側近候補イディオ・アデラール①
空は晴れ晴れとし、雲一つない今日は待ちに待った模擬戦の日。
そして私と負け犬さんの運命の日でもある。
まぁ100%私が勝ちますので私が計画を進められる日、ということですわね。
どうやら今回は私とアルベイユ殿下は同じブロックのようね。
悠々とトーナメント表を見ながら思っていると、割と近いところにアホンヌさんの名前があるのを見つけ、アホンヌさんが2回勝てれば私と当たるみたいだった。
お勉強はダメなアホンヌさんだけれど魔法はできるようになったのかしら。
前回不発だらけだったため瞬時に最下位となったことを思い出す。
精々頑張って頂戴ね、おバカさん。
心の中でエールを送りつつ、自分の番が来るまでの待機場所で模擬戦を観戦する。
着々と進められ、アホンヌさんが意外にも奮闘し、私と対戦することになったのだけれど、あまりにもお粗末だったので、ここでは省略させて頂きますわ。
そして、準決勝で私と殿下が当たることとなるのですが、前回同様、殿下は棄権。私が決勝へと駒を進めた。
そして、お目当ての負け犬さんも着実に駒を進めていたお陰で、決勝で勝負することができるようになった。
「よぉ。そのお綺麗な首、よーく洗って待ってたかよ。」
「うふふっ。よく洗わなくても私は常に清潔にしておりましてよ。」
「その綺麗じゃねーよっ!」
「わざとですわ。」
私の冗談にも鋭いツッコミをなされる負け犬さんが段々と可愛く思えてきて、ニコッと微笑んで差し上げる。
「…チッ。調子狂うやつだ。でもな、てめぇが吹っ掛けた賭けを忘れんなよ!」
「えぇ。重々承知しておりますわ。」
「俺が勝ったらリリアンヌに土下座しろ。そして二度とリリアンヌに歯向かうんじゃねぇ。」
「ふふっ。私が億が一にでも負ければ、ご要望通りに致しましょう。」
「桁増やしてんじゃねえーよ!」
そんなこんなレフリーが試合開始を知らせる。
負け犬さんは相変わらず先制攻撃をかましてくるようで、早速魔法を繰り出してきた。
「”ブレイズレイン”!」
なるほど。私が逃げられないように炎の雨を降らせるということですわね。
ならば本物の雨で消火して差し上げましょう。
「”ウォーターレイン”」
すると降り始めた炎の雨の上から雨が降ってくる。
まずいわ。このままでは濡れてしまうわね。シールドを張っておきましょう。
私がシールドを展開するとすぐにざぁーっ!と雨が振り、私以外のあたりは水浸しになる。
「チッ!雨を降らせただけでいい気になってんなよ!!”マグマスピア″!!」
降り頻る雨の中構わず槍のような灼熱の溶岩を構える負け犬さん。
溶岩に当たる雨がジュウジュウと湯気へと変わる。
「そんな雨じゃこの熱は冷めねぇぜっ!!」
その台詞の後、こちらに向かって勢いよく駆けて来る。
仕方がないわね。ならば、強制的に冷まして差し上げてよ。
「”フリージングタイム″」
私が指をパチンッと鳴らすと辺りは瞬時に凍りつき、降っていた雨が氷へと変わる。
負け犬さんの繰り出した溶岩もろとも濡れていた本人も凍ってしまいレフリーが慌てて彼に近づくのでもう一度パチンッと指を鳴らして凍結を解除した。
パキンッという音とともに負け犬さんと辺りの氷は砕け、氷の中から負け犬さんが出てきて膝をつく。
生存確認をしたレフリーが私の勝利を宣言したことで、模擬戦は終了となった。
そして私は医務室へと運ばれていく負け犬さんの後をゆっくりと追うのであった。
「ご機嫌よう。」
「ちょっとっ!入ってこないでよ!イディオは今安静にしなきゃいけないんだから!!」
「あら、アホンヌさん。いらしていたの?」
「あ、アホンヌって何よっ!!」
「ふふっ。…別に?」
思わせぶりに含み笑いをしてやるとキィーッと猿のように喚くアホンヌさん。
煩いったらないわね。
「それよりも少し彼と二人にしてくださる?」
「はぁ?!そんなことするわけないでしょっ!!また何かする気?!」
彼の手前だからなのか怒った表情をしつつも、どこか作り物のような顔で言うアホンヌさん。
流石殿方の前だと猫被りは一級品ね。
そんなことを思って繁々とその顔を眺めていると、ベッドからアホンヌさんを制止する声が掛かる。
「リリアンヌ。俺の心配なら大丈夫だ。
少し、コイツとサシで話をさせてくれ。」
「で、でもっ!…イディオに何かあったら…、私…っ。」
まるで魔法のように瞬時に目に涙を溜めてそう告げる彼女は実はかなり魔法が使えるのでは?と感心してしまう。
「大丈夫だ。アイツと俺は賭けをしちまってな。遅かれ早かれ話はしなくちゃならねぇんだ。」
「イディオ…っ。」
見つめ合う二人の変な空気に耐えられなくなってきたので私はさっさと切り上げて差し上げることにした。
「そういうことよ。さっさとおどきなさい。」
そう言うとギロッと私にしか見えないように睨んでくるアホンヌさん。
けれども貴女ごとき、全く怖くなくてよ。
そのままじーっと見つめ返してあげると、再度負け犬さんに振り返り、「わかったわ。でも、もし何かされたらすぐに言ってね。」とだけ言い残し、医務室から出て行った。
残された私と負け犬さんの間には静寂な空気が流れる。
そして私がそれを破った。
「貴方、賭けのことは覚えているようね。」
「あぁ。男に二言はねぇ。何でも言え。」
「そう。ならば貴方、私の…
弟子におなりなさい。
その脆弱な魔法を鍛え直して差し上げてよ。」
そう華麗に宣言する私の顔をあんぐりと口を開け、何とも間抜けな顔で見てくる負け犬さん。
ダメね。弟子にするなら負け犬さんでは格好がつかないわ。
「貴方名前は?私の弟子になるのなら自分を誇示なさい。」
なおも黙ったまま見つめてくる彼に痺れを切らした私は彼のでこにデコピンをかまして差し上げる。
「いっっ!!!」
不意打ちだったからか情けなくも声をあげるので呆れてしまいますわ。
「聞いておりますの?」
「聞いてるよっ!ただあまりにも突拍子もないことだったから聞き間違えかと思ったんだよっ!」
「あら?もう一度言った方が宜しくて?」
「言わなくていい!
…だいたい、なんでそんな、…弟子…とか…。」
口籠る彼に段々とイライラしてきたので少々荒く言葉を吐き捨てる。
「もごもごと、男らしく無いわね。私が貴方を殿下に相応しい側近となれるように鍛えて差し上げると言っているのよ。これ以上の恩情はなくってよ。それとも何?このまま私より弱いまま王族の近衞騎士にでもなれると思っているの?だとしたら笑い草ね。」
「思ってねぇよっ!!思って…ねぇっ!」
矢継ぎ早に捲し立てる私に対し、両手を力一杯握り締め、悔しそうに顔を歪めなが言葉を発する。
それを見てまだまだ向上心はあるようね、と確信した。
「ならばすべきことはわかっているでしょう。」
「…チッ。気にくわねぇがお前の腕は確かだ。
やってやるよ弟子でも何でも。強くなれるならな。」
「えぇ。必ず貴方を強くして差し上げますわ。」
「俺はイディオ。イディオ・アデラール。
アルベイユ殿下の唯一無二にして最強の騎士になる男だ。」
「これから宜しく。イディオ。」
こうしてお互いほくそ笑みながら誓いの握手を交わした。




