーファのくれた魔道具で連絡を取るとだけ約束すると、アンジェラはすぐにラナキラを飛び出していった。本当に頼もしいわ。
よし、それなら私たちはここで別アプローチをしなきゃ。そう思った時、玄関の方から驚く声が聞こえてきた。この声は、リニとエクトルだわ。
「おいおい、何があったってんだ? リニ様のおかえりだぞー」
「馬鹿リニ! アンジェラの様子はどうみても只事じゃなかっただろ! マクロ、クレア、なにがあった?」
バタバタとダイニングに走ってきた二人は帰り道で偶然合流したという。ナイスよ! これで連携してミクゥを探せるわ。
私は簡単に今起きていることを二人に説明した。
「それからエクトル。ミクゥから少し話は聞いているわ。マクロにも伝えた。アンジェラは聞く前に出てしまったけれど」
「なるほど、十分だ。こっちもキーファとキャンディス、リニには伝わってる」
いつララが来るかわからないから、念のためぼかした言い方をしておいた。でも、それだけですぐにエクトルは察してくれる。ま、当然ね。
さて、落ち着いて考えてみましょう。なぜミクゥだけが突然いなくなったのか。何かを見落としている気がするのよね……。
シナリオ? たぶん、そうだ。嫌な予感がずっとしているから。こういう時は、シナリオ関係であることが多い。
「手当たり次第に探してもいいけど……たぶん、何かがあるのよね」
「ああ、俺もそんな気がする」
私と同じようにシナリオを知るエクトルも同じ意見みたい。あとはそれがどのシナリオなのか、が問題なんだけど……。
「イベントだよ。わからない?」
突然、場にそぐわない明るい声が落ちる。ゾワッと毛が逆立ってすぐに声のした方に振り向いた。
見ればエクトルはもちろん、リニやマクロも臨戦態勢だ。
「ララ……!」
「やだな、怖いじゃない。そんな風に殺気を向けないで?」
怖い、という割にはクスクスと楽しそうに笑っているじゃないの。何を考えているの……?
ララは一歩ずつこちらに近付きながら、私とエクトルを交互に見て語り掛けてくる。
「ねぇ。ヒロインは誰のルートを辿っているの? ゲームは終盤に差し掛かっているんだよ? クライマックスは大体、ヒロインのピンチじゃない。そんなことも忘れたの? エクトル、クレア」
────間違いない、ララは転生者だ。
そ、それはいい、予想していたから。でもなぜ? なぜピンポイントに私とエクトルも同じだって見抜いたの?
こんな恐怖は初めてよ。エクトルも油断なくララを睨み続けている。
「シナリオからは逃れられない。ゲームが終わるまで、絶対にね」
ララは急にスッと真顔になった。シナリオからは逃れられない……?
ふざけないでよ。私がどれだけそれを回避しようと頑張ってきたか! ララなんかに踏みにじられたくない。
「二人がどれだけゲームをやり込んだのか知らないけど。わたしには敵わないと思うよ」
なによ。それはヒロインだからって言いたいの? ヒロイン補正とかがあるとでも言うのかしら。冗談じゃない!
だけど続けられたララの言葉は、そんなものじゃなかった。
「だって、シナリオを作ったのはわたしだもん。わたしはね、この世界の神なんだから」
これにて、今章はおしまいです。
来週から最終章となります。それに伴い、来週金曜日からは完結まで毎日更新いたします。
最後までお付き合いくださいませ!






