まっさかり
暑い日差しに土と草のモワッとした空気が漂う。
夏真っ盛りの暑さに慣れたのか、集落の子供達は外に出て鬼ごっこやら虫取りやら、野菜の収穫やらを楽しんでいる。
本当はゲームがしたいらしいけれど、新しいゲーム機もゲームも作られていないし、給電制限もあってゲーム機を中々動かせないらしい。少し涼しくなれば、クーラーが使う電力も減って好きなだけゲーム出来るようになるだろう。
集落の大人はダンジョンで涼みつつ働き、集中が切れたら畑仕事。
ジジババは楽しそうに田畑の管理。育てた野菜が育てた分だけ「美味しい!」と食べてもらえるから、気合いが入っているのだ。
ジジババが楽しんで田畑を弄れているのには、他にも理由がある。
最も大きな理由は、肥料の心配がなくなったこと。
窒素はタゴヤシヨシから。カリウムやミネラル分はタゴヤシヨシや大豆の鞘等を燃やした灰から。それぞれ得られていたので、残る問題はリン酸質肥料だけだった。
そんな中で自衛隊の探索班が『豊穣の森』の八十四層に到達し、大量のバッドグアノを持ち帰ってきたので、とうとう肥料の心配がなくなったのだ。
現実のバッドグアノは、鍾乳洞にて蝙蝠の糞や死骸が積み重なったものがほぼ化石化するほどに完熟したものだ。完熟する前のモノだと様々な病気の元になることから、日本での使用は敬遠されていた。
けれど『豊穣の森』はダンジョンで、八十四層のバッドグアノは当然完熟しており、おまけに時間が経てば掘った分だけ湧いて出てくる。
元々日本はリン酸質肥料の産出地に乏しいこともあって、ちゃんと備蓄もされていたんだけれど。このダンジョン騒ぎで食料を自給する必要に駆られ、農地が増えたことで、リン酸質肥料は枯渇していた。魚肥? 海にもモンスターがいるのに、漁は無理だよ。
肥料が不足すれば、野菜も果物も穀物もまともに育たない。農地を増やしたせいで、かえって農業生産量は減少してしまったのだ。
ただでさえカロリーベースでの食料自給率の低い日本。ダンジョンモンスターの肉を料理しつつ、その骨を肥料にすることで数年は凌げる予測だったけれど、その予測も、その先も怪しかった。
そんな絶望的な状況で見つかった、膨大なバッドグアノの採取ポイントは大きなニュースとして新聞に取り上げられていた。
当然国もバッドグアノ採取のため、『豊穣の森』探索に当たる探索者や自衛官を増員しようとする。
増員した人員が寝泊まりする場所を確保するために、山をひとつ、南に超えたところの、更に山深いところにあった元集落の再開発が行われていて。
元集落の再建に当たる人員のために、自衛隊が集落の野菜を山ほど買っていくこともあって、ジジババは田畑弄りが楽しくて仕方ないのだ。
例年なら豊作過ぎて捨てるほどの量の野菜が片っ端から売れて。その上直に感謝されるのだから、張り切るのも当然の話だよねえ。
なお、ジジババの熱意に押されて、私の家庭菜園ほどの畑の管理も、彼ら彼女らに任せる形になっている。
栗園の方は、木の調子を見つつ一番しんどい下草刈りは探索者協会にお任せしている。というのも。
「あー。癒されるー」
長瀬さんが蕩けている。
「確かに癒されますねえ」
「でしょー」
ウンウンと頷く私たちの視線の先では、栗の木の下でスリープシープが草をモシャモシャと食べていた。
「いやー。『商人』ジョブしか成れるのがなかったからなったんですけど。こんな風にモンスターと触れ合えるなんて、最っ高」
言葉まで蕩けてきている長瀬さんに何だか心配になる。そんなにストレス抱えてたんだ。
「モンスターと【契約】結ぶなんて、よく思い付きましたねえ」
何度目かの感心を口にすると、長瀬さんは答えてくれた。
「いやー、ね? なんとなーく出来そうだなー、って思ってやってみたら、ワタアメと【契約】出来ちゃったんですよー」
「なるほどねー」
『なんとなく出来そう』というのは、スキル行使に必須の感覚だ。とはいえ、その感覚に身をゆだねるのは常識やらプライドやらが邪魔して難しい。
『モンスターとの【契約】』なんて大変なことをすんなりと出来たのは、長瀬さんの才能と言えるだろう。
「メェ~」
ワタアメと名付けられたスリープシープは、嬉しそうに草を食べている。太陽の光を浴びて伸びている草は、ダンジョンの草とは味が違ったりするのだろう。
『豊穣の森』のモンスターと長瀬さんが【契約】出来たことに、探索者は歓喜に踊っている。モンスターを連れて探索するのは『ロマン』なんだとか。
実際、ジョブ持ち中レベルの人間よりも力持ちで頑丈なモンスターと共に探索するのは、探索時の安全性の向上や稼ぎの増加に繋がる。
そのため、探索者協会も『モンスターとの【契約】』を推進しており。その一環として、モンスターの餌を格安で確保するために、果樹園や公園の草刈り事業を始めたのだ。
お陰で栗園の雑草刈りの手間が省けて、本当に、本っ当に助かっている。
「たくさん食べるんだよー」
声をかけると、ワタアメは嬉しそうに鳴いた。




