不思議なこの世界
アガシー先生たちの訪問はブリリアールを驚かせたが、世相を知るいい機会にもなった。第2皇子はいつの間にか国王陛下に即位されていて、王都は王宮や関係施設、貴族学校、貴族街などは大きく削られ、半分以上の面積の土地を失ったらしい。今後の指揮系統は小さな村から発信して行く予定だが、魔力は満ちたが、魔術が消えたせいで、国王陛下からの指示が上手く伝わらないらしい‥‥
「アガシー先生、国王陛下とルーツィ様は、村から隣の町まで視察に向かいましたが、エールでもいかがですか?」
アガシー先生は、魔法紙の実験に夢中がったが、『エール』と言う言葉に反応して顔をあげて、ブリリアールを見た。
「頂こう、そう言えば、あちらの村から預かった物がある。これだが、茹でると食べられる主食だ」
アガシー先生から手渡された物は、麺‥‥麺?パスタと、声が漏れそうになるが何とか止まる。
「これは、パスタと言う物で、小麦粉から出来ている。君の村でも作れるのではないか?」
「そうですか、初めて見ました。これは、生ですが、このように風魔法で乾燥させますと、日持ちしそうですね」
そして、ブリリアールはさっと乾燥させて、乾麺にして見せた。
「‥‥儂はすべての研究を失い、魔法や魔術が不要だと打ちのめされていたが、今の君の魔法でなんだか救われたよ。やはり魔法や魔術は必要だ!!」
「では、こちらもどうぞ」と、エールと美味しいサラダや干し肉も提供した。
「これは凄いな、エールも干し肉も、君の魔法で作っているのか?」
「そうです。魔法はイメージだと考えて作っています。氷魔法も使えるので樽ごと氷室に入れてますので、今の季節は特に美味しいですよね?」
「ああ、美味い。そうか‥‥やはり、魔法は必要だな。絶対に‥‥、魔術具が消滅して土地の魔力量を計る事は出来ないが、魔力持ちが増えている。この村でも同じ現象が起きているだろう?」
「わたくしは、自分の魔力も他人の魔力もわからないのです」
「‥‥そうか、魔力が多いのだな、王妃様と同じ症状だ。やはり女性特有の現象なのか?」
ブリリアールは、アガシー先生が語っている話の内容を、理解するまでに少しだけ時間がかかった。
「王妃様もわたくしと同じなのですか?では、このパスタを作ったのも王妃様ですか?」
「否、王妃様も魔力が多く、己の魔力も他人の魔力もわからなかったらしい。わかったのは前国王陛下だけだ。そして、パスタを作ったのは、魔力持ちの平民だ。芸術教室に通っていて彫刻を学び、レンガを作っている」
「平民で魔力持ち‥‥」
「平民だから君のようにすべての魔力を操る事は出来ないが、それなりに優秀な人材で、今、国の中枢は彼女の村に集まっている」
「それは凄い女性ですね」
「まぁ、女性ではないな‥‥まだ10歳の子供だ。8歳から貴族学校の入学を許されている」
アガシー先生は空になったグラスを、ブリリアールの前で揺らすので、樽からエールを注ぎながら考えている。10歳の彼女はきっと転生してきている‥‥、では、王妃様はどうなのだろうか?
エールを飲みながらも、いくつもの魔法陣を重ねては、発動させる事を繰り返しているアガシー先生をそのままにして、ブリリアールは、久しぶりのパスタ料理の為に外に出る。ブリリアール専用の庭は無事で、丁度、子供達がお世話をしていた。
「お野菜を少し多めに収穫してくれますか?」
「は~~い」と、返事をしながら全員でブリリアールのもとへ駆け寄って来た。
「ブリリアール様、あの魔獣は怖くないの?」
「う~~ん、わたくしも良くわからなけど、良く躾されているので、人を襲ったりはしないと思うわよ。怖いの?」
「‥‥‥こ、怖いくない」
どうやらワイバーン見たさにブリリアールの畑の手伝いに来ていたようで、野菜を収穫してはチラッとワイバーンを見ている姿が可愛らしい。
子供達と一緒に外で過ごしいると、ルーツィが国王陛下と共に馬車で戻って来た。行きはのんびりロバでのご出発で、本当にいいのかと思っていたが、流石に帰りはどこかで馬車を調達したようだ。
「馬だ~~!!わぁ~~い!」
ワイバーンには近づけないが、馬は平気なようで思いっきり駆け寄って行った。
「ロバはどうしたのですか?」
「交換した。オスのロバが必要だったようで、快く交換してくれた」
「馬車と?割が合わないのでは?」
「乗り手がいなくなったようだ‥‥」
「あぁ、それでは仕方ないですね」
部屋に戻るとアガシー先生は、ぐっすり眠っていて、その日の帰還は無理だと判断され、3人は2階の部屋で泊まる事になった。2階には寮から持って来たベットが1台しかない為、1階からソファをいくつか運び臨時のベットで休んだらしい。(国王陛下の事はルーツィ様に任せっぱなしだ)
◇◇◇◇◇◇
夜が明け、珍しくブリリアールは早朝からキッチンに立つ。当然だが、国王陛下がいらっしゃる為に、朝食を用意しなくてはならない。昨日の夜のパスタは非常に好評だった為に、早起きも気分がいい。
「おはよう」
「!!!びっくりしました。おはようございます。眠れましたか?」
「‥‥‥なんとか」
「ふふふ、コーヒー淹れますね」
ブリリアールは時間がかかるコーヒーを、ルーツィの為にゆっくりと用意する。ただこれだけの事がこんなにも幸せだと思える朝が、再びめぐって来たことに感謝していた。
「朝食を召し上がってから、ご出発なさいますよね?」
「ああ、すまない。連絡が入れられない為に、早めに出発するらしい」
「では、この村の美味しい朝食を用意いたしますね」
その日の朝は、大麦と具が沢山入ったスープにサラダ、新鮮な卵で作ったオムレツに特性ベーコン、国王陛下にはキャラメル入りの冷たいカフェオレをお出しして、アガシー先生には5枚の魔法紙をプレゼントし、ワイバーンと共にお見送りした。
「一緒に向かわれなくて、よろしかったのですか?」
「こちらにも移動魔法の魔法陣を設置しなくてはならない。こことホーリータウンが繋がるだけでも大きな一歩になる。成功すれば、国王陛下は主要都市に移動魔法陣の設置が可能になる」
「それは、どういう事でしょうか?」
「王宮の復興を急がなくて良くなると言う事だ。王宮でのやり取りは複雑で、無駄が多い、今は非常時なのに、昔のやり方を通そうとする貴族は必ず現れる。そのような連中の思惑にいちいち付き合っている暇はない。用事があれば陛下は直接向かわれ、土地を治める人間を選出した後は、少人数でホーリータウンへ来ることを許可する」
「大勢の従者、代官、メイド、文官は連れて来られない様にするらしい」
「随分と合理的ですね」
「村が小さいし、建物も用意できないのだよ。物は少ないが、君の家の方が立派で大きい。魔法で補強したのだろう?」
「ええ、まぁ、そうです」
「そろそろ話して貰えるか?2階の家具とか‥‥」
「どうして、魔法紙を持っていたかですね?」
「そうだ」
「いつも、持っているこの小さいカバンは収納が可能です。どの位の量を収納できるかは不明ですが、まだまだ空きがある事だけはわかります」
「その鞄の中は亜空間なのか?」
「多分そうです。あの家で暮らしている内に思いつきました。自分の身を守れる空間が欲しいと‥‥、流石に入った事はありませんが、それほど切羽詰まっていた時期があったのです」
「しかし、君が入ったら誰も取り出せないだろう?」
「ええ、幼かったのでしょう。わたくしも、少し大きくなってから気が付きました」
「でも、もしかしたら王妃様なら‥‥、亜空間にいるわたくしを引き出せるのかも‥‥と、今は考えています」




