第34話「田舎は人の噂で10年持たせる」
【前回までのあらすじ】
お姉ちゃんのバカ、もう知らない!
□エルフの村3丁目□
プリン「はぁ、はぁ……あの子、一体どこへ行ったの?」
???「あら、リンちゃん?どうしたの、朝早くからそんなに急いで」
プリン「あ、アナタは……」
プリン「噂好きの隣のおばさん!」
隣おば「噂は聞いているわ。森外で人間の男の人と結婚したんだって?」
プリン「やっぱりもう噂は広まっちゃってたか……おばさん、それ誤解なんでスよ」
隣おば「そうなの?じゃあ、大商人の御曹司と大恋愛の末に駆け落ちして、追手から逃げるように世界各地を転々としていたけど、ついに男の子を拵えちゃって、逃げるようにこの村に帰ってきたっていうのも……違うの?」
プリン「事実無根でス。新しい話が作られちゃってるじゃないでスか……」
隣おば「そうなの?リンちゃんと仲が良かったミーちゃんから聞いたから……ミーちゃんには後で言っておくわね」
プリン「なるほど、アイツか」
隣おば「あら、ゴブリンみたいな顔になってるわよ?」
プリン「いや、なんでも無いでス。ところで、私の妹を見ませんでシた?」
隣おば「ルンちゃんのこと?それなら、さっきそこの角を曲がっていったわよ?」
プリン「あ、そうなんでスね!ありがとうございます!」
隣おば「なあに?またルンちゃんが怒られて家出したの?」
プリン「まぁ、そんなとこでス……それじゃあ、ここら辺で」
隣おば「はいはい、それじゃ急がないとね。あの子、リンちゃんに会えること、すごく楽しみにしていたみたいだから」
プリン「え?そうなんスか?」
隣おば「だって、あの子が生まれた時、アナタもう森外に出てたじゃない?だからなのか、すごい憧れてるらしいって、ミーちゃんが」
プリン「……ふぅん」
プリン「あ、そうだ。この後ミーちゃんに会うなら、一つ伝言いいスか?」
隣おば「いいわよ?ちょうどこれからパンを貰いに行くところだから。どういう伝言?」
プリン「『覚悟しとけよ?』」
□エルフの村8丁目□
プリン「ここまで来ても居ない……あの子、一体どこまで行ったの?」
???「あらアナタ、リンちゃんじゃない。どうしたの」
プリン「あ、アナタは……」
プリン「"男女の噂が三度の飯"おばさん!」
飯おば「噂は聞いているわ。森外で人間の男を手篭めにしてきたんだって?」
プリン「だから誤解だって!そして柔らかい表現を心がけろ!」
飯おば「恥ずかしがらなくてもいいわよ。人間の男なんてね、アンタくらい若いエルフがちょいと■■■■の陰から×××を垣間見せれば、簡単に籠絡出来んだから」
プリン「おい、そのオブラートの下に何隠してんだ?」
飯おば「しかし、アンタが人間の男なんて意外だね。あたしゃてっきりハーフリングとかレプラコーンあたりを狙ってるもんだと思ってたよ」
プリン「いや、だから店長とはそんな……」
プリン「……なんで、そう思ったんスか?」
飯おば「だってアンタちっちゃい男の子が好きなんだろ?」
プリン「……ソンナコトナイデすヨ?」
飯おば「ありゃ、あたしの見当違いだったかね?けどアンタ、昔小さい子の面倒をよく見てくれてただろ?」
プリン「えぇ、まぁ……村の仕事の一環でスけど」
飯おば「その時のアンタの目が獲物を狙……プリン「あ!あー!!そういえば私、妹のルンちゃんを探してるんでスよ!家から逃げちゃって……おばさん、見ました!!?」
飯おば「ルン?そういや、さっき中央広場の方に走ってくのを見たね」
プリン「ありがとうございます!それじゃ私はこれで!!」
飯おば「あいあい。どうせあの子がまたランさんに悪戯でもしたんだろう?ちゃんと叱ってやんなよ」
プリン「叱る?」
飯おば「そら、妹が悪さしたなら姉が叱ってやんなきゃ」
プリン「……まぁ、そうスね」
飯おば「あ、そうだ。手篭めにしたのはあの黒髪の坊……ありゃ、行っちまった」
□エルフの村中央広場□
プリン「はぁ、はぁ。広場に来ても、どこにも居ない……つーか、これだけ村を走り回るとか、子どもの体力やべぇ」
???「あれ、そこに居るのは、リンか?」
プリン「あ、アナタは……」
プリン「噂話の時だけ聴力が良くなる耳を持つ長老!」
婆長老「都合の悪い話は聞こえんのでな」
プリン「都合のいい耳でスね」
婆長老「ところで、村で君等夫婦の挙式をしようと思っとるんだが……」
プリン「まるで峠を攻めてるような話の持っていき方」
プリン「長老、それウソです。ウチはまだ誰とも契ってません」
婆長老「ほっほ、心配せんでもよい。確かに最近の若い子らは結婚式など要らぬと言うが、あれはあれでいいもんじゃ。ズルズルと関係を続けるより、いい『契機』があったほうが夫婦も長続きしやすいというもんじゃで」
プリン「話を聞けよ」
婆長老「それにな、そういう式を挙げるとなると、酒を飲めるでな。結婚式の日は狩りも中止じゃでな、男連中も村に戻ってきて皆で馬鹿騒ぎじゃ」
プリン「ヒトの結婚を酒盛りの言い訳に使うな」
婆長老「いやいや、これはお主の家のためでもあるのじゃ」
プリン「そうなの?」
婆長老「家庭に久しぶりに亭主が帰ってくるじゃろ?」
プリン「うん」
婆長老「お酒も入って夫婦の気分も良くなるじゃろ?」
プリン「うん」
婆長老「宿屋が儲かる」
プリン「老婆とか関係なくぶっ飛ばしてやろうか」
婆長老「そんな楽しい結婚式を明日にでも……おっとこれはサプライズの予定じゃった」
プリン「分かりました。今日中に村を出ていけばいいってことスね」
プリン「ところで、ルンを見ませんでシた?なんか、家出しちゃって」
婆長老「『ところで』からの話の展開がヘアピンカーブじゃのう」
プリン「ウチの話聞こえてたんじゃねぇかよ」
婆長老「ルンなら、大樹の方に居ったぞ」
プリン「まさか知っているとは」
婆長老「すごく寂しそうな顔をしておった。何があったかは知らんが、早う行ってやるといい」
プリン「あぁ、はい……ありがとうございます。そうですね、急がなきゃ」
婆長老「あと、お主の父親が見知らぬ男と二人で、酒場の前で死にかけとった」
婆長老「二日酔いで苦しそうな顔をしておった。早う行ってやると……」
プリン「アイツらはそんなのじゃ死なないので大丈夫でス」
婆長老「……信頼が厚いのう」
□大樹□
ルン「…………」
ルン「はぁ、何やってるんだろ。せっかく、お姉ちゃんと会えたのに……」
ルン「……私、嫌われちゃったかな」ぐすっ
???「はぁ、はぁ……やっと見つけた」
ルン「……あ!」
ルン「お姉ちゃん!」
プリン「結局、村中探し回ったちゃった……はぁ」
プリン「さ、家に帰るよ。"ルン"」
Tips49:噂好きの隣のおばさん(隣おば)……趣味が井戸端会議な普遍的なおばさん。精神はおばさんだが、見た目は黒髪ロングの美しーいエルフである。しかし、それが作中で活かされることはない。
Tips50:"男女の噂が三度の飯"おばさん(飯おば)……男女の噂話をエネルギーに変換する高等魔法により、食事が不要になったという噂のあるおばさん。好きな食べ物はキノコ。心は場末のスナックに居るようなスレたおばさんだが、見た目は金髪の美女エルフ。だからどうというということはない。
Tips51:噂話の時だけ聴力が良くなる耳を持つ長老(婆長老)……政治家にとっての重要スキルを持つ老婆。基本的に人の話を聞いていないが、それが年齢からくるボケなのかワザとなのかは闇の中。こちらも例のごとく、心はクソババア、見た目は銀髪狐耳のじゃロリだが、それももうどうでもいいことなのである。