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あの時の記憶(クリストフ=モーガン視点)②

卒業後にマリオン=コナーを王宮魔術騎士団に

入れて近衛に配属すれば公の場でもプライベートな時でも誰憚る事なくいつでも会える……

アーロンがその提案をした時、僕は彼を天才だと思った。


()()婚約者のいる時点で、

彼女を特別に城に上げるわけにはいかないが、近衛なら問題ない、なんて素晴らしいアイデアなんだ!…とその時の僕はそう思ったのを覚えている。


そうやって僕はアーロンを側近に据え、

同じく魅了に掛けられていたワルターとスミスを王宮騎士団に入れ、近衛にするよう指示をした。


が、何故かその時ワルターは正規に魔術騎士の

適性検査を受けると言ったのだ。


わざわざそんな苦労をしなくても、

僕のひと声でどうとでもなるのに何故だ?

訳を聞いても本人にもわからないらしい。

でも何故かそうしなければならない、そんな気がすると言っていたのを覚えている。


まぁワルターなら間違いなく合格するだろう。

もし万が一落ちたとしても僕がなんとかすればいい。

とにかくマリオン=コナーがスミスとワルターも

側に置いて欲しいと強請るものだから、なんとしてもそうなるように手配せねばとその時の僕は本気でそう思っていた。


結果、ワルターは見事合格。

僕が引き上げたスミスと共に近衛に任命してマリオン=コナーと共に側に置いた。


城に帰れば婚約者のシュザンヌとは2年ぶりの

再会となる。


シュザンヌは魔術学校に通っていない。

僕の婚約者に決まってからは王妃教育の為に

城通いをしていたからだ。


今になって思えばシュザンヌは本当は

魔術学校に通いたかったんだろうな……。


そんな望みも僕は彼女から奪っていたというのに

僕は城でシュザンヌに逢おうともしなかった。


マリオン=コナーが嫌がったからだ。

政務で忙しい、視察で忙しい、

なんらかの理由を付けてシュザンヌを避けていた。


当然彼女の方は僕の異変に気付いていただろう。

王宮でも王太子の心変わりの噂が飛び交っていたらしいから……。


でもシュザンヌはもちろん、

ベイリー公爵家からはなんの干渉もなかった。

アーロンが水面下で何かしていたのだろう。


だけど突然

アーロンが急な病に倒れ、

療養のために出仕できなくなったとの連絡が

ベイリー公爵家から入った。


マリオン=コナーにせがまれ、

アーロンがいきなり登城しなくなった訳を

調べたが、ベイリー公爵家の鉄壁の守りは固く、

なんの情報も得られなかった。


思えばその事がマリオン=コナーを

焦らせたのかもしれない。


国王(父上)も卒業後の僕の様子を目の当たりにして何やら不審に思われていたようだし、王宮魔術師たちの

動きも気になる。


マリオン=コナーにしてみれば確固たる己の立場が欲しかったのだろう。

僕に次の夜会でシュザンヌに婚約破棄を堂々と告げて、そして自分を妃にして欲しいと乞われた。

そうしてくれたら、その夜会の夜に僕と()()()()()良いと言ったのだ。


そして僕はほいほいとその願いを聞き、

王城で開催された夜会にてシュザンヌに婚約破棄を言い渡した。


婚約を破棄する事を告げたその時、

シュザンヌが小さな声で「やった…」

と言ったのを見た僕は、急になんとも

言えない感情になった。

その感情がなんなのか分からない。それが余計に焦燥感を募らせる。

僕は狼狽えた。

が、次の瞬間には大勢の王宮魔術師と

魔術騎士たちが押し寄せて来て、

僕やマリオン=コナー、そして僕の後ろに控えていたワルターとスミスを取り押さえた。


術式によりすぐに眠らされたのでその後の事はよくわからないが、

どうやらそのまま解術作業に入ったようだ。


解術中は苦しくて、とにかく苦しくて何度も

意識を失ってはまた取り戻す、を繰り返していた。


王宮魔術師の話によると、

僕の解術作業はわりと簡単だったそうだ。


あれでか?あんなに苦しかったのに!?


魅了にすんなり掛かり、その後も一度も抵抗する事がなかったのが()()したのか、魔力の侵食は浅かったそうなのだ。

それはそれでなんとも情けない……。


スミスも同様。

しかしワルターは最低でも二度、魅了の術に抗った痕跡が見つかったという。

本人も気付いていないだろう位の痕跡だが、その為に一層しがみ付くようにワルターの心理の内側にまで魔力が侵食していたらしい。


ワルターの解術は困難を極めた。

その所為でようやく解術出来たというのにワルターの意識は戻らなかった。


でも、もしかしからワルターはこのまま意識が

戻らない方が幸せなのではないだろうか、

魅了が解けた後の僕はふとそんな事を思った。


だって目が覚めても、

待っているのは絶望だけだと身をもって知ったから。


僕もひと月ほど昏睡し、目が覚めた時には全てを

失っていた。


好きで好きで堪らなかった婚約者も、

幼い頃から共に成長した友人も、

父上の跡を継いで立派な王になるという夢も。


こうなった以上、僕に次の王は務まらない。


王位継承権を返上して臣籍に降りると父上に

告げ、弟に王太子としての引き継ぎを行った。


体調も戻り

シュザンヌへの謝罪の為にベイリー公爵家を

訪ねたが、シュザンヌには一瞬しか会わせて貰えなかった。

シュザンヌに謝罪すると彼女は小さく、

「謝罪を受け入れます」とだけ告げて去って行った。

彼女は僕に対して恋情は抱いてなかったとしても、

王妃教育のために長い年月を拘束し、大勢の人間の前で貶めた事は本当なら許せるものではなかったのだろう。


今思えばこの時には既に、一度は諦めかけた夢に向けて動き出していたのかもしれない。

だから復縁を迫られたら困ると思って、一瞬しか会って貰えなかったのだと思う。


そしてもう一つのベイリー公爵家への

訪問の理由、アーロンがその後どうなったのかを対応してくれた公爵に尋ねた。


アーロンの魅了解術はすでに終えたという。

しかし問題はアーロンの心だという。


マリオン=コナーは

数度に渡る裁判の末に、処刑された。

その報せを聞いてからアーロンの精神状態がおかしくなったと言うのだ。


アーロンは本当にマリオン=コナーを愛していた。

だから彼女を失った瞬間に心が壊れた。


虚な目は何も写さず、家族にすら言葉を発しない。

今は領地に戻り、療養しているという。


僕の所為だ。


僕が最初にマリオン=コナーに声をかけなければ。


アーロンが僕の側にいなければ。


僕がワルターの人生も、

スミスの人生も狂わせた。



これからの僕の人生は迷惑をかけた人達への

贖罪の日々となるだろう。


当然だ。



やはり目を覚ました後のワルターは

見ていられなかった。


失ったものの大きさに

一時は生きる気力を無くしていた。


婚約者を失い、

マリオン=コナーの望みを優先させて、父親の葬儀にも出なかったのだ。


しかも弟から

元婚約者が二度と顔を見せるな、第三者を立てるのも、手紙を書くのも何もしてくれるな、と強く要望されたと聞いたからだ。


そのくせ諦めきれずに元婚約者の周りを気付かれないようにウロウロしていた。


見ていられなかった。


非常識だとわかっていても、

ワルターが婚約者に会いに行けるきっかけを

作りたかった。


それが僕に出来る唯一の罪滅ぼしと

思ったから……。


父上に頼み込み、

非常識極まりない王命を出して貰った事により

ワルターの婚約者がどう思うかは僕にはわからない。

会った事も話した事もないのだから。


弟経由であんな事を告げるくらいなのだから

怒ってるかもしれないな……。


確か魔法省に勤めてるんだったよな。


魔法省か……とそんな事を考えていた時に

報せを受ける。


シュザンヌが魔法省の法務局の局長に

就任する事が決まったと。


シュザンヌのたっての願いを父上が

承諾したらしい。


良かったな、シュザンヌ。

魔法の仕事が出来るじゃないか。


いや、でも待てよ。

現魔法大臣は男尊女卑の最たる輩だ。


女は家にいるべきで、

外で男に紛れて働くなど言語道断、そう言って

憚らないような男だ。


そんな者の下にいて、彼女はのびのびと働く事が出来るのか?


いや、無理だろう。


決めた。

父上に頼むのはこれが最後だ。

無報酬でもいい。個人資産運用で収入は得られる。

無報酬でいいから、シュザンヌのやりたい事を、

彼女の夢を守りたい。


二度と交わる事のない人生でも、

間接的にでも彼女を守りたい。


その思いだけで魔法大臣に就いた。



それならばと

僕が大臣のポストに就いている間に

片付けたい事案がある。


奴らがいては

後々に魔法省にまで害が及ぶかもしれない。


いや魔法、魔術が関係している以上、

魔法省の管轄となる。


それによりもしシュザンヌの身に危険が迫るような事はあってはならない。


その事をワルターとスミスに告げると、

二人とも尽力すると誓ってくれた。


ワルターは奇跡が起こって再婚約が結べた彼女が

魔法省に勤務しているのだ。

最善を尽くし、必ず奴らを叩くと言っていた。


マリオン=コナーに魅了魔術を売りつけ、

魔力や禁術の術式の売買にも手を染める組織。

それを潰す事は僕のたちの宿命だ。


奴らの壊滅無くして、

魔法省で働く彼女たちの安全は守れない。



今日はその事を話すために

魔法省へと足を運んだわけなのだが……



ど、どうしよう。

緊張してきた。


シュザンヌとは一瞬の謝罪以来だ。


しつこい男がやって来たと思われるかもしれない。

いや、十中八九思ってるだろうな……。


こ、怖い……これ以上嫌われるのが怖いっ!



そしてとうとう、


馬車は魔法省に着いてしまった。



安全の確認のために

先にワルターが馬車から降りる。


その後に一拍置いて馬車を降りると、


そこには変わらず美しい笑みを浮かべて、

今や法務局局長となった元婚約者が立っていた。






















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― 新着の感想 ―
[良い点] ・元王太子とワルター、意外にメンデル弱い(笑) [一言] 禁術の魅了、恐ろしいですね。 関わったひとびとの人生を壊しまくりで。
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