久しぶりの登校
やっと療養期間が終わり、お父様から学園へ通う許可が降りたので今日から復学することに。
久方ぶりの学園は相変わらず生徒たちで雑踏していた。
教室に入るとざわざわしていた筈なのに何故か静まり返り、生徒の視線を浴びる。
「アイリス様。もうお怪我は宜しいのですか?」
一人の令嬢が話しかけてくるので、いつものように答える。
「えぇ。もうすっかり。」
「それは良かったですわ。何せ大怪我をされて死の淵を彷徨っているとの噂でしたから。ご無事でなによりです。」
「誰がそんな…。」
あの程度で私が死ぬばすがないでしょう。
もしかして長く休みすぎたからかしら。
「それにしても仲の悪いと噂のお二人でしたのに…。私達に知られないのように隠されていたなんて。なんてロマンチック!お二人の秘匿された熱愛ラブロマンスが今学園を賑わせておりますのよ!」
「…は?」
「アイリス様を心配して一目散に駆けていく殿下はそれはそれは素敵で、気を失ったアイリス様をまるで守るように抱いて歩く姿は正に物語の王子様そのものでしたのよ!そこにお二人の真のお姿を見ましたの!」
そううっとりと話す令嬢の言葉が信じられなかった。
ど、どど、どういうことになっているの?!
教室に入って皆から浴びていた視線はそう言う目で見ていたということ?!
熱愛?ラブロマンス??
頭がついていかないわ…!!
兎に角否定しなければ!
「ち、違いますわ!あれはただの救助で他意はありません!」
「うふふっ!恥ずかしがらなくてもクラス中の誰もが知っておりますのよ。
あんなに血相を変えて慌てる殿下は初めてみましたのよ!あんな顔をさせるのはアイリス様だけですわ。」
あの殿下が本当に?私のことで?
…でも確かにあの時の殿下は泥だらけだったわ。
まるで急いで駆け付けたみたいに…。
そこで忘れかけていたアルベイユ殿下の逞しい胸の感触を思い出してしまい、顔に熱が集まってくるのがわかった。
私はその顔を見られたくなくて、その令嬢に軽く挨拶をしてプイ、とそっぽを向いて足早にその場を離れる。
その令嬢が「あら…。」と微笑むのを見ることなく。
急いで中庭まだ来ると、火照った顔を涼ませるように手で仰ぐがなかなか冷めない。
こうなったら休んでいた間できなかった可愛い仕草の観察でもして気を紛らわせましょう。
さて、リリアナさんはどちらにいらっしゃるかしら。
始業を知らせる鐘がなるまでまだ時間があるので、リリアナさんを探していると渡り廊下で私が叩きのめした側近候補の方とは別の方と話しているのを見つけた。
何かを褒めているようで時折、「すごいですぅー!」と言う声が聞こえる。その度にその側近候補の方は照れてメガネをクイッと押し上げていた。
なるほど、相手を褒めるときは顎に両拳を当たるといいのね。
早速試してみましようか。
そして今度はユリウス殿下を探すべく校舎を彷徨くがなかなか見つからない。
もう自分のクラスに居るのかと思って上級学年のクラスまで行ったのに、さっきまでは居たけど今はいない、なんて。全く、手が掛かりますこと。
それから中庭の方へ戻ろうとしていると、途中でアルベイユ殿下にばったり出会した。
「…あ、」
会ったらお礼を言おうと思っていたのに、いざとなるとあの時のことを思い出して言葉が出てこない。
ぱくぱくと口を開閉させる私を見て、アルベイユ殿下はふっ、と笑う。
「もう元気そうだな。安心した。」
微笑んで言うその顔に不本意にも心臓がドキドキと脈打つ。
なんなの?心臓の病気かしら。
しかしこのままでは格好がつかないので咳払いを一つして切り替えることにした。
「んんっ。…先日は、ありがとうございました。
お陰様で私はご覧の通りピンピンしておりますわ。
けれども今後は私への心配よりも御自身の身を案じて下さいまし。」
そう言うとアルベイユ殿下はははっ!と笑い出す。
な、何事かしら。
「ちゃんといつものアイリスだな。」
そう微笑まれるとせっかく冷めた熱がまたぶり返してきてしまう。
だけど、それをアルベイユ殿下に知られるのは御免だわ。
プイッと顔を背ける。
「ん?どうした?…顔が赤い気がするがまだ本調子じゃないのか?」
私の気持ちを知らずに顔を覗き込もうとしてくるのでさっさと退散することにしましょう。
「わ、私、用事がありますのでこれで失礼します。」
アルベイユ殿下に一礼して、身を翻し、早速さとその場を離れる。
…危なかったわね。
もう少しで殿下に醜態を晒すところだったわ。
兎に角気を取り直して折角見つけた可愛いを早く見てもらいましょう!
それからまた、ユリウス殿下を探しに行こうとしたが、無情にも始業することを知らせる鐘がなってしまった。
昼食を取り合えると気分転換に温室にでも行こうかとしていると、バッタリとエディ様に出会した。
「あら、エディ様。ご機嫌よう。何故貴方がここにいますの?」
「あぁ。アイリスか。昨日ぶりだな。」
エディ様の後ろには白衣を着た研究員らしき男性が2人。私に微笑んだエディ様を見て目をギョッとさせていた。
まぁ私も初めはこんなに笑うような方だとは思いませんでしたのでその気持ちわかりますわ。
「それで?何故ここにいるのですか?」
「あぁ。ただ魔法薬に使うための薬草を少し分けて貰っていただけだ。」
「それで学校に?研究機関にも温室はありますでしょう?」
「今日の目当ての薬草がちょうど切らしていたらしくてな。こっちにならあると言われて来ただけだ。
学校でも私に会えるのはそんなに嬉しいか。」
「誰もそんなこと言っておりませんが。」
ツンッと言う私を見てニヤニヤとするエディ様。なんだかまた子ども扱いされているようで腹立たしいわね。
ジロリと睨むもエディ様はどこ吹く風で側に居た研究員に催促されていた。
「すまないアイリス。もう少し構ってやりたいが急がなければいけないようなので、これで失礼するよ。
また、時間が取れる時に連絡する。」
そう言ってエディ様はぽんぽん、と私の頭を子どもをあやすように撫でるとそのまま去っていった。
本当に食えない方だわ。
そしてここは学校で、いくら人の行き来の少ない温室への渡り廊下だと言っても人目はあるわけで、見られていることには気づいていたけれど私は全く気にせず、そのまま昼休みが終わるまで温室で過ごした。




