最後の一人、マリノ
「……あのね、アンジェラ。午前に話してくれたでしょ? 私の話。あの後、クレアから聞かせてもらったの。光の呪いの話も聞いたんだ」
部屋に到着し、ドアを開けて中に促しながら、私はアンジェラに打ち明けた。部屋の中央に荷物を置きながら、目を軽く見開いたアンジェラだったけど、すぐにそうか、と微笑んでくれる。
「私も、アンジェラみたいに自分に自信をもって、胸を張って生きたいなって思ったの。呪いのことは確かに気になるけど……でも、一日一日を大切にしたいって」
「そうだな。せっかく仲間も増えたんだ。これからなんだから楽しく過ごせるのが一番だよな」
あたしに出来ることがあったら、いつでも頼ってくれと言ってくれたアンジェラの笑顔は、私の心をまた一つ軽くしてくれた。
「ん、下りてきたわね! ちょうど最後のメンバーが来たところよ!」
アンジェラの荷物を置いて二人で一階に下りると、クレアが待ってましたとばかりに声をかけてくる。最後のメンバーが来たってことは……!
「みんな揃ったんだね!」
ついにパーティーが始まる。っと、その前にはじめましてのご挨拶をしなきゃいけない人がいるんだった。
キョロキョロと周囲を見回していると、ちょうどエクトルが二人を連れて広間にやってくるところだった。ドアを開けるエクトルの前を通ってきたのは、前にも会ったちょっと気怠げな男性、ウェールズ。私たちに向かってヘラツとした笑みを浮かべながらどーもーと片手を上げて慣れた様子で中へ入ってきた。今日はからかわれないようにしなきゃ。
そして、ウェールズに続いて入ってきたのは……なんというか、派手な印象の女性だった。
アンジェラほどではないけど背が高く感じるのは足元を飾るピンヒールのせいかな。キラキラとしたロングドレスは身体のラインがハッキリとわかるくらいぴったりとしているから、彼女のスタイルの良さがよくわかる。む、胸が零れ落ちちゃいそうでなぜか私がヒヤヒヤしちゃうほどだよ。
スカートには大きくスリットも入っているから、歩くたびに太ももが見えちゃうのも目のやり場に困る。お、同じ女性なのにドキドキするっ!
「クスッ、可愛らしい子がいるじゃないの」
どぎまぎしながら見ていたのがバレたのか、その美しい女性と目が合った。黒に水色のメッシュが入ったウェーブボブの髪と、耳元で揺れる大ぶりのピアスが歩くたびに揺れて目を奪われる。
か、完全に魅了されちゃってる、私! 顔が赤くなってる気がするもん! 思わずギュッと尻尾を抱き締める。
「初めまして。アタシはマリノ。貴女は……ミクゥちゃんかしら? あの男から聞いていたのよ。とても初心で可愛い子がいるって。会えて嬉しいわ」
「は、はひ、はじ、はじめまひてぇ……」
「み、ミクゥ、しっかりするのよ! 気持ちはすごぉくわかるけどっ!」
近付くといい香りがふわん、と漂ってもう頭がクラクラ。すごい、会っただけでのぼせちゃう人がいるなんて、世界は広いなぁ。
横からクレアの、気をしっかり持って! という声が聞こえてくるけど、ちょっと無理かも。
「あーん、もう、可愛いーっ!」
「ひゃうっ!?」
ぼんやりしていたら、突然目の前の美女が私に抱き着いてきた。身長差が少しあるから、ちょっと私の足は浮いている。
「なぁにぃ? この子。天使かしら! やぁん、尻尾も耳もふわっふわぁ!」
「あっ、ひゃっ! そ、そこは、だ、ダメで……ひゃんっ!!」
ギューッと抱き締めながら、私の耳や尻尾を触ってくるマリノ。その手つきがなんというか、慣れているというか、絶妙と言うか、どうにも恥ずかしくてくすぐったくて思わず変な声が出てしまう。やーめーてぇー!
「おい、マリノ! いい加減にしろ!」
パニックになっていると、グイッと身体が誰かに引き寄せられ、マリノの手から引きはがされた。ひー、助かったよぉ。
「ああん、可愛かったのに。王子様がきちゃったわ。ざーんねん」
王子様? そう思って自分の状況を改めて確認すると、私は今、エクトルの左腕にしっかりと抱き締められている状態だった。ひえっ。た、助けてもらえたのはありがたいけれど、ちょっと近いかなぁ……?
少し離れてもらえないかな、と思って恐る恐るエクトルの顔を見上げたんだけど……。エクトルが、今までに見たことがないくらい険しい表情をしていたから思わず息を呑んだ。
「おいマリノ、マジで気を付けねーと、エクトルはガチだぜ」
「そのようね。殺気がすごいもの。やだ、こわぁい」
そんな怖い視線を受けているというのに、マリノはどこ吹く風だ。余裕の表情でむしろエクトルをからかっているかのような口ぶり。ウェールズでさえ少し戸惑っているというのに。つ、強い。
「そんな顔しないでちょうだい、エクトル。これでも反省しているわ。あまりにも可愛かったんだもの。つい、ね。もうしないわ」
「……本当だな?」
「もちろん。アタシ、貴方たちのことは大好きだもの。可愛い子もいるし、大好きな子が増えてとてもご機嫌なのよ。嫌われるようなことはしないようにするわ」
マリノが素直にそう告げたことで、ようやくエクトルの肩の力が抜けたのがわかった。よかったぁ。せっかくのパーティーなのに、嫌な雰囲気になっちゃったら悲しいもん。
それはともかく。
「あ、あの。エクトル? その、離してもらえると、助かるな、って……」
「え? あっ、わっ! ご、ごめっ!!」
さすがに抱き締められたままなのは気恥ずかしいからね! 別にエクトルが嫌だってわけじゃないから! はー、顔が熱ぅい。






