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突然の訪問

気が付けば見知った天井だった。体を起こして辺りを見渡せばそこは勝手知った自分の部屋だということが伺えた。


一体どうしたというのかしら。

確か魔法技巧の授業を受けていたはずよ。


そう思っていたら側にいたのであろうマリーが急に「お嬢様っ!!」と叫ぶのでその声に驚いてしまった。


「どうしたのマリー。らしくないわね。」


「どうしたの、ではありませんっ!公爵様を呼んでまいります!!」


そのままバタバタといつも落ち着いているマリーらしくない慌てようで部屋を出て行った。


暫くするとお父様とお母様、リーンハルトが部屋へとやってきた。


お父様ったらいつもいらっしゃるけど、仕事の方は大丈夫なのかしら。


そんなことを思っていると以前のように心配して抱きついて来るお父様。

そしてそれを見守るお母様とリーンハルト。


(わたくし)ったらまたやってしまったようね。


ここにいるまでの間の記憶を思い起こして確信した。

原因もなんとなく察しがついている。きっと数日前に初めて殿下と言い合ったことだろう。それに案外自分は繊細だったのね、と意外な事実にも驚いた。

こんなこと今までなかったのに、どうして今になって…。


悶々とした感情が胸を埋め尽くし、まるで(わたくし)ではないよう。


いつものように覇気のない(わたくし)にお父様は何度もこんなことがあっては寿命が足りないから学校を辞めるか?と聞いてきた。お母様もそれいいわね!なんて言っているが冗談ではない。そんなことするものですか。


(わたくし)はきっぱりお断りしたけれど、今回の原因がわからないのであれば、学校は行かせられないと言われてしまった。

(わたくし)(わたくし)で言うつもりはないけれど…。全く。これだから親馬鹿は困りますのよ。

もし殿下と言い合ったことが原因なんてお父様に知られたら、きっと婚約解消させられるわね。今まで努力してきたものが全て無意味になるようなことは避けたいわ。だってあんなに頑張ったんですもの。


そんなことを思っていたら今まで黙っていたリーンハルトが口を開く。


「殿下と喧嘩したって本当?」


「なっ!…何を言ってるの?」


いつもなら察して余計なことなんて言わないリーンハルトなのに今日ばかりは違うようで、お父様に知られたくないことを言ってくる。


「イディオに聞いたんだよ。最近アイリスがおかしいって。そしたら数日前に殿下と言い合ったって。原因は最近殿下の友人になった聖女候補の女だって。」


「お、女?!まさか、殿下はアイリスがいるのに不貞を働いていると?!」


「ち、違いますわ!あれは友人だそうよ!それに仮に友人以上でも殿下が側妃を望めば、それに(わたくし)が口を出す権利なんてないのよ。」


「何を言ってるんだ!!!あるに決まっているだろう!!!」


大声でそう言ったお父様は続いてとんでもないことを言った。


「そもそもこの婚約は殿下からの打診で決まったものだ!私がアイリスが望んだ者を婚約者に据えたいと言ったら自分がそのような存在になってみせる、と!

だから渋々了承したと言うのに…っ!!」


初めて知ったその事実に(わたくし)は開いた口が塞がらなかった。

どういうことですの?!殿下から望んで婚約を結んだ??そんなの初めて知りましてよ!

それに今までそんな素振り婚約してから一度も…。


初めて知った(わたくし)と殿下の婚約の成り立ちに頭がついていかなかった。

ぐるぐると考えが纏まらない(わたくし)にリーンハルトがまたも口を開く。


「アイリスは殿下のことどう思ってるの?婚約を破棄したい?」


「…え?」


「アイリスがどうしたいのか、教えてよ。」


(わたくし)は…。」


そう問われると答えに詰まってしまう。今まで殿下を婚約者として以外に見たことなんてないし、ましてやそこに好き嫌いの感情なんてのせるべきではないと思ってきたからだ。(わたくし)の気持ちと言われても、ただ単に今までの努力が水の泡になるのは避けたいから婚約は破棄したくないくらいしか…。


(わたくし)の考えを読み取ったのか、リーンハルトがまた問いかけてくる。


「なら、殿下の側に女がいたのはどう思ったの?」


「どう…、と言われても…。」


「ムカついたり、悲しかったり、イライラしたりした?」


「そ、それはそうね…。あまりに距離が近いと、その、はしたないし…、殿下のあんな顔(わたくし)は見たことなかったもの…。」


そう言って思い起こすのは殿下とリリアンヌさんが腕を絡めていたり、耳元で囁いたりしていた時のことだ。

今でも思い出すとぎゅーっと胸が締め付けられる。


「じゃぁ、殿下がもしリリアンヌを好きだと言ったら?」


「それは…。」


殿下が望むなら、いかに(わたくし)が嫌いな相手であろうと否定することはできないのだから、受け入れるしかない。そう頭ではわかっているのに、何故か心が締め付けられて上手く息ができなくなる。

きっと倒れてしまって身体の具合が良くないのね。

なんて思っていると、お父様がギョッとした顔でおろおろし始めた。


「ふふっ。そんなに泣くくらい嫌なら殿下に素直に言えばよかったのに。本当に可愛くないなぁ。」


そう言ったのはリーンハルト。

は?泣く?誰が??


するとパタリと雫が(わたくし)の目の前のベッドシーツに落ちてきた。

どこから?と思えば、それは自分の目からこぼれ落ちている物であった。

その事実に驚きを隠せず、目を丸くしてしまうが、雫はどんどん溢れてくる。


「あーぁ。泣かせないでって言ったのに…。どうしますー??殿下?」


リーンハルトが唐突に扉に向かってそう言ったと思ったら、そろそろとドアを開けて中に入って来るのはなんと渦中のアルベイユ殿下であった。


「すまない…。」


そう申し訳なさそうに言う殿下に(わたくし)は声が出なかった。いや、(わたくし)だけでなく、お父様もだった。何故かお母様はあらあら、と微笑んでいる。


「今度はちゃーんと、話し合ってくださいよ。」


「あぁ。」


「さて!お邪魔虫は一旦消えましょうねー!」


そう言ってリーンハルトはわたわたしているお父様を無理矢理外に出そうとしており、それをお母様が手伝っていた。


いつのまにか侍女のマリーも、使用人もいなくなっており、その場に残ったのは(わたくし)と殿下のみになっていた。


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