ライバルの仕事
あの後すぐにクレアのところに向かった私は、顔が真っ赤だったのもあって当然のようにクレアに問い詰められた。
そこまで言ったらハッキリ言っちゃえばいいのに、ってクレアに言われたし、私もそうした方がよかったかもって思ったけど……。
「だ、だって。もう限界だったの! 頭がパニックで、心臓がうるさすぎて、どうしようもなかったの!」
「ああ、もう……可愛い。可愛いわ、ミクゥ。許す!」
真顔でそんな風に言われても、怒られているようにしか感じないからね!?
……はぁ。まだ顔が熱い。気付かれた、よね? やっぱり気付かれたよねぇ!?
どうしよう、今後マクロと会う時どんな顔をすればいいのっ!?
「あっ!」
「え、何? どうしたのよ、ミクゥ」
しかも大事なことを忘れてた。エクトルが呼んでいたって話とララの件について何も伝えていないことに気付いたよ。で、でももう私には無理だぁ。少なくとも今日はもう合わせる顔がない! 思わずクレアに泣きついてしまう。
「まったく、仕方ないわね。いいわ、私が今から伝えてくるから。ララは相変わらず部屋から出てこないし、あと少ししたらアンジェラも戻ってくる。話もそんなに長引かないし、ミクゥはここで待っていて」
「クレアぁ! ありがとう! 大好き!」
いつでも頼りになる姉だぁっ! ギュッと抱きつくとクレアも抱き締め返してくれる。ゆらゆらとピンクの尻尾が揺れているのが可愛い。喜んでくれてる!
「じゃ、行ってくるわ。あ、万が一にもララと二人きりになったら、無理に話そうだなんて思わないで。そうね、お茶でも出しておきなさい。いいわね?」
「わ、わかったよ」
私にとってララは、大切なお友達の一人。だから、心配することなんて何もないって、そう思っているけど……。みんなが心配する気持ちもちょっとはわかるから、複雑な気持ちになる。
それに、ララが何かを隠しているのは薄々感じているから。誰にだって、言いたくないことの一つや二つあるものだし、それも当然だよね。
でも、なんとなくあえてわかりやすく隠しているっていうか、見つけてほしそうな、そんな予感がするんだよね。宝物を隠して、どーこだって無邪気に問いかけられているような、そんな感じが。
「ミクゥ」
「……ララ」
クレアの姿が完全に見えなくなったその数秒後。ララは私の背後にやってきた。
ちょっと、タイミングが良すぎるよね。二人きりになりたかったんだろうなって私でもわかるよ。
「ごめんね。わたしさ、ちょっとだけクレアが苦手なの。だってぇ、嫌われているでしょ……?」
頬を人差し指で掻きながら笑うララは、ちょっとだけ悲しそうにも見えた。
……そう、だよね。疑っているって雰囲気は、伝わっちゃうよね。特にクレアは感情が表に出ちゃうタイプだから。
申し訳なくなって俯いていると、ララは気にした風もなく私の隣のイスに腰かけた。それから肩ひじをテーブルに乗せて頬杖をつきながら私の顔を覗き込む。
「ね。マクロと今、良い感じになったんじゃない?」
「ぅえっ!?」
ニコニコ微笑みながらそう言うララは、本当に心の底から楽しそうに見えた。予想外すぎて変な声が出ちゃった。
でも、どうして? どうしてそれを知っているの? しかも嬉しそうだなんて。だって、ララもマクロのこと……。
「いいんだよ、それで。わたし、ミクゥのこと大好きだから。ミクゥには幸せになってもらいたいって心から思っているの。本当だよ?」
「え、え……? でも」
穏やかに微笑みながら言ったララの言葉に嘘は感じられなかった。嘘だとしても私が見抜けないだけかもしれないけど……。でも、本心だと、思う。
「本当に本当だってば。幸せになってもらいたいって願ってる。でも、いくら願ってもそれは叶わない。だって、わたしがヒロインなんだもん」
「え……」
急に、話が核心に触れた気がして声を失う。今、やっぱりヒロインだって言った、よね?
「シナリオ補正ってやつ。これが厄介でねー。どうあがいても避けられないんだよ。ヒロインはヒーローと結ばれる運命にあるの。でも、それにはライバルの存在が絶対に必要なんだー」
「何を、言って……」
戸惑う私を気にすることなく、ララは話を続けていく。ヒロインはヒーローと結ばれる? つまり、これはクレアが言っていたシナリオってこと……?
「ヒロインがちゃぁんとヒーローと結ばれるために、ライバルはライバルの仕事をしなきゃいけないってこと。だから……ごめんね? ミクゥにはこれから、試練に立ち向かってもらう。仕方ないの、それがシナリオだから」
「し、シナリオなんて、いらないよ……」
「ううん、いるの。というか、逃れられないのよね。わたしも含めて、ミクゥだってシナリオの中にいるキャラクターでしかないんだもの」
もう、これは間違いない。ララは、クレアと同じ転生者ってやつなんだ!
突然、ララの目が冷たくなって背中に嫌な汗が流れる。ううん、まだだ。ララが私たちを傷付けようとしているとは限らないもの。
「私は、キャラクターなんかじゃないよ! ちゃんと、生きてる。ゲームとか、そんなの関係ないっ! 私は私の意思で動いているもの! シナリオなんて……シナリオなんていらないっ!」
それでも、だんだん怖くなってきてつい声を荒らげてしまう。すると、ララの人差し指が私の唇に当てられた。クスクス笑いながら静かに、と告げられ、ただララの指の冷たさに目を見開く。
「ごめんね。私、早くシナリオを終わらせたいんだ。エンディングが見たいの。ちょっと危ない目に遭うかもしれないけど、死にはしないよ。だから、ね?」
ブワッと目の前で蝶の羽が広がる。ララの背中から生えているみたい。そうだ、ララは音蝶の亜人なんだっけ。
羽からは細かな粒子がキラキラと輝きながら漂い始め、それがあまりにも美しくて心が奪われる。鱗粉、っていうんだっけ。すごい……綺麗。
ぼんやりしていると、ララがさらに近付いてきてそっと私を抱き寄せた。そのまま、耳元で囁く。
「ミクゥ、よぉく聞いてね。今から一人で森に向かって。理由なんてないけどね。でも、帰って来ちゃダメ。そうね、明日までずーっと森の中にいるのよ。わかった?」
「わ、かり、ました……」
頭がぼんやりして、なんだか何も考えられない。私、どうしたらいいんだっけ? ……ああ、そうだ。
森に、行かなきゃ。今すぐに。私は立ち上がるとすぐにラナキラを出て飛び立った。






