意外なきっかけでできる初めての友達
昼休憩も終わり、教室へと戻ろうとした時、温室に何故か私の観察対象であるリルアンヌさんが目の前に息を切らしてやってきた。
まさか走って来たのかしら。はしたないわね。
「どうしてあなたがエデュラス様と話しているの?!」
唐突にそう叫ばれて、思わず顔を顰めてしまう。
「私が誰と話そうが貴女には関係のないことではなくって?」
「普段なら私だって別に気にしないけど、このイベントは私に起こる筈だったのよ!!」
は?イベント?
「何を仰っているの?今日はなんの催しも無くってよ。」
「違うわよ!エデュラス様に学園で会うこと!!」
そんなこと言われても私だって好きで会ったわけではなく、本当にたまたま偶然出会したというだけに過ぎないのに。
「それがなんだって言うのよ。」
あまりに頓珍漢なことを言われて意味がわからなくなる。
「あなた、エデュラス様推しなの?」
は?おし?
またしても意味がわからなくて黙っていると、何を感じ取ったのかそのまま捲し立てられた。
「でも、残念ね!私も本命はエデュラス様なの!だから必死で全ルートコンプ目指してんだからストーリーを変えようとするのは辞めてくれる?そういうのズルって言うのよ!!」
全ルート?こんぷ?
わからない単語で意味がわからないことを捲し立てられることほど腹が立つことってないわね。
要はエディ様が好きだから手を出すな、と言いたいのね。
「そんなにエディ様を思っているのなら他の殿方と仲良くせずエディ様だけを慕っておればよかったのではなくって?御自分が行動しなかった結果を私のせいにされても困りますわ。」
「なっ!!何言ってんの!!貴女がこのゲームのシナリオをめちゃくちゃにしてるんじゃないの!!貴女は悪役令嬢なんだからキャラに徹しなさいよ!!!」
げーむ?シナリオ?悪役令嬢??きゃら???
この方本当に頭がおかしかったのね。
こんな人が聖女になっては国が滅びるわ。
そう吐き捨てると、身を翻してどすどすと帰っていくリルアンヌさんの背中に訝しげな視線を送ることしかできなかった。
それから教室に帰ると、朝話しかけてきた令嬢と共にクラスの女子たちが一斉に私に詰め寄って来た。
なんなのかしら…。今日は厄日ね。
「あの!彼の方とお知り合いなんですか?!」
「どこでお知り合いに?!」
「どんな話をされていたのですか?!」
普段なら絶対に話しかけて来ないのに、朝にあの令嬢と普通に会話をしていたことでとっつき易いと思われたのかしら。
それにしても彼の方とはどなた?
「失礼ですけど、彼の方とはどなたのこと?」
その質問に朝話しかけてきた令嬢が答えてくれる。
「華氷の君のことですわ。」
…華氷の君?誰?
そんな名前の方と話した記憶はありませんが。
「どなたですか?私はそのような方と話した覚えはありません。」
「え?!でもあれはアイリス様でしたわよね?」
「そうですわ。見間違うはずありませんもの。」
私が答えた途端ざわざわと騒ぎ始める周囲。
何なのかしら。
少々不快に思って眉間に皺が寄ってしまう。
「ふふふっ。きっとアイリス様はご存知ないのよ。
私達が言っている華氷の君は、先程アイリス様が温室へ行く渡り廊下でお話をされていた、宮廷筆頭魔法使いのエデュラス・フォンギアス様のことですの。」
それを聞いて目が点になる。
「えっと、その華氷の君、というのは…?」
「それは、フォンギアス様の誰にも氷のように冷たい態度と、氷のなかの華のように美しい美貌からその名がついたと言われておりますわ。」
エディ様がそんな二つ名で呼ばれていたことも、こんなにクラスの女子から慕われていることも、初めて知った。
なんともまぁ、ピッタリな二つ名ですこと。
確かにあの美しさであれば令嬢の噂の的になるであろうとは思っていましたが、そんな二つ名までついているなんて…。
ふふふふふふふっ!可笑しいったらないわね!
「華氷の君はこの学園だけでなく、全ての貴族令嬢の憧れの存在なので、皆様アイリス様との関係を知りたがっている、というわけですわ。」
「なるほど。そういうことだったのね。
でもごめんなさい。そんな探るようなほどのものではありませんわ。ただ私の魔法の家庭教師をしてくださっているだけに過ぎませんので。」
やましい事もないので正直に言うとまたもざわっ!と囁かれる。
そんなに気になるのなら御自分たちも教えて貰えればいいのでは?と、思ったが相手は筆頭魔法使い。おいそれと家庭教師など頼むことはできないか、と思い直した。
まぁ私は筆頭公爵令嬢であり、父は宰相なので、きっとお父様が無理にお願いしたんだろうけど。
そんなことを思っているとざわざわとした中から聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「絶対に誰かのお世話を焼くような方ではないのに…。」
「アイリス様だけは特別、ということかしら。」
「それってなんだか…。」
「誤解のないように言っておきますが、教師と生徒というだけの間柄以上のものはありませんわよ。」
ジロリ、と囁いていた令嬢たちの方を見て言うとヒッ、と声をあげて黙る。
なら最初からそんな話をしないで欲しいわね。
「そうですわ。皆様。私たちの先生方と同じでただの教師と生徒というだけなのですから、あまり失礼なことを言うものではありませんよ。」
朝から話しかけて来た令嬢が嗜めると皆、黙り込む。
この方、なかなか素晴らしいわね。
「貴女お名前は?」
こんなにクラスを掌握しているなんて、かなり使える令嬢だわ。
「私ですか?」
「えぇそうよ。申し訳ないのだけれど、私興味のある方の名前しか覚えていないの。だけど貴女はとても面白い。是非教えて下さらない?」
「あ…。ふふっ!えぇ。では、改めまして、私、フェリシア・ルーズベルトと申します。」
「そう。フェリシアさんね。これからよろしく。」
「こちらこそよろしくお願い致しますわ。」
それから私とフェリシアさんはよく話すようになり、可愛くなるための相談をするほど仲良くなるのだけれど、それは今はまだ先の話で私にきちんと友人と呼べる存在ができたことに私が一番驚いたのは言うまでもないわね。




