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第31話「酒場で取引」

【前回までのあらすじ】

親が娘を解雇して下さいとか言ってきた。

□ハオマの酒場(バー)



  男「へぇ、大樹の(うろ)に酒場か。なかなか、趣があるな」



  父「そうだろう?この村唯一の酒場だ。狩りに疲れたエルフの男たちの憩いの場さ」



 プリンの父であるロンがどこか自慢気に笑うと、入り口の鈴がカラカラと音を立てた。



???「いらっしゃい。あれ、ルンちゃんのお父さん。久しぶりね。そちらの方は?」



  父「娘から聞いただろう?旅人の男だ」



???「あぁ……たしかお姉さんの」



 酒場に入った二人をカウンターから出迎えたのは、とても若々しい見た目のエルフだった。



  男「おいおい、エルフの村はこんな夜遅くまで"子ども"を働かせてんのか?」



???「あら、こう見えても年齢はアナタよりも上よ。それに、"子ども"を働かせてるのはアナタも同じでしょ?」



 アイ「"ホッドッ"屋の店長さん?」



  男「お、もう俺の看板を知ってんのか。やっぱり小さな村だと話が出回るのが早いな?」



 アイ「残念。アナタの弟子の男の子に聞いたの」彼女はクスクスと笑うと、二人を席へ案内する。



  父「この子はこの酒場のマスターの末娘でな。たまに勉強(・・)でカウンターに立ってるんだ」



  男「なるほど。男の憩いの場だっつうから辛気臭い場所を想像してたが、こりゃ華があっていい。マスターの娘っつうことは、腕もいいんだろ?」



  父「まだ"ごっこ遊び"だな」



 アイ「修行中と言ってほしいわ」彼女は子供らしく少し頬を膨らませると、二人の前にグラスをそっと置いた。中には、酒と思わしき琥珀色の液体が注がれている。



  男「これは?」



 アイ「この村で造ってるお酒。村の名前と同じで『ハオマ』っていうの。人間さんには度がキツいかもしれないけれど。この店の最初の一杯はコレだと決まっているの」



  父「心配ない。この男はこの前にうちのワインを一人で2瓶空にしている」



  男「僕は素面なんですけど、実は美味しい酒って酔わないんですよ」



 アイ「あら、酔っ払いみたいなこと言うのね」



  男「素面なんですけど」





 アイ「……それじゃ、二人はお話があるみたいだから、私は他の人相手にしてるね。何かあったら言って」



  父「悪いな」



  男「あら残念。行っちゃうのね。こんなおっさんと私を二人きりにして」



  父「アンタも大概だろう」



  男「まだ三十路ですぅ!アナタの娘さんより200歳年下ですぅ!」



  父「ぐ……娘を馬鹿にする気か?」



  男「いや。そんなこたぁ無いスけど。事実を言ったまでで」



  父「……」



  男「なんすか。そんな思案中のドワーフみたいな顔して」



  父「はぁ。なんだって娘は、アンタみたいな男の下で働こうなんて思ったんだろうな」



  男「時給じゃないスか?」



  父「茶化さないでくれ。本題は家で触れた話の続きだ」



  男「プリンちゃんを解雇するって奴?絶対に嫌なんですけど」



  父「急くな。理由はあるんだ。それを聞いてから判断して欲しい」



  男「……まぁ、そうですね」



  父「ありがとう」



  父「自分が、こんなことを頼むのは、一重(ひとえ)に娘の幸せの為だ」



  男「ん?確か、ランさんも似たようなこと言ってましたよね。エルフは森の中で暮らすのが一番の幸せだとかなんとか。それだったら、俺の答えはプリンちゃんと同じですけど」



  父「いいや、少し違う。アンタさっき、娘が恋をしていると言ったな。相手が誰だとは答えなかったが」



  男「ええ」



  父「相手は人間だろう?」



  男「知ってたんですか?」



  父「……惚れた人間の背中を追って、森を抜けるエルフの話はごまんとある。神話から噂話までな」



  父「だがな、人間とエルフの恋や愛は、決して長続きしないと相場は決まっているんだ。大抵は、悲劇的な結末に終わる」



  男「何故?」



  父「エルフと人間では、根本的に生きる時間が違う。人間など百年生きれば万々歳だが、エルフは平然と千まで生きる」



  父「……たとえ、森を出たエルフの念願が叶っても、彼女の幸せは数十年しか続かない。愛する者が居なくなった後も、エルフはその後に途方も無い時間を、悲しみや空しさと共に過ごすことなる」



  男「そう考えると……悲しい話ですね」



  父「他人事だが、アンタにも関係のある話だぞ?」



  男「俺?いやいや、だから俺はプリンちゃんとはそういう関係じゃ……」



  父「一緒に旅をしているんだろう?」



  父「仕事の付き合いとは言っていたが、長いこと共に旅をしていると、また別の絆みたいなモンが生まれるんだ」



  男「絆、ねぇ。あるかしら」



  父「帰ってきた娘を見ていたが、随分とアンタを信頼しているようだったぞ?……解せんが」



  男「え?そうなの?」



  父「うむ。長年狩りをしていると、物事の機微に敏感になるのだ」



  父「しかし、さっきの酒の席では驚いた。まさかリンがあんなに良い笑顔を見せるようになるとはな。昔は、無愛想な娘だったのだが……アイちゃん、おかわり頂戴」



                                 ハーイ>



  男「あぁ……なるほど」



  男「……練習したしな」



  父「……ん?どうした?」



  男「いや、なんでも」



  男「しかし、まぁ言いたいことはなんとなく分かりました。つまりは、人間の俺達と一緒に居ても、寿命から考えればプリンちゃんは少しの間しか幸せになれないから、それなら同じエルフが住む村に居るほうがずっと幸せで居られる……つー話ですか」



  男「……あぁ、なるほど。それで解雇ですか。解雇すれば、プリンちゃんが一緒に旅についてくる理由が一つ消えますもんね」



  父「話が早くて助かる」



  父「私も明日、娘をもう一度説得してみるつもりだ。だから、頼む」



  男「娘の幸せを考えるなら……ってことスねぇ」



  父「あぁ、そうだ。娘の幸せのため……頼む!」



  男「まぁ、嫌ですけど」



  父「……えっ!?」

当然の一言──ッ!

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