表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

終章-夜明け-朝

 夜が明けた。

 窓から差し込む日差しを瞼に感じ、純は爽やかな朝を迎えた。

 何事もなく進んでいく日常。

 あれから、まだ1週間しか経っていない。

 戒十とはあの日以来、会っていない。

 最後に会ったのは、完成したワクチンを届けに来た日だった。それによって純は救われた。

 そして、戻ってきた日常。

 心に穴が開いてしまった日常。

 あのままキャットピープルになっていれば、ずっと戒十といられたかもしれない。けど、それを戒十は望んでいない。だから純は人間として精一杯生きることにした。

 ぼーっとしながら純は学校の仕度をしようとして、ふと気づいた。

 そうだ、今日から夏休みだった。

 窓の外を眺めると、とても爽やかで好い天気。

 外の空気が吸いたくなった純は、すぐに服を着替えて出かけることにした。

 マンションの外に出た純は思わず笑ってしまった。

 真夏なのに真っ黒なコートを着て、サングラスを掛けた長身の男性が立っていた。

 純はその男に笑いながら声をかける。

「まるで変質者みたいですよ」

「久しぶりだな、純」

 そこにいたのはシンだった。

 シンは戒十がワクチンを届けに来たときも姿を見せなかった。

 そのことを尋ねると、シンは集中治療室に入っていたとのだと答えた。そういえば、シンには片腕がなかった。重症を負ったのだと純は思った。

 二人は歩きながらいろいろと話をした。

 最後に戒十に会ったとき、戒十はワクチンだけを渡して姿を消してしまった。

 純は訊きたいことがたくさんあった。それを訊く権利も純はあるはずだ。

 そして、純は大よその話をシンから聞いた。

 その話にクイーンという単語は一切出てこなかった。

 ただ、もうすべて片付いた。それだけははっきりと断言した。

 純がリサはどうしたのかと尋ねると、急にシンは黙ってしまった。

 シンは純にこう話した。

「カオルコに止めを刺したリサは、カオルコと共に屋上から落ちた。その後、地上で心臓に刀を刺したカオルコの屍体が見つかったのだが……リサの姿はどこにもなかった」

 それ以来、リサの姿は見た者はいない――と。

 純はシンがすべてを話していないことはわかっていた。けれど、そこまで詳しく知りたいわけでもなかった。

 最後に純はこう尋ねた。

「戒十くんは元気ですか?」

 シンはにっこり笑って答えた。

 それだけ純は十分だった。それが聞ければ満足だった。

 そして、シンは純に短く別れを告げて消えた。

 本当に風のように消えてしまった。

 純は爽やかな陽を浴びながら、嬉しくて顔が緩んでしまった。

 にこにこしながら、家に帰ろうと歩き出したとき、ふと視線を感じて振り返った。

 誰もいなかった。

 不思議な顔をして純は、しばらくそこに立ち尽くしていたが、急に笑顔になって歩き出した。

 純の夜は明けたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ