ミクゥの精一杯
「あいつ、絶対ミクゥに惚れたよな……」
「間違いないわね。はぁ、油断も隙もないわ。ミクゥはまったく悪くはないけど! 無自覚に人をたらしこむから気が気じゃないのよ……」
無事に手続きを終えた私たち。建物の外に出るとすぐにエクトルとクレアがそんなことを話し始めた。惚れた? あの人が? そんなまさかぁ。あのくらいで恋になんか落ちないでしょ。考えすぎだよ、もう。でも……。
「なんだか、クレアとエクトルが少し仲良くなったみたいで嬉しいな」
二人ってちょっと似ているところがあるから。すぐに喧嘩するし相性が悪いのかなって最初は思ってたけど、案外似た者同士なだけで相性は良かったのかもしれないな。
「そ、そんなわけないでしょ!? 私がエクトルみたいな下心丸出し顔だけ男なんかと仲良くするわけないじゃない!」
「そうだぞ、ミクゥ! ……って、クレア? お前、俺のことそんな風に思ってたの? 普通に傷付くんだが!?」
でも、二人には否定されちゃった。それからクレア、たしかにそれは言いすぎだと思うよ?
だけどそれを聞いたリニとアンジェラはツボにハマったのかお腹を抱えて笑ってる。よくみたらマクロも肩が揺れてるからものすごく笑ってる?
「お前らが俺をどう思ってるのか、よーくわかったよ。覚えてろよ?」
それを見て、エクトルはムッとしたように腕を組んでそっぽを向いてしまった。あーあ、拗ねちゃうのも無理ないよね。でも、こういうやり取りだって仲がいいからこそだと思うんだ。多少の遠慮のない物言いも、笑って許せる。そんな関係はなんだか居心地がいいって思うし。
うーん、ちょっとだけその仲間に入りたいな。私も思い切って言ってみることにした。
「え、えっと。たしかにエクトルは、変なところがあるかもしれないけど、それでも十分カッコいいよ?」
うー、変なところがあるって言っちゃった。怒らせちゃったかな? そう思っておそるおそるエクトルを見てみたら、顔を真っ赤にさせて硬直している。えっ、そんなにショックだった!? 思わず耳と尻尾がピンと立つ。
「ご、ごめんね、エクトル! 変なところがあるなんて言って。あの、あの、嫌な気持ちにさせちゃった?」
「え、ミクゥ。今のけなしたつもりだったの? 可愛すぎじゃない? 私のミクゥってば、本当にいい子……」
慌てて声をかけてはみるものの、エクトルからの返事はない。どうしよう、と助けを求めてクレアをみたら、なんだか予想外のことを言われてしまった。え、いい子? この流れでなんでそうなったの!?
「えっ、けなしてたのかよ? めっちゃ褒めてたんじゃねぇの!?」
「ん、今のは褒め言葉」
驚いていたらリニやマクロも今のは褒め言葉だと言う。え? じゃあ、みんなからしてみたら今のは悪口じゃなくて褒め言葉だった? そっかぁ。ホッとしたよ。うん、慣れないことはするものじゃないね。
「あれが精一杯の悪口ってことかい。うーん、これは本当に天然記念物だね」
「もうっ、アンジェラまで……。でも、嫌な気持ちにさせてなくてよかった!」
アンジェラにいたっては大真面目に感心している。そこ、感心するところかな? よくわかんないけど、褒めてるんだよと言って微笑んでくれたから許しちゃう。
相変わらず顔を真っ赤にしたまま無言のエクトルが少し気にはなるけど、落ち着いたころにお詫びを言えばいいかな? さ! 今夜のご馳走の買い出しをしなくっちゃ!
あれから、エクトルとマクロは別の用事で、アンジェラは一仕事してくる、といって私たちはそれぞれバラバラに行動をすることになった。私とクレア、それからリニの三人は言うまでもなく買い物組です。
リニもエクトルたちと仕事に行かなくていいのかな? と思ったけど、お偉いさんとの会合は性に合わないとかで買い出しの荷物持ちになると申し出てくれたのだ。
「正直、荷物がかなり嵩張るだろうからリニがいてくれて助かるわ!」
「おー、力仕事なら任せとけ! それに、買い出しに付き合えば俺の好みがご馳走に反映されるかもしんねーじゃん?」
「あはは、ちゃっかりしてるわね、リニは。いいわよ、好みを聞いてあげる」
クレアの言葉にやったー! と大喜びするリニがなんだか可愛いな。クレアも、こんなに楽しみにしてくれるなら作り甲斐があるんじゃないかな。ふふっ。
「それにしても、今日は初めてマリノに会うからドキドキしちゃうな。どんな人なんだろう」
そう、仲間になるとは決まったものの、なんだかんだと都合がつかなくてまだマリノにだけは会ってない。クレアはウェールズにも会ってないんだよね。前世の知識のおかげで、どちらの人物もどんな人なのかはだいたいわかるらしいけど。
でも、エクトルが同じ転生者である可能性があったり、キャンディスの想い人が思っていた相手と違ったり、クレアの知識とは違う点も色々出てきているからその知識も信用しすぎないようにするわ、って言ってたっけ。
うん、あくまでクレアの前世の知識は、こうなる可能性があるっていう程度に思っていた方がいいよね。あんまりそれに振り回されちゃうと、考えすぎで苦しくなるもん。クレアには悩みすぎないでほしいから。
「マリノねー。んー、まぁ、変わった女って感じかな」
「仲間になった人たちの中でまともな人の方が少ないわよ」
「ははっ、言えてるな! でも、変わり者レベルで言えばキーファより上だと思うぜー?」
キーファより? な、なんだか別の意味で緊張してきたかも……!






