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それぞれの違う結末

「レイラ、とっても綺麗だったわ。

とっても幸せそうな花嫁だった……」


友人の結婚式に出席していた妹が僕に言った。


「そうか……彼女が幸せになれて、

 本当に良かったよ」


妹の友人は、僕の元婚約者だった。


「兄さん……」



そう。

僕は彼女を沢山傷つけてしまったから。


その分まで彼女を幸せにしてくれる人が

現れてくれて本当に良かった。


これは本心だ。


でもある時一瞬だけ、


………せめてあの再婚約の王命が、

もう少し早く下知されていたら……


なんて身勝手な考えを抱いてしまった事は

僕は墓場まで持っていくつもりだ……。




◇◇◇◇◇



「ミス・クレマン」


ブノワ男爵家から魔法省に戻ったわたしに声を

かけて来たのは、

かつてワルターと共にマリオン=コナーに魅了を

掛けられたもう一人の人物、

ロラン=スミスさんだった。


彼とは先日、新しく魔法大臣に就任した

モーガン公爵が訪省された時が初対面だった。


スミスさんはワルターからの手紙と

彼が今、とある家に潜入している事を教えてくれた。

怪我もなく、疲れた様子もなく、元気にしているとの事だった。


「ありがとうございます。もうかれこれ2ヶ月会えてないので心配していたんです。だから元気だと聞けて良かったです」


わたしがそう言うと、

スミスさんはじっとわたしの顔を見つめてきた。


「どうかされましたか?」


スミスさんは無意識だったのだろう。

急に我に返った様子でわたしに謝ってきた。


「あ、すみません。

ブライスは幸せな奴だなぁと思って……」


「?」


わたしが不思議そうな表情をしていたのだろう、

スミスさんは少し困ったように話し出された。


「ミス・クレマンはあの再婚約の王命が僕とブライスの二名だけに下されたものだとご存知ですか?」


「え、全員に下知が下りたのではなかったのですか?」


「あれは、当時王太子だったモーガン公爵に

苦言を呈したが為に魅了に掛けられた僕たちだけに、モーガン公爵が父王に頼んで下して貰ったものだそうです。

他の者はもともと下心があったりした者も大勢いましたし……ね」


「そうだったんですね」


「あの……一つお聞きしてもいいですか?」


スミスさんは少し言い辛そうに逡巡してから

わたしにそう言った。


「なんでしょうか?」


「ミス・クレマンは…その……、婚約破棄後も

他の者と婚約や交際をしなかったのは、ブライスを想い続けていたからなのですか?」


「え……」


想い続けた……。


他者との婚約や交際は相手が居なかったから

しなかっただけであって、別にワルターに

操を立てていたとかそういうものじゃない。


でも忘れようとして結局はワルターへの想いが

残り続けていたのもまた確かで……。


わたしはどう返答したらよいものか思案した。


考え込むわたしの様子を見て、

スミスさんは言った。


「やっぱりブライスは幸せな奴だ。

そんなにも真剣に考えてくれる貴女がいてくれて。ミス・クレマンは魔術学校には通われてなかったんですよね?」


「ええ。

わたしは家庭教師に教わっていましたから」


「……僕の元婚約者は、同じ魔術学校に通っていました。だから僕がマリオン=コナーの虜になってる姿を(つぶさ)に目の当たりにしていたんです。だから僕が婚約破棄を言い渡すと、すぐに退学して去って行きました……」


「っそれは……」


キツイ。


わたしだって、他の女に夢中になってる

ワルターを見たら心がズタズタに引き裂かれて

耐えられなかったと思う。


スミスさんの元婚約者さんも

そうだったのかもしれない。


これは……

信頼関係が根底から崩れてしまうだろう。


そして、魅了に掛かっていたから仕方ない、

では片付けられない。

決して許す事の出来ない記憶となっただろう。


わたしは多分、いや間違いなく、

マリオン=コナーと一緒にいる時のワルターを

見ていないから彼ともう一度やり直そうと

思えたんだ。


そうでなかったらきっと……。



「ス、スミスさんの再婚約は……?


あっごめんなさい、わたしったら不躾に、

答えて下さらなくて結構ですからっ、

ではお手紙をありがとうございました、

これで失礼しますっ……」


わたしは不用意に口にしてしまった言葉に

後悔した。


わたしがさっきの質問をした時、

スミスさんはとても悲しそうな顔をされたのだ。

それだけでもう答えがわかってしまうほどに。


きっとスミスさんの元婚約者さんは

もう他の人と……。


わたし達にも、もしかしたらそういう未来も

あったのかもしれない。


同じ状況にいた者が

ほんの小さな違いの積み重ねで、こんなにも

結果が違うのだ。


わたしがもし、魔術学校に通っていたら。


もし、スミスさんの元婚約者が

魔術学校に通っていなかったら。



そう考えると今のこの状態が奇跡のように感じた。


彼に会いたい。

ワルターに。

どうか、どうか無事に帰って来てほしい。



わたしは急ぎ足で自分のデスクに戻り、

ワルターからの手紙を読んだ。


手紙には、

仕事先で不審な出来事に遭っても

決して首を突っ込むなとか、

全て上に報告するだけにしろとか、

危ないと思ったらすぐに逃げろとか、


仕事に関する注意書きみたいなものだった。

いきなり手紙を寄越したかと思えばこんな感じなんて……。


仮にも(仮じゃないか)婚約者に向けての

手紙なんだからもっと甘い言葉を綴ってくれてもいいのに!

……いやそれはそれでわたしが耐えられないか。

わたしは辛党なのだ。


まぁこんな内容でもワルターのからの

手紙は純粋に嬉しかったけど。


でもなんで突然こんな手紙を寄越して

来たんだろう?




そんなこんなで日々は過ぎ、


とうとうブノワ男爵家の魔力継承の儀の当日となった。


ブノワ男爵家の背の高い家庭教師についての

上の判断はそのまま放置して問題なし、だった。


ホントにいいのだろうか。

だって明らかに怪しいのに……。


とくにあの目、あの目が気になって仕方ない。

どこかで見た事があるような無いような……。


魔力、魔術関連の指名手配の姿絵で見たのかもと思い、調べて見たけど該当する人物は見受けられなかった。


もしかして変身魔術?


一度怪しいと思ったらとことん怪しく

感じてしまう。


今日も絶対に彼女から目を離さないようにしよう。


そう決意しながら、

わたしはブノワ男爵家のチャイムを鳴らした。






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