おなやみそうだん?
探索者協会と集落の皆と何度か話し合いを持って。探索者協会に短期バイトの求人を貼ることになった。
ダンジョン一般解放から一か月ちょっと経って、探索者さん達のストレスが溜まってきていたことと。ダンジョンと日常の落差の切り替えが上手く行っていない探索者さんが多かったこと。そして集落に娯楽らしい娯楽がなかったことから、探索者協会さんの方も乗り気だった。
「気分転換にどうですか?」
探索者協会さんは、明らかにストレスが溜まっている探索者さんに、そう言って集落の短期バイトを紹介する、っていう形だ。
それは畑の草引きだったり。食堂の皿洗いだったり。果樹園の剪定した枝集めだったり。まあ、基本的に単純作業の時給も安い仕事だ。だけれど、これが中々良いらしい。
探索者協会さん曰く、この短期バイトの紹介を始めてから探索者さんの負傷率が激減したとか。お陰で、集落側でこの案を持ってきた人達が感謝された。
けれどまあ、私達集落側も助かっているからいいんだけどね。
「いやー、助かるよ」
私は、バイトに来てくれた長瀬さんに麦茶のコップを出しつつお礼を言う。
「いえ、こちらこそ」
縁側に座っていた長瀬さんはそう言って麦茶を受け取り、美味しそうに飲み干した。
長瀬さんは集落の探索者としては珍しい女性の方で『だんそん』を借りている方なんだけれど。目に見えてストレスが溜まっていて、表情が固かったから、ちょっと気になっていたのだ。
だけれど今日、栗農園の草刈りをしてもらったら、その表情もかなり柔らかいものになっている。
「もう一杯どう?」
「いえ……、はい、お願いします」
ピッチャーで長瀬さんの持つコップに並々とお茶を入れる。長瀬さんはコップを両手で持ち、ゆっくりと飲みつつ、話し始めた。
「私、元は小さな会社の事務員だったんですよ」
「へー。それが何で探索者に?」
と、聞いて欲しそうだったのと、興味があったので尋ねる。
「いや、仕事がブラック過ぎて。月百時間残業とかザラなのに、その残業代出なかったりしてたんですよね」
「月百時間て過労死ライン越えてるじゃないですか……」
「ええまあ」
長瀬さんは苦笑しつつ、続ける。
「で、いい加減嫌になってた時に、探索者の応募があったので、受けてみたら受かって。ならやってみようかな、って」
「なるほど。で、実際ダンジョン潜ってみて、どんな感じです?」
「どんな感じ? ……んー、研修期間に潜ったダンジョンなんかは、殺意向けてくるモンスターなんかもいてキツかったんですけど。ここのダンジョンは、別のキツさがあってしんどいですね」
「別のキツさ?」
このダンジョンってしんどいような要素あったっけ?
「ええ。ここのダンジョンのモンスターは、基本的に攻撃してこないんですけど。攻撃すると反撃してくるんで、気が抜けないんですよね。普段私『スリープシープ』の毛刈りやってるんですけど、特製のバリカンで毛刈りするんですけど、そのスリープシープが気持ち良いように刈れないと、蹴られるんですよね」
「蹴られる」
「しかもスリープシープって結構強いモンスターだから、その蹴りで人間の手足くらい千切れちゃうから、本当気が抜けなくて」
「ひえぇ」
ビビった風をよそおいつつ、内心は納得していた。スリープシープの蹴りだったら、確かに低レベルの人間の手足くらい、簡単に千切れてしまう。
「でも、スリープシープの毛、って、すんごい高いんですよ。だからお金欲しかったらスリープシープの毛刈りが一番効率良くて」
「んー」
私は唸って、言った。
「そんなに無理して稼がなくて良くないですか?」
すると長瀬さんは、目をぱちくりと見開く。
「え、でも……」
「なんか自衛隊さん曰く『このダンジョンは『氾濫』起こさないタイプ』らしいですし。それに一層で『なんとかヨシ』刈ってるだけでそこそこ儲かる、って聞いたよ?」
「『タゴヤシヨシ』ですね。一キロ百円で買い取って貰えますね」
「そうそう『タゴヤシヨシ』」
あれ、扱いとしては泥炭と同じオブジェクトなのに。結構な値段が付いていてびっくりした覚えが。
「探索者は体が資本なんだし、怪我したら一大事なんだし。無理して稼いで、それこそ手足がなくなったら駄目でしょ? だから無理する必要ないよね?」
長瀬さんは頭を整理するよう、チビリと麦茶を飲む。
私としても、このダンジョンの中で怪我されたら寝覚め悪いし。無理無茶無謀はして欲しくない。
長瀬さんはしばらく、チビリチビリと麦茶を飲んで。飲み干して、うんと頷いて言った。
「それもそうですね。ちょっと焦っていたかもしれません。ありがとうございます」
「いえいえどういたしまして」
(しっかし、そんな無理する必要ないのに、何で探索者さん達は無理するんだろ?)
私は悩む。
(このダンジョンですらこれなんだから、他のダンジョンだと、もっと状況酷そうだよねえ)
あんまり怪我人出ないといいなあ。この時の私は、その程度にしか思っていなかった。




