プロの情報屋
ウェールズの店に着くと、準備中の看板が出ていた。今日はお店、開けないのかな? そう思っていると、エクトルが店の裏手に向かうので慌ててついていく。
「こっちから入るの?」
「ああ、たぶん施錠されてるしな。ラナキラとして仕事の話をする時は、いつも裏口から入るようにしてるんだ。今回は向こうからの呼び出しだから、裏の鍵は開いていると思う」
なるほど、そういうルールみたいなものがあったんだね。
エクトルは真っ直ぐ裏口に向かい、ドアを開けた。本当だ、鍵は開いているみたい。
「うわ、相変わらず汚ぇ!」
「そ、掃除したいぃぃぃ」
ドアを開けると仕事で使うのだろう道具や何かの部品の入った木箱、よくわからない大きな鉄の塊などなどが廊下の床に散らばっていた。
よく見ると木箱には埃が被っていたり、通路の天井に蜘蛛の巣があったりするからここはほとんど使われていないんだろうなってことがわかる。
時々こうしてエクトルたちが通る以外は物置になっているのかも。うう、尻尾に埃がまとわりついて気になるぅ!
「ラナキラに来たばかりを思い出すよ……」
「うっ、その説は本当にアリガトウゴザイマシタ」
「ううん! 掃除にまで手が行き渡らないのはわかっていたし! ウェールズも似たような状況なのかな?」
「いや、アイツの場合は単に面倒臭いからだぞ、間違いない」
初めてお屋敷に行ったときは同じように埃まみれだったもんね。それをクレアと一緒に片付けて、掃除して。
それからは毎日私たちがお屋敷を綺麗に保つようにしているんだけど、別に苦じゃないよ。お掃除は好きだし、綺麗なのは気持ちいいもの。
どうにか足下の物を避けながら進むと、右手にドアが見えてきた。このまま真っ直ぐ行くとお店の方に出るんだって。話し合いをする時はいつもこの部屋なのだそう。
「ウェールズ、入るぞ」
エクトルは慣れたようにドアをノックすると、一言声をかけてから迷うことなくドアを開けた。
私も後に続こうとしたんだけど、突然エクトルが立ち止まったので背中に鼻をぶつけちゃった。あう。
「エクトル? どうし……」
「お、おおおおお前ら! 俺らが来るのわかってただろーが! 服を! 着ろ!!」
何があったのかと部屋の中を覗こうとすると、エクトルが叫びながら思い切りドアを閉めてしまった。え? え? 何? どういう状況? っていうか、服? き、着てなかったの!?
「あ、あの……」
「見た……?」
「ううん、何にも」
恐る恐る声をかけると、焦ったように聞かれたので正直に答えると、エクトルは安心したようにため息を吐いた。エクトルは耳まで真っ赤だ。
「ミクゥには刺激が強すぎる光景だったから、見えてなくて良かったよ……」
「ど、どんな状況なの……?」
なんだか、部屋に入るのが怖くなってきたよ?
それからしばらくして、ドアが内側から開けられた。出てきたのはウェールズではなく……。
「ま、マリノ!?」
「ふふ、ごめんなさいねぇ。お待たせ。さあ、入って」
露出の多めなドレスワンピースを着たマリノが出てきてすごく驚いた。スカートにはスリットも入っているし、色っぽすぎない? ドキドキ。
「マリノ、もうちょいなんか上に羽織るとかさぁ」
「あら。欲情する?」
「しねぇけど目のやり場には困るんだよ。こちとら年頃の男だからな?」
文句を言うエクトルはまだ少し顔が赤いみたい。でも、気持ちはすごくわかるよ。女の私だってマリノの姿にはドキドキしちゃうもの。
当の本人は悪びれもせず、そのままの格好でクスクス笑っているけど。うぅ、楽しんでる……!
「マリノ。これから真面目な話すんだから、一枚羽織ってやれ」
「仕方ないわねぇ。じゃ、さっきの続きは夜に、ね?」
「はぁ……これ以上からかってやるな。そろそろエクトルが魔法をぶっ放すぞ」
「あら、怖ぁい」
言ってる内容はよくわからないけど、漂う雰囲気が大人っぽくてクラクラしてしまう。エクトルはさっきよりも顔を真っ赤にしているし。
マリノは言われた通り、イスの背にかけられていた男物の上着を手に取ると、上から羽織った。だいぶ大きいからダボダボだ。ウェールズのかな?
「悪ぃな。早速だが話すぞ」
「ああ、頼む」
みんなの注目がウェールズに集まったところで、空気が真剣なものに変わる。お仕事モードへの切り替えがすごい。私も自然と背筋が伸びた。
「前の案件で、黒幕が捕まってなかったろ? ほら、ミクゥちゃんが捕まった時の」
「進展があったのか!?」
あの事件の……? 確か、事件に関わった組織の人たちは全員捕まえたけど、彼らを裏で操っていた人は最後まで尻尾も掴めなかったって言っていたっけ。それついて何かわかったってこと?
「犯人たちに何を聞いても無駄だったろ? 何も覚えてなくてさ。だから人を操る力、洗脳系の魔法かなんかを使ったんじゃないかって話だったな」
人を操る力っていうのは前に聞いた覚えがある。世の中にはそんな魔法があるんだ、って思うと怖くてわずかに身体が震えた。
ウェールズは確認するようにそう言った後、両足をテーブルにドカッと乗せてため息を吐く。
「人を操った黒幕かは判断出来ねぇ。だが、あの組織に接触している場違いな存在を見た、っていう証言があったらしい」
「場違いな存在? ってか、目撃者がいたのかよ!?」
あ、あれだけエクトルや警備隊の人たちが調べ回って、それでも何もわからなかったというのに、一体どこでそんな情報を?
エクトルと二人で驚いていると、ウェールズはマリノに視線を投げた。
「いたのよ。案外あっさり見つかったわよ?」
えっ、その情報を掴んだのってマリノだったの!? あ、そういえば、情報屋をしているんだったっけ。
「そんな簡単に見つからねぇから、普通。んっとに、いつもどっから掴んでくるんだよ……。謎が多すぎるぞ、マリノ」
「んふふ。ひ、み、つ。プロの情報屋をなめないでちょうだい」
優雅に微笑んだマリノは、心底楽しそうにエクトルを見下ろしている。
エクトルは悔しそうにしながらも降参、と小さく両手を上げた。マリノって、すごぉい……。






