ライバルキャラの狐っ娘
あの後はすぐにエクトルの言った通りの行動を開始した。ラナキラに戻るとすでにマクロの姿はなく、クレアとララだけがダイニングにいる。
その二人の姿を確認したエクトルは、じゃあキーファのところに行ってくると言い残して再び出かけて行った。
去り際に力強い視線と目が合ったので、クレアやララには気付かれない程度に小さく頷く。クレアと二人でララを見ていてってことだよね。任せて!
「おかえり、ミクゥ! エクトルは忙しそうだね?」
「うん。帰る時、連絡が来たみたい」
ダイニングテーブルの前に着くと、早速ララが話しかけてきたので当たり障りなく答える。
本当は連絡が来たわけじゃないけど、このくらいの嘘なら大丈夫だよね……! うぅ、この程度の小さな嘘でもヒヤヒヤするなんて、私ったら本当に小心者!
「み、みんなは仕事に行ったのかな?」
話題を変えたくてそう聞くと、今度はクレアが教えてくれた。
「リニはそうだよ。帰るのは夜みたい。アンジェラは鍛錬してくるって出て行ったから午後には戻るんじゃないかしら」
そっか。それなら、エクトルが呼んでいるっていうのはアンジェラが戻って来てから伝えればいいかな。
……あれ、そしたらマクロは? 一緒に行くって言ってくれていたのに、置いて行っちゃったから怒ってないかな。
今更ながら怖くなってきた。ど、どうしよう。あの時は感情のままに飛び出しちゃったから。
「マクロは部屋にいっちゃった。せっかく楽しく話してたのに、ミクゥがいないって気付いた時はすっごく慌てちゃってさ。ミクゥったら一緒に出掛ける予定だったらしいのに、置いてっちゃったでしょ」
「うっ」
まさに考えていたことをララに言われて言葉に詰まる。ど、どうやって言い訳しよう!? グルグルと考えていたらクレアがララの頭をコツンと軽く小突いた。
「ララがマクロを引き留めていたから悪いんでしょ。時間に遅れると思ってミクゥが行っちゃったのは仕方ないじゃない。意地悪な言い方になっているわよ」
「えへっ、ごめーん。ミクゥって顔に出るから可愛くってつい!」
舌をペロッと出して笑うララを見ていたら、やっぱり悪いことをするような子には思えないんだけどな。すぐにからかう癖は直してほしいけどっ!
「でも、私のせいなのは本当だよね。ミクゥが先に行っちゃったのも、マクロが慌てたのも。だから、ごめんね?」
「う、ううん! いいの。気にしないで!」
ほら、こんなにも素直に謝ってくれるんだもん。ララが悪い人なわけ……
「でも、大好きなマクロとどうしてもおしゃべりしたかったから。ちょっとだけ、意地悪しちゃったのは本当」
「え……」
悪い人なわけ、ない、のに。ペンダントがあるのにズキンと激しく胸が痛んだ。ララは、やっぱりマクロのこと……?
「ごめんね? ミクゥがマクロのこと好きなのは知ってるけど……私も好きになっちゃったから」
「ララ! なんでそんなことわざわざ本人に言うのよ!」
ララも、マクロを好き……? ズキンズキンと胸が痛む。
そ、そういえば以前クレアが言っていたっけ。ライバルキャラと喧嘩をするイベントがあったって。
あの時、ララはキャンディスと喧嘩をした。クレアの知っているシナリオだと、キャンディスはマクロのライバルキャラだって。あれは、このことだった……?
「黙っている方が不誠実じゃない? ミクゥ、本当にごめんなさい。でも、この気持ちは譲れないの。け、けど! ミクゥの呪いを解く方法が他にないか絶対に見付けてみせるから!」
やっぱり、そうだったんだ。最近のララは、やけにマクロに近いなって思ってた。だけど、それは恋じゃないって……ううん、そう思いたかったんだ。私が。
信じたくないって、だから現実を知ろうとしなかった。目を逸らしていた。でも、それじゃあなんの解決にもならないよね。
ララは、私のライバルなんだ。ど、どうしよう。可愛くて、無邪気で、大人っぽくて、こんなに魅力的なララがライバル? 私はこんなにも自分に自信がなくて、ウジウジして、出来ることだって少なくて……。
勝ち目なんか、ないじゃない……。苦しい。胸が、痛い。
「……ちょっと。それじゃあまるで、自分が結ばれるのを確信しているみたいな言い方じゃない」
ペンダントを握りながら俯いていると、いつの間にかクレアが私の隣に立っていた。背中に手を回してくれて、温かさにホッとする。
だけどクレアの目つきは鋭く、ララのことを睨んでいる。ま、待ってクレア。ララは別に悪いことをしているわけじゃない。ただ、マクロを好きになってしまっただけだもの。それは、決して悪いことじゃないでしょう? ただ、私と同じ人を好きに……。
そう考えたら、なぜか言葉が出てこなくなってしまう。どうして? ララは悪くないって思っているのは本心なのに、それを認めたくないってまだ思っているの? なんて、嫌な子になっちゃったんだろう。私、卑怯者だ……。
「あら。だって、ヒロインの恋は成就するもの、でしょ?」
「ひ、ヒロインって……」
自己嫌悪に陥りかけたその時、ララの口から出てきた言葉は思いもよらないものだった。
ヒロイン……? それはまるで、クレアがよく話してくれるゲームのシナリオみたい。
え、あれ? どういうこと? それって、もしかしてララもミクゥと同じように、ゲームのシナリオを知っているってこと? い、いやいや、決め付けるのは早いけど!
「ふわぁ、なんだか眠くなってきちゃった。マクロも部屋から出てこないし。わたし、お昼寝してくるね! おっやすみー」
「ちょ、待ちなさいよ、ララ!?」
これ以上は何も言う気がないのか、ララはやや強引に話を終わらせ、自分の部屋へと戻っていく。クレアが叫ぶように呼んでも聞こえないフリだ。
さすがに、怪しいよね? 犯罪組織と繋がっていたっていう話は相変わらずないと信じているけど、シナリオを知っているのは間違いがなさそう……。
待って。それじゃあララが私のライバルなんじゃなくて、私がヒロインララのライバルキャラってことなの?
つまり、クレアが絶対にそれだけはダメって言っていた通りのことが起きてる……? そう思い至った瞬間、目の前が真っ暗になった。






