ウェールズからの緊急連絡
エクトルと二人で呪い師の家に着くと、おばあさんが「おや、今日はキラキラかい」と片眉を上げて出迎えてくれた。
キラキラって……。確かにエクトルは金髪だし、カッコいいからキラキラして見えるけど!
「ふむ、何度か発動しているみたいだね。しかしいい作りだ。この魔道具を作ったモンはなかなかの腕をしてるよ」
「ふふ、そうなんです。すごいんですよ、キーファは」
私の胸の痣と魔道具の石を見ながら言ったおばあさんの言葉が嬉しくて答えると、またしても彼女は片眉を上げた。
「あのダルダル男かい。はー、人としてはどうかと思うが、腕がいいのは確かなんだよねぇ。まったく、もっとシャンとしてりゃいいものを」
キーファのことも知っていたんだね。でも、その覚え方……! マクロのことといい、エクトルのことといい、悪感情は持っていないと思うんだけど。
あ、もしかしたら逆で、ちょっと気に入った相手だからこそあえてそんな言い方になるのかな?
「あたしゃ思ったことを言っているだけさね。変な勘違いすんじゃないよ、狐っ娘」
あうっ、考えていることがバレた! な、なんでわかっちゃうのかなぁ。恥ずかしい。
「さて。呪いの解呪の方がいまいち進んでいないみたいだね。あんた、解く気はあんのかい」
「うっ、えっと……ある、にはあるんですけど、そうすると相手を苦しめることになっちゃう気がして……だけどいつまでもこのままでいいとは思っていなくて、その」
「ごちゃごちゃうるさいね。勇気がない言い訳は結構だよ」
そ、その通りですぅ! おばあさんは本当に言葉を飾ることなく真っ直ぐ言ってくれるのがいいところなんだけど、今の私にはグサッと刺さるよぉ!
「ミクゥ」
「? なぁに、エクトル」
おばあさんの言葉にダメージを受けていると、エクトルが妙に真剣な表情で前を向いたまま私を呼んだ。
どうしたんだろう? ちょっと心配になって顔を覗き込むと、エクトルはすぐにパッといつもの笑顔を見せてくれる。
「俺、協力するからさ。大丈夫! ミクゥは世界一可愛いんだから」
「い、言い過ぎだよ!?」
な、何を言うかと思ったら……! あまりにも突然の褒め言葉に顔が熱くなっていく。も、もう!
でも、きっと励ましてくれたんだよね。よし、しっかりしなきゃ。頑張る前から心が折れていたらダメだもの!
「で、おばあさん。今のところは前と変わりなしってことで平気なのか? ミクゥは悪くなってない?」
「……ふぅん、キラキラ。アンタ意外と男前になってるじゃないか」
「いっ、いいから答えてくれって!」
何かに気付いたようにニヤッと笑うおばあさんと、珍しく慌てるエクトル。何かあったのかな? よくわかんないや。
「その通りだよ。良くもなってなければ悪くもなってない。現状維持さね」
「そっか。んじゃ、また定期的に見てもらえればいいか! 悪くなってないなら今はいい。な?」
焦らないように、ってことだよね。どうしてもモヤモヤしたり、痣が痛むことはあるけど前みたいに苦しくて動けなくなることはない。それだけで今は十分。
「かといって、なんにもしないでいたら結局は問題の先送りさね。アンタ、協力する気があるなら盛り上がるような状況を作ったりしたらどうだい? あぁ、アンタには酷かねぇ?」
「ぐっ、い、いや! 協力するって決めたからな! 他のヤツらとも話して何か考えておくよ」
盛り上がるような何かってなんだろう? 聞いてみると、私とマクロが二人きりになれる状況を作ったり、マクロが私を意識するような状況を作り出すのだそう。
へぇ、そんな状況なんて作れるものなんだ。……ん?
「えっ、ええっ!? そ、そんな、いいよ! あのっ、私は、別に二人きりには、な、なれなくても」
「命が惜しけりゃ黙ってな、狐っ娘!」
「は、はいぃっ!」
「くっそ、真っ赤になったミクゥもめちゃくちゃ可愛い! マクロのヤツ選ばなかったら半殺しにするっ!!」
ピシャリと言われて黙った私をよそに、エクトルとおばあさんはあれこれと相談をし始めた。あのぅ、私当事者なんですけどぉ!
でも、マクロと二人きりになるってことだよね。嬉しいよ? けど、そんなの心臓がいくつあっても足りないっ! ううう、ダメダメ。チャンスは自分で掴まなきゃ。協力してもらっているんだもん。……ああっ、でも二人きりでどうしたらいいんだろう!?
二人が話し合う中、私は一人顔に熱を感じながら頭を悩ませていた。
呪い師のおばあさんの家を出てラナキラに戻る道中、エクトルの持つ通信魔道具にウェールズからの連絡が入った。歩きながらエクトルが応答すると、どことなく焦った様子の声が私の耳にも届く。
『エクトル、キナ臭い情報をマリノが手に入れた。今ちょうどうちの店にいるからよ、すぐに来てくれねーか』
「! わかった。あ、でも今はミクゥがいるから、一度ラナキラに戻って……」
「ま、待って」
なんだか、只事ではない雰囲気……。きっと急いで行かないといけないよね。それなのに、一度ラナキラに戻っていたら時間をロスしてしまう。
かといって、エクトルのことだから私を一人で帰そうとはしないだろう。それなら、取る選択は一つ!
「私も、行っちゃダメかな?」
自分が、何かの役に立つとは思ってない。でも、今の状況で最善の選択だとは思うよ。戸惑う様子のエクトルに、私は続けて声をかけた。
「役立たずなのはわかっているの。でも、この前だって結局全部任せきりで……。話だけでも聞きたいし、小さなことでも出来ることがあったらやりたいの。私だって、ラナキラのメンバーなんだもの!」
時間を無駄にしないため、というのも理由としてあるけど、本心はこっち。せっかくなら、私も何か力になりたい!
だって、私にはたくさん協力してくれているんだもの。少しでもお返しがしたいよ。
「……わかった。じゃあ一緒に行こう」
「うん!」
エクトルはちょっとだけ悩む素振りを見せたけど、すぐに笑顔で答えてくれた。良かった。私、頑張るね!
『オーケー、わかった。だが、お嬢ちゃんにはちっとばかりショックな話かもしれねーぞ?』
そんな会話を聞いていたのだろう、通信魔道具からはウェールズの少し心配そうな声。ちょっとショックな話、か。ううん、それでも!
「大丈夫。ちゃんと受け止めてみせる!」
『ククッ、いいねぇ。そうこなくっちゃな』
じゃあ店で待ってる、という言葉を最後に通信が途切れる。魔道具越しに聞こえた声色だけで、ウェールズがニヤッと笑ってくれたのがわかった気がした。






