増える観察対象
アルベイユ殿下の側近候補である負け犬さんと模擬戦で賭けをする約束を取り付けた私は次なる作戦を考えていた。
負け犬さんは直情型だから力技で何とかなるけれど、あの眼鏡のもう一方はどうすればいいのかしら。
自分の部屋であれやこれや考えてみるが、いかんせんまっっっったく興味が無かったので彼の人のことは殿下の側近候補ということしか知らず、とりつく島もない。
眼鏡だから頭がいいのかしら。
だけど、筆記試験での上位に入っていたかすら覚えていない。何せ私より上に名前が上がるのはリーンハルトとアルベイユ殿下くらいですもの。
困ったわ。兎に角フェリシアさんのいうように相手を知るために暫くはあの恐ろしい計画を企てているコワインヌさんと共に観察するしかなさそうね。
こうして次の日から私の観察対象が増えることとなった。
登校してすぐに運が良いことにコワインヌさんを発見した。そのままこっそりついて行くと、行き先はなんと図書室。
まぁ!お勉強でもなさるのかしら。いいことね。
頭のできがイマイチなので、努力は大切ですわね。
なんて思っていたら本棚の奥の少し狭目の読書スペースに入って行く。
するとそこにはまさかの側近候補の眼鏡さんの姿が。
眼鏡さんも図書室にいたようで二人は会うなりとても親密に話し始めた。
「今日は何の本を読んでいるの?」
「あぁ。イディオのための作戦を考えるために魔法書を改めて読み直しているんだ。」
「そっか。アイリス様には可哀想だけど負けて貰わないとね。」
「本当に。アレが次期王子妃など信じられん。」
「ふふっ!言い過ぎよリュネット。きっとアイリス様は寂しいだけなんだから。」
「リリアンヌは優しいな。」
「そんなこと…。」
「いや、優しいさ。誰にでもそんなに優しいと妬いてしまう。」
「リュネット…。」
そうして見つめ合う二人。
…なんの茶番を見せられているのやら。
勉強する気がないなら違うところでおやりなさいよ。
まぁ、それでも私に勝つための算段を立てているのなら、ここで盗み聞きするのはよくないわね。
そう思って私はひっそりとその場を離れた。
そして昼休み。
またもコワインヌさんを探しにうろうろしていると、今度は園庭で私の弟のリーンハルトと何かを話しているところを発見した。
「ねぇ…。お願い…っ!私、どうしてもアイリス様と仲良くなりたいの!だからアイリス様の苦手なこと教えてっ!」
うるうると目に涙を溜めて両の掌を組んで懇願するコワインヌさん。
それに対して顔が少し赤くなるリーンハルト。
あら、これはもしかして可愛い仕草とやらでは?
思わぬ成果に今度実践してみましょう、と頭の中でインプットしていく。
その間にも二人の会話は進むので聞き耳を立てる。
「ゔーん。そう言われても…。」
「何でもいいの!苦手な魔法でも、食べ物でも…。例えば虫が苦手とか!」
「逆に聞くけど何で仲良くなるのに好きな物じゃなくて苦手なものを知りたがるの?」
「えっ?!…と、それは。アレよ!苦手なものが一緒だと共感できで距離も縮まりやすいじゃないっ!」
「そーお?」
「そうよ!だって苦手なのは自分だけじゃないんだって安心するでしょう?同性だと特に!」
「うーん…。そっかぁ。」
「そうよ!」
これはなんのやりとりなのかしら。
私はコワインヌさんと仲良くするつもりなんて毛頭ないのだけれど…。
と、いうかここで姉を売ろうものならリーンハルトは躾し直さないといけないわね。きっちりと。
「あ!そう言えば!」
「何?!なに??」
「前に言ってたんだけど。」
「うんうん!」
「苦手なものは必ず克服するから私に欠点はないって言ってたよ。」
「…な、…なに、それ…。」
「ふふっ。こんな事せずに、まずはリリアンヌから話しかけてあげればいいんじゃないか?きっと喜ぶよ!」
「ゔっ…。そ、そおね。」
完璧なまでの解答をするリーンハルトに満足するも、どうやらコワインヌさんは不服なようで顔をひくつかせていた。
あら、お得意の猫被りが取れかけていてよ。
すると丁度そこにアルベイユ殿下と眼鏡さんもやってきて合流した。
「アルベイユ様ぁ!遅かったですねぇ。先生はなんと?」
すると早速猫を被り直したコワインヌさんが猫撫で声でアルベイユ殿下に話しかける。
「いや…。そうだな。この際だから確認しておくが俺たちは友人だ。それ以上でも以下でもない。そうだろう?」
「えっ…。突然何ですか…?」
「いや、友人として言うのだが…、その…。」
「何ですか?勿体ぶっちゃって!」
そういう拍子にアルベイユ殿下の腕に両腕絡めるコワインヌさん。
まぁ…。またもなんてはしたないのでしょう。
殿下を見るとそれに対してなんと顔を赤らめているではないか。
………。殿方は破廉恥なのがお好きということなのかしら…。
アルベイユ殿下を見る目が冷ややかになっていたその時、殿下は思わぬことを言い出した。
「前も言ったが、それはやめてくれ。その、君は友人だが女性でもあるんだ。こんな…、」
後半はもごもご言っていてなんて言ったのかは聞き取れなかったけれど、一応拒絶はしているのね。一応。
でも振り払ったりしないところから満更でもないのかしら。
なんとも言えない心境になりながらもやり取りを観察していたら、脱線してしまった話を戻すためにアルベイユ殿下が咳払いを一つして再度話し始める。
「ゴホンッ…。えっと、つまりだな。俺が言いたいのはリリーの苦手なところは協力して俺とリュネットで教えるから次回の試験はもう少し頑張ろうと言うことだ。」
…………………ブフッ!
っっっっあっははははははは!!!!!!
だっっ、だめよっ!!ぶっ…!笑ってはっ!!!
堪えるのよアイリスっっっ!
盗み見しているのが気づかれてしまうわっっ!!
ふっ!でも、っっっ!!これ、はっ!!!
チラリとコワインヌさんを見ると思いもよらない言葉に唖然として真っ白になっている。
それもそうよね!
だってまさか先生からの呼び出しが自分の成績のことだったなんてっ!!!!
そんなコワインヌさんを眼鏡さんもアルベイユ殿下も可哀想な子を見る目で見ていて余計に笑いが出てしまう。
ちなみにリーンハルトは私と同様、笑いを堪えようとしているのかしゃがんで俯いているけれどその背中は物凄く震えて、時折「ぶっ…!」とか聞こえるので確実に笑っているわね。
これ以上は私が耐えられな…、いえ、アホンヌさんが可哀想ですので、退散してあげるとしまょう。
こうしてこの日は真っ白になったまま授業を受けるアホンヌさんに笑いを死に物狂いで堪えながら終わった。




