第33話「喧嘩するほど仲がいい」
【前回までのあらすじ】
酔っ払いのおっさん同士が酒場で騒いでいただけです。
朝、懐かしい部屋の懐かしいベッドの上で目が覚める。
プリン「……なんか、あんま眠れなかったな」
ふと、隣に眠っているショタに目を落とす。宗聖寺のリゾートホテル暮らし以降、同じベッドで寝ることが当たり前になっている。いい傾向だ。
ショタ「...zzZ...zzZ」
ショタの頬を指でぷにぷに押す。彼の頬はマーガレットさんのパンみたいな柔らかさで、触れると指が幸せになるのだ。この一押しで今日も一日頑張れる。無論、ショタ自身は私のこの日課の事を知らない。
プリン「ふふっ」
私が毎朝の幸せを享受していると、部屋の扉が不意に開いた──
ルン「お姉ちゃん、おはよーー!!」
プリン「わ、朝から元気。びっくりしたぁ」
ルン「あれ?お姉ちゃん、その子と一緒に寝てたんだ」
プリン「うん。一緒に旅をしてるし、子どもを一人にする訳にもいかないしね」
ルン「ふふ、仲がいいんだね……なんだか、姉弟みたい」
私は、二人を見てそう感想をつぶやいた彼女の微笑みが、どこか寂しさを帯びていることに気がついた。
プリン「どうしたの?」
だが、私が違和感を口にすると、彼女はすぐに表情を取り繕った。
ルン「うぅん、なんでもない」
プリン「それ何かある人のごまかし方。何があったの?母さんに怒られた?」
ルン「お父さんじゃあるまいし……あ、そうだ。お父さんと旅人さん、昨日の夜から帰ってきてないみたいだけど、お姉ちゃん知ってる?」
プリン「何やってんだアイツら」
ルン「お父さんはおいといて、お母さんが旅人さんの分の朝食を用意するかどうかで迷ってるんだって」
プリン「あー、要らない要らない。どうせどっかで酔い潰れてるだけだから」
ルン「そうなの?じゃあ、お母さんにそう言っとくね」
プリン「……ねぇ、ちょっと」
そそくさと部屋から出ようと扉に手をかけた彼女を呼び止める。彼女は自分に何かを隠し事をしているような気がする。それが何なのかは、分からないから。
プリン「ホントに何もないのね?」
私が訊ねると、彼女はぴくりと肩を震わせた。「"ちょっと"じゃ、ないでしょ?」。私に背を向けたまま、彼女は角張ったような声を上げた。
プリン「え?」
ルン「"ちょっと"じゃない!私には"ルン"って名前があるの!」
彼女は私を振り返らないので、その表情を確かめる事はできない。だが、その身体は震え、声は怒気を含んでいる。
ルン「なんでお姉ちゃん……お姉ちゃんなのに、私のこと名前で呼んでくれないの!?」感情の昂りを抑え切られなくなったのか、彼女はそう言うと、勢いよく部屋を飛び出した。
プリン「ちょ、待!え?」
ちょっとルン!廊下走らないの!>
って、どこ行くの!朝ごはんは!?>
要らない!>
プリン「え?何これ、私?」
部屋に取り残された私は、ただ呆然としていた。彼女は、姉である私の他人行儀な態度に怒っているという事は分かったのだが、それが自身の問題であると受け止めるのには、寝起きであるという事を加味すれば、少し時間が必要だった。あぁ、こんな状況なのにショタは幸せそうに寝息を立てている。いたずらに少し強めに頬を押してみる。
すると、今度は母が部屋に入ってきた。呆れたような、心配しているような表情で、彼女は私に訊ねた。
母「ちょっとリン、なんかルンがグズってお外行っちゃったんだけど?アンタ達、何かあったの?」
まさか、名前をちゃんと呼ばなかったらキレられた、とは言えない。いや、言ってもいいのだが、言えば確実に「お姉ちゃんなんだから」的な理不尽な理由で怒られるし、説明も面倒だ。低血圧気味人の寝起きの頭の回転数の低さをなめてはいけない。
プリン「……はぁ。しょうがないな」ベッドから立ち上がり、まだ眠っているショタのお髪を撫ぜる。
プリン「母さん。朝ごはん、私と店長の分はいいから。ルンちゃんのこと、呼び戻してくる」
母「なに、姉妹喧嘩でもしたの?」
プリン「……うぅん、なんでもない」




